私の映画人生の原点
「十二人の怒れる男」 1957年・アメリカ、モノクロ、96分
監督:シドニー・ルメット
映画史上に大きく名を残す不朽の名作であり、私のモチベーション・アップに欠かせない作品。
ブロードウェイからテレビを経て映画監督となったシドニー・ルメットの映画デビュー作。


ニューヨークの裁判所にある陪審員室。日頃から不良として知られている17歳の少年が、父親をナイフで殺害した容疑で裁かれていた。審理を終えた12人の陪審員たちが評決をしたところ、「陪審員8番」ただ一人が、有罪の証拠が乏しいとして無罪を主張する。評決は全員一致でなければならないため、討論が開始されるのだが...。
早速、クレジット順に12人の陪審員をご紹介する。
ヘンリー・フォンダ(1905~1982) 出演時52歳 「陪審員8番」
最初の結審投票で、唯一の無罪を主張する正義感溢れる陪審員。建築家。
リー・J・コッブ(1911~1976) 出演時46歳 「陪審員3番」
自身の息子の影に怯えながら、虚栄心をはる頑固者の陪審員。メッセンジャー会社経営者。
エド・ベグリー(1901~1970) 出演時56歳 「陪審員10番」
人種差別に人間の愚かさをみせる鼻かみの陪審員。自動車修理工場経営者。
E・G・マーシャル(1914~1998) 出演時43歳 「陪審員4番」
冷静だが自分のメガネに関することで墓穴を掘ることになる陪審員。株式仲介人。
ジャック・ウォーデン(1920~2006) 出演時37歳 「陪審員7番」
野球好き、早く結審を終えプロ野球観戦に行きたい陪審員。食品会社のセールスマン。
マーティン・バルサム(1919~1996) 出演時38歳 「陪審員1番」
進行役を務める誠実な陪審員。高校のフットボールコーチをしている。中学校教師。
ジョン・フィードラー(1925~2005) 出演時32歳 「陪審員2番」
TVドラマ版に続き同じ役で出演。気弱で臆病な銀行員。
ジャック・クラグマン(1922~2012) 出演時35歳 「陪審員5番」
冷静沈着、ユダヤ人であることに誇りを持つ陪審員。工場労働者。
エドワード・ビンス(1916~1990) 出演時41歳 「陪審員6番」
心優しく、老人に思いやりがある。体格のいい陪審員。塗装工。
ジョセフ・スウィーニー(1882~1963) 出演時75歳 「陪審員9番」
最も年長の陪審員で、最初に8番の意見に賛同し、無罪に変わる。無職老人。
ジョージ・ヴォスコヴェック(1905~1981)出演時52歳 「陪審員11番」
TVドラマ版に続き同じ役で出演。誠実なユダヤ移民。強い訛りがある。時計職人。
ロバート・ウェバー(1924~1989) 出演時33歳 「陪審員12番」
自分の確固たる意見を持たず、どっちつかずの陪審員。広告代理店宣伝マン。

被告の少年が父親を飛び出しナイフで殺害したというものだが、有罪を主張した11人の根拠は概ね次の内容である。
1.殺人の行なわれた部屋の真下に住む老人が、当日の夜、少年が ‘殺してやる!’ と叫んだのを聞い た。その直後、老人は少年を廊下で見かけた。
2.殺人現場の向こう側に、鉄道の高架を挟んで住んでいる老夫婦が、たまたま通過した回送列車の
窓越しに、犯行を目撃した。
3.被告は日ごろから不良として知られており、親子の仲も悪かった。
4.被告はナイフを買ったことを認めており、そのナイフが特別な形状のもので、被告のものが凶器
である。(被告は落として紛失したと供述)
5.犯行時刻、被告は映画をみていたと供述しているが、その題名が思い出されていない。
これらに対し、ただ1人無罪を主張した陪審員8番は、不幸な少年の身の上に同情し、証拠が希薄であることに疑問を持ち、異議を唱える。
証拠の矛盾点を具体的かつ的確に指摘し、熱心な説得によって、1対11が、2対10に、そして3対9と、陪審員の意見が徐々に変わっていく...
陪審員11番は ‘少年が犯人なら、何故捕まると分かっている自宅に帰ったのか’ と疑う。陪審員5番は ‘飛び出しナイフなら傷口の角度が逆だ’ という。陪審員8番の科学的な分析と粘り強い説得が続く...。
このディスカッションの流れが実にドラマティックで、まさにサスペンスの醍醐味に陶酔してしまう。

