DISCASレビュー

カッツ
2025/11/11 07:34

針の目

1981年製作の映画『針の目』は、第二次世界大戦下の英国を舞台に、ドイツ軍スパイと一人の人妻との悲劇的な関係を描いたサスペンス作品である。主演はドナルド・サザーランド。彼が演じるスパイ“フェイバー”は、冷徹で任務に忠実な男でありながら、運命のいたずらによって人間的な葛藤に巻き込まれていく。

物語は、連合軍がフランスのどこに上陸するかという極秘情報――それがノルマンディーであることを突き止めたフェイバーが、英国脱出を試みるところから始まる。暴風雨により小船が難破し、彼は離れ小島に漂着。そこには半身不随の灯台守とその若い妻が暮らしていた。

フェイバーは一家の世話になりながら再び脱出を画策するが、次第にその妻と心ならずも惹かれ合い、恋に落ちてしまう。彼女は、フェイバーが敵国のスパイであることを知らず、心も体も許してしまう。やがて真実が明らかになり、彼女は苦渋の選択を迫られる。

タイトルの「針の目」はフェイバーのコードネームであり、冷酷なスパイとしての象徴でもあるが、本当の主人公は、戦争の渦中で愛と裏切りに翻弄される若い人妻である。彼女の視点から見ると、この物語は戦争がもたらす個人の悲劇を描いた哀しいラブストーリーでもある。

『針の目』は、スパイ映画でありながら、人間の感情と戦争の非情さが交錯する静かな悲劇である。ドナルド・サザーランドの冷徹さと、人妻の揺れる心情が対照的に描かれ、観る者の胸に深い余韻を残す。

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