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私の好きな映画

takae
2023/05/31 21:51

映画『渇水』乾いた心を潤す珠玉のヒューマンドラマ

(c)2022『渇水』製作委員会

1990年、第70回文學界新人受賞、第103回芥川賞候補作となり注目を浴びた河林満による「渇水」が、刊行から30年の時を経て映画化され、いよいよ6/2(金)に公開となります。そこで今回、完成披露試写会にてひと足早く本作を鑑賞した筆者がネタバレなしでその見どころをお届けします。


映画『渇水』あらすじ

日照り続きの夏。市の水道局に勤める岩切俊作(生田斗真)は、同僚の木田(磯村勇斗)と共に水道料金を滞納している家庭を回り、水道を停めて回っていた。県内で給水制限が発令される中、貧しい家庭を訪問しては忌み嫌われる日々を送る俊作。妻と子どもとの別居生活も長く続き、心の渇きは強くなるばかり。そんな折、岩切は訪問したある家で、父親が蒸発、母親(門脇麦)も家に帰らなくなり2人きりで家に取り残された幼い姉妹(山﨑七海・柚穂)と出会う。困窮家庭にとって最後のライフラインである「水」を停めるか否か。悩みながらも岩切は規則に従って停水を執り行うが…。

『停水執行』を執り行う水道局員が主人公の物語

停水執行】···料金滞納が続く利用者に対し、水道法第15条3項、各自治体の給水条例に基づき水道事業者が給水停止処分を行うこと。

電気·ガス·水道。生活していく上で欠かすことのできない、そして普段当たり前のように使っているもの。ただそれは料金を支払っていればの話で、何ヶ月も滞納していれば止められてしまう。今回はその中でも、困窮家庭にとって最後のライフラインである“水”を題材に、一件の停水執行がきっかけで巻き起こる、水道局員とたった2人で家に取り残された幼い姉妹の心の物語が描かれています。

筆者含め、料金を滞納した場合水道を停められてしまう側の人間が圧倒的に多い中で、規則に従い水道を停めて回る水道局員に焦点を当てて描かれているところがこの作品のポイント。本作では、最後の砦である“水”を停めて回る彼らの迷いや葛藤、そして幼い姉妹と出会いにより少しずつ変化していく心の様子が丁寧に描かれています。


『規則ですから』という言葉のもつ意味

(c)2022『渇水』製作委員会

水道料金を払えない、または払おうとしない理由は人それぞれ。劇中でも様々なタイプの料金滞納者が出てきます。ただ、どんな理由であれ水道局員がすることは、「規則ですから」という言葉と共に水道を停めること。働く気のないフリーターでも、親や恋人に依存して生きているヒモ男でも、両親が帰ってこなくなり2人きりで家に取り残された幼い姉妹であってもそれは変わりません。

この「規則ですから」という言葉を聞くたび、何とも言えず消化できない思いが胸に残りました。確かに規則やルールがなければ混乱が生じる。でも、それだけでは割り切れないものがあるのではないでしょうか。「規則ですから」という言葉で全てを決めてしまうことは、考えるのを放棄することと同じだと言えるのかもしれません。

本当に助けを必要としている人が救われる社会にするために何ができるのか。もしかしたら明確な答えはないかもしれない。ただ、答えはなくてもそれぞれが考えることが大切なのではないかと思います。この作品は、観た人それぞれが他人事ではなく、自分事としてこれらの問題を考えるきっかけになる…そんな作品ではないかと思います。


フィルムカメラでの撮影

(c)2022『渇水』製作委員会

幼い姉妹が家に取り残され、お金もなく電気・ガスに続き水道も停められた中で生活していく。いわゆるネグレクトや貧困の問題も描かれている本作。内容的にはかなりシビアで、取り残された幼い2人の姿に胸が痛むシーンも多々ありました。にもかかわらず作品全体を包み込む温かさを感じたのは、フィルムカメラの質感によるところが大きいのではないかと思います。

給水制限がかかる程のうだるような暑さ、渇き切った街や人。その中で16ミリフィルムに映し出される太陽の光や水しぶき、幼い姉妹の生命力。それらがキラキラと輝き、乾いた心に少しずつ水が流れ込み、ひび割れた心が潤うような感覚をおぼえました。フィルム撮影による質感と作品を包み込む温かさも本作の魅力のひとつと言えます。


“新しい時代の女優を発見してもらう映画”