さらに<見どころ>を整理すると、
1.陪審員10番の狂信的な主張は、考え方が違うという以前の「生き方の違い」の問題であり、根
本的な思想が違ってしまっている場合、これは話し合っても時間の無駄というもの。10番の発
言に対して、一人、また一人と陪審員達が座席を立って、窓から外を見つめて立ち尽くすという
印象的なシーンは、その象徴である。
2.陪審員7番が大のヤンキースファンで、早く評決を終わらせ、試合の応援に行きたいしぐさを見
せる場面。
3.陪審室内で、陪審員7番が紙くずを天井の扇風機に投げたところ、陪審員9番の頭に当たったと
きの9番の表情。
4.陪審員8番が、ポケットから取り出したナイフを、容疑者のナイフの横に、バシッ!と突き立て
る迫力ある場面。(討議の流れを変える名場面)

5.陪審員1番は討論の進行役であるが、思うように進まないことに苛立つメンバーに対し、「何な
ら変わろうか?」とかえす場面。
6.陪審員6番が、「年寄りを大事にしろ!」と一喝する場面。
7.陪審員12番が、確固たる自分の意見を持たず、どっちつかずの曖昧な表情をうまく出している
ところ。 それにしてもロバート・ウェバーは、ひときわ男前。
8.最後まで頑なに有罪を主張する陪審員3番の迫力ある発言と、論旨が通らず、泣きながら無罪を
認める姿。
9.ラストシーン、劇中の部屋が真上からのアングルで映されるが、よく見ると11人しか映ってい
ない。差別と偏見に満ちた陪審員10番がいないのだ。これは製作者の意図的なメッセージで、
「この自由の国に、お前のような奴は初めからいなくていい」ということらしい。
原作はレジナルド・ローズのテレビ台本で、それを気に入ったユナイテッド・アーティスツ幹部がヘンリー・フォンダに映画化を勧め、製作の運びとなった。
陪審員十二人の人間模様が、それぞれの性格、過去、思惑、人情、正義感、などを絡めて鋭く描かれ、これが多くの映画ファンの支持を得ている最大の理由であろう。

又、ボリス・カウフマンの撮影が素晴らしく、いわゆるフラッシュバックやオーバーラップに頼っていない。細かいカットをつないで編集したカール・ラーナーの技術も特筆ものである。
リハーサルに2週間かけ、撮影はたったの17日で終了したという、この30万ドル足らずのロー・バジェット映画が、ベルリン映画祭で金熊賞を受賞した。だがアカデミー賞では作品賞と監督賞にノミネートされたものの、無冠に終わっている。(作品賞は「戦場にかける橋」が受賞)
名優ヘンリー・フォンダの熟練演技は素晴らしいが、陪審員3番を演じたリー・J・コッブの「怒りの演技」は本物であり、特筆ものだ。

前半は比較的抑えた人物像を演じていたが、中盤から後半は一気に討議戦線の中心に躍り出て、最後の最後まで自分の意見を曲げようとしない。
しかも怒りの表情が半端なく、誰に怒りを向けているのか途中から分からなくなるほどの興奮ぶり。
息子と映った1枚の写真によって、彼の心情が露わになるのだが、ルメットの演出も見事である。
審理が終わった後、陪審員8番が、陪審員3番に対し、そっと上着をかけてあげるシーンには眼がしらが熱くなる。

外に出た陪審員たちは、互いの名前も知らず、夕立のやんだ街の中へと散っていく...
そんな中、陪審員9番が陪審員8番に歩み寄り、互いに自己紹介して握手する。
その清々しさは、密室討議から解放された陪審員たちのこころ持ちを象徴しているシーンだ。
モチベーションは更に上がり、THE ENDを迎える。
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投稿を表示出ましたね!洋画さんのALL TIME BEST 1映画!
見ごたえのある本作。
その後、各国でリメイクのような作品は作られていますが
やはり本家本元は素晴しいですよね。
ところで、洋画さん!写真の使い方が上手になりましたね(#^^#)
(上から目線ですみませんm(__)m)