
【直感で書き始める】ミシェル・フランコ監督単独取材『あの歌を憶えている』

2025年2月21日公開の『あの歌を憶えている』にてミシェル・フランコ監督に取材させていただいた。忘れたい記憶を抱える女と忘れたくない記憶を失っていく男が出会い、互いに支えあいながら希望を見いだしていく姿を優しいまなざしでつづったヒューマンドラマ。作品を撮る上での考え方や、病を患う人への想い・意識について聞いた。(取材:はじめ・U子/文:はじめ)
■作品概要
ジェシカ・チャステインがシルヴィア、ピーター・サースガードがソールを演じ、2023年・第80回ヴェネチア国際映画祭にてサースガードがボルピ杯(最優秀男優賞)を受賞。テレビドラマ「ゴッドレス 神の消えた町」のメリット・ウェヴァー、「サスペリア」のジェシカ・ハーパーが共演。「或る終焉」「ニューオーダー」などで知られるメキシコの俊英ミシェル・フランコが監督・脚本を手がけた。
■あらすじ
世間を恐れていたふたりの心の殻は、ゆっくりと溶けていくー
ソーシャルワーカーとして働き、13歳の娘とNYで暮らすシルヴィア。若年性認知症による記憶障害を抱えるソール。それまで接点もなかったそんなふたりが、高校の同窓会で出会う。家族に頼まれ、ソールの面倒を見るようになるシルヴィアだったが、穏やかで優しい人柄と、抗えない運命を与えられた哀しみに触れる中で、彼に惹かれていく。だが、彼女もまた過去の傷を秘めていた──。
はじめ:本作のタイトルは”Memory(メモリー)”ですが、妄想やお酒の依存、認知症がフォーカスされています。本作を撮ろうと思ったキッカケは。
ミシェル監督:まず、観ていただきありがとうございます。私は映画を考えたり、脚本を書き始めている時にはそのような“テーマ”は考えません。テーマは決めずに、直感で書き始めます。本作の場合は“男性と女性が同窓会で出会い、なぜか彼は彼女のあとをついていき、一晩彼女の家の外で過ごした”ということを想像してしまったことが始まりです。「なぜ、彼女を追いかけたのだろう」、「なぜ、男性は外で待っていたのか」ということを自問することによって、書き終わった際に「やはり、これはメモリー(記憶)にしよう」とタイトルにたどり着くわけです。
はじめ:直感が先にきて、そのあとは物語が膨れ上がっていくイメージですね。
ミシェル監督:私は映画に対するアプローチが自分の内面にあることを表現している、云わばとても“個人的なもの”です。そのため、非常に複雑さを伴うが故に、映画を作る際にとてもお金がかかり、人もたくさん必要になってきます。しかし、できる限り一年に一本、または二年に一本は映画を作りたいと思っています。その背景としては、“自分の中で何が起こっているのかを見たい”という理由もあります。また、その事象を観客にどうやって伝えたいか、という部分も見たいと思っています。私の作品は観客に語りかける、あるいは伝えたいことのテーマがあるわけではなく、伝え方があるわけでもありません。もっとパーソナルなレベルでアプローチをしたい、映画的にオリジナルに表現したいと思っています。
本作ではミステリーな部分がありますが、私が物語を書くプロセスの中で「ミステリーを追求して出てくる発見」があればあるほど、観客にも映画を通して良い経験ができると考えています。
U子:本作は監督の“内面から出てきたもの”ということですが、現実社会で起きている問題としてインスピレーションを受けたものではないということでしょうか?日本では独り身同士の恋愛や生き方などにフォーカスした作品もあります。
ミシェル監督:私のアプローチというものは非常にパーソナルなものですが、描かれているものは“社会に対する私の反応”とも言えます。この映画に出てくる人々は、社会からリスクをとってはいけない、家に居てじっとしてなさいと言われている人なわけです。何かを求めるのは間違いです、と言われている人々です。たとえ認知症を患っていても、同じ「人」であることに変わりはなく、社会から引退しなさいと言われるのは間違いです。
彼は恋をしたっていい。彼の弟はあのような態度でも彼を守ろうとしているわけです。本作に登場するキャラクターたちは、病を患っている人に対して悪いことをしようと思っているわけではない。自分なりにいいと思って、取り組んでいるわけです。この映画は、成熟した人たちがティーンエージャーのように“もう一度チャンスをつかもう”としています。人生の段階としては「もういいんじゃない?」「もう人生終わりの方で、落ち着けば?」と言われる年齢ではありますが、もう一回、挑戦しようとしている人の話です。
U子:“望みを捨てないことが一番大切だ”というふうに考えられているってことですね。
ミシェル監督:「希望」についてお話したいと思います。私の前作でもありますが、本作が最初に男性が女性を追うアイディアが浮かんだとき、リベンジストーリーにしようと考えていました。
ですが、私は自分の人生において非常に幸せな時期でした。心の中が平和的な時期だったわけです。前作を撮影した際が落ち込んでいたというわけではありませんが、やはりその時のパーソナルな心情も影響してくることは確かです。自分の人生に希望を感じていたこともあって、映画の中にも希望を感じるようになります。このインタビューを通じて、改めて本作もパーソナルなアプローチだったと言えます。
はじめ:最後、伝えたいメッセージをお願いします。
ミシェル監督:この映画を見て「何を感じるか」は自由だと思います。本作の冒頭シーンは病を患ったグループから始まっています。そのグループのメンバーは正気の状態を保とうとしている、あるいはより良い生活をしようと戦っている人たちです。主人公も障害がある人の介護をしていたり、認知症を患っているなど、「お互いになるべく親切にしましょう」という共通意識があると思います。ニューヨークでも、地下鉄に乗っている人でも、“何かしら”抱えているかもしれないわけです。従って、「なるべく小さな親切をしてあげよう」という心が、この映画を観て感じていただければ嬉しいです。

第80回 ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門 男優賞受賞(ピーター・サースガード)
第80回 ヴェネチア国際映画祭 最優秀作品賞 ノミネート
第7回 ブリュッセル国際映画祭 最優秀作品賞 ノミネート
第41回 ミュンヘン映画祭 外国語映画賞 ノミネート
第40回インディペンデント・スピリット賞 ベストリードパフォーマンス賞(ジェシカ・チャステイン) ノミネート
監督・脚本:ミシェル・フランコ『ニューオーダー』『或る終焉』
出演:ジェシカ・チャステイン『女神の見えざる手』、ピーター・サースガード『17歳の肖像』、メリット・ウェヴァー、ブルック・ティンバー、エルシー・フィッシャー『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』、ジェシカ・ハーパー『サスペリア』ほか
2023年/103 分/アメリカ・メキシコ/英語/シネマスコープ/5.1ch /原題:MEMORY/日本語字幕:大西公子
配給:セテラ・インターナショナル © DONDE QUEMA EL SOL S.A.P.I. DE C.V. 2023
https://www.memory-movie-jp.com
『あの歌を憶えている』
2月21日(金)より新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開
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投稿を表示何時か、分からないけど、自分の身に起きる事を想定される映画だなと感じたので、是非みたいと思います😅🤗
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投稿を表示なんか、無の境地みたいなはじめさんと一人だけ嬉しそうな私、自分の世界に陶酔しているかのようにまったくこちらを見ていない監督の対比が面白すぎるアイキャッチですねw😂😂😂
それにしても、インタビューも監督さんによって個性出るなぁ〜😃