(c)2022『渇水』製作委員会

本作で幼い姉妹を演じた山﨑七海さん、柚穂さんのお2人。撮影では子どもらしさやその瞬間に感じたものを大切にするため、脚本を2人には渡さず高橋監督が現場でその都度次に撮るシーンを説明するという方法で進めていったとか。また、役柄同士の距離感を保つため、生田斗真さん、磯村勇斗さんには「2人とあまり仲良くならないように」という指令が下されていたといいます。そんなエピソードには驚くばかりですが、劇中での彼女たちの自然なお芝居は本当に素晴らしいものでした。父親は失踪、母親も帰ってこなくなり、2人きりで取り残された状況の中で健気に強く生きていこうとする姿は観る者の胸を打ち、2人に出会い少しずつ変わってゆく水道局員岩切の行動にも説得力を持たせています。

主演の生田斗真さんの“新しい時代の女優を発見してもらう映画”という舞台挨拶での言葉にも納得!将来性抜群な彼女たちのお芝居にも大注目です。

(c)2022『渇水』製作委員会

そしてもちろん、何もかもを諦め流されてきた水道局員の岩切を演じた主演の生田斗真さんの、姉妹への同情心からではなく変わっていく姿やカラカラに乾いた心に少しずつ水がしみこみ流れていくような心の変化を表現するお芝居、その後輩である木田を演じた磯村勇斗さんの、セリフなくただそこにいるだけで何かを表現し続けているお芝居も本当に素晴らしく、見応え十分。

加えて門脇麦さん、尾野真千子さんら実力派俳優が脇を固める本作。ストーリーのみならず、豪華実力派俳優陣の競演も見どころのひとつです。


(c)2022『渇水』製作委員会

その内容から、じめっとした暗い要素の強い作品というイメージを持っていましたが、実際には透き通った水が心と体を潤すような爽快感や、シビアな現実の中にも希望が感じられる作品ではないかと思います。何かに行き詰まりを感じ悩んでいる人、どこか不全感や葛藤を感じている人、そして心が渇いているような感覚をおぼえる人。そういった人たちにとって一歩先に進むための力をくれる踏み出すために背中を押してくれるような本作。是非劇場で作品を鑑賞し、心を潤していただければと思います。

 

映画『渇水』は6月2日(金)より全国ロードショーです

 


 

これからも様々な新作映画やオススメ映画の見どころをお届けしていきたいと思います。どうぞお楽しみに!

 

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2 件の返信 (新着順)
yumi
2023/06/03 13:21

たかえさーん✨「渇水」観てきました!!
「怪物」のあとに連続で観てしまったので、あらまた子役が2人だわ!ってちょっと混乱しました😂
滞納している家庭の水を停止して家庭がカラカラ、しばらく雨が降らないカラカラの町、そして主人公の岩切も私生活に事情がありカラカラ、これが見事に組み合わさっていて良かったです✨ちょっと岩切の私生活のお話はなかなか入り込めなくて、そこは残念でした💧岩切の思い切った行動、あの公園のシーンは良かったですねー!泣いちゃいました😭そしてやっと雨が降ってみんな心が潤いましたね✨
たかえさん2回目だったんですね!映画って2回目の方がもっとじーんと沁みますよね~。
磯村くんは本当にカメレオンですね 笑 全然違う役を上手にこなしていて、素敵です!
個人的には「波紋」の磯村くんがいちばん好きでした🥰
なんかものすごく長くなってすみません💦


takae
2023/06/05 14:17

ゆみさん遅くなっちゃってすみません💦怪物も渇水もタイトルが漢字2文字で子どもが2人(笑) 混乱しますよね😂
岩切の私生活、そうですね~...あれは彼が仕事で小さな革命を起こして流れを変えようとしたことで人生も流れ始めた...みたいな感じなのかな☺️
そうそう、2回目の方が沁みますよね!昨日THE WITCH魔女 増殖 も2回目行ってきて1回目より楽しめました✨
いっそんのお芝居本当に好きです!私も作品としては波紋が一番好きでした😁🌀

yumi
2023/06/01 19:49

インスタの投稿の方でもすごく丁寧にわかりやすく書いてくれていて、どんな作品か把握出来ました!そしてこちらのコラムではさらにもっと興味をそそられるような文章で、とてもこの作品に惹かれました!
いつもありがとうございます✨
もうずっと前からこちらは観に行く予定でしたので、観てきたらまた感想を伝えますね☺️
「何かに行き詰まりを感じて悩んでいる人」、あっ私!ってドキッとしました 笑


takae
2023/06/03 00:21

ゆみさーん!
いつも読んでくれてありがとうございます✨内容的にインスタとかなり重なってしまって💦
今日2回目観てきましたが、今回の方がよりじわじわと胸に沁みました。
どちらかと言うと地味な内容かもしれませんが、俳優陣のお芝居も素晴らしくて!行き詰まりを感じている人(笑) 私もですよ~!シビアな中にも希望が見える作品なのでオススメです👍🏻