DISCASレビュー

かずぽん
2025/11/22 10:03

用心棒

【先日他界した仲代達矢さん及び故人となられた名優たちを偲んで】

 

監督:黒澤明(1961年・日本・110分・モノクロ)
脚本:黒澤明・菊島隆三
撮影:宮川一夫

 

シンプルで分かり易いストーリー。桑畑三十郎が、そのまま三船敏郎なのではないかと思う程、余裕の演技に見えました。
翌年に発表された『椿三十郎』は、本作の続編的作品と言われているそうですが、なるほど、桑畑を見て“桑畑”と名乗った三十郎が、次には椿を見て“椿”と名乗った訳ですね。そして、名前は同じく“三十郎”

ひょっとして、この二人は同一人物なのか?

確かめてみたくなりました。(笑)
着物、袴、髪型は同じように見えますし、着物の家紋は(断定は出来ませんが)多分同じです。少なくとも、同じ衣装を使ったのではないでしょうか。
 

閑話休題。
何処からともなく現れた三十郎が農家の前を通ると、父と息子の言い争い。「百姓は嫌だ。俺は町へ出て博打打になる!」とそこの息子が家を飛び出して行くのに出くわしました。
家の中からは、その家の女房が絹織物を織る機の音が聞こえて来ます。
この農家の軒先で井戸の水を所望しながら、先刻、息子が出て行った宿場町・馬目宿の状況を聞きます。
農家を後にした三十郎。今度はふらりと馬目宿に現れ、居酒屋に入ります。
居酒屋の権爺の話では、馬目宿の二大勢力は「賭場の元締めの清兵衛一家」と、そこを飛び出し独立した「丑寅一家」だと言います。
その抗争が泥沼化した影響で、町の産業の絹取引も中断したまま、町は荒れ放題。毎日のように死人が出て、景気がいいのは棺桶屋だけだと言います。それを裏付けるように、野良犬が人間の手首を咥えて去って行くシーンがありました。
三十郎は、権爺に「俺が此処を平穏にしてやろう」と約束し、自分を用心棒として雇わないか?と双方に持ち掛け、競り合わせるのです。
手始めに丑寅の子分を三人、一瞬にして斬り倒して見せ、腕前は証明済みです。
物語前半、三十郎は飄々と成り行きを見守り、中盤ではボコボコにやっつけられて監禁されます。そして終盤では、ピストルを持った卯之助(仲代達矢)との対決。
三十郎に向けられた銃口が火を噴く寸前、三十郎は権爺が持たせてくれた包丁を瞬時に投げ放ち、ピストルを持った卯之助の腕に命中します。これって「荒野の七人」のジェームズ・コバーンのシーンみたいです。(カッコイイ)

居酒屋の権爺を演じた東野英治郎が実に味のある演技をします。そして、権爺の言葉によって三十郎という人物が語られます。最初はタダ酒を飲む素浪人くらいの扱いだったのが、次第に「ワルのようでいて、情に厚い男」「無策を装っていながら、策に長けた男」三十郎への評価と期待、信頼が徐々に強くなっていくのが分かります。
三十郎も強いばかりではなく、時には卯之助のような切れ者に見透かされ、大怪我を負います。
火の見櫓の上から高みの見物を決め込んだり、棺桶の蓋の隙間から覗いてみたり、三十郎のお茶目な仕草は「緩急」の緩の部分でしょう。「急」は勿論、素早い殺陣のシーン。三十郎の真骨頂の見せ場であり、三船の魅力が溢れ出るようでした。
娯楽に徹していて、何なら「用心棒」が一番好きかも知れないと、観終わったばかりの今は思っています。

 

※2021年02月10日に投稿した(ツタヤディスカスの)レビューです

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1 件の返信 (新着順)
さっちゃん
2025/11/26 22:35

 そうですね。仲代達矢さんが亡くなって、本作に出演された方のほとんどが鬼籍に入られました。訃報を聞くたびに寂しくなりますが、今ではこうして俳優さんたちの盛りのころの映像を観ることができるのは幸せなことです。
 三船敏郎が桑畑三十郎を名乗るのは、本作の元になったダシール・ハメットの「赤い収穫」の主人公である”名無しのオプ”を下敷きにしているからだと思います。「赤い収穫」は30年代のアメリカの田舎町を舞台に人探しに来た探偵が、その町に巣くっている二組の組織を言葉巧みに闘わせて共倒れに追い込むという話ですが、物語の中で主人公がいくつもの名刺を使い分けて本名が分からないところから”名無しのオプ”と呼ばれるのです。(オプは私立探偵の俗語です。)
 三十郎が袂に出刃を忍ばせて卯之助と対決する場面は音楽と二人の動きが緊張感を盛り上げています。卯之助が持つ拳銃は実物であるというのはレビューでも書いております。坂本龍馬が持っていたのとおそらく同型のS&W(スミスアンドウエッソン)№2だと思います。
 刀と拳銃という非対称な対決が観客のハラハラドキドキを増幅するので、三十郎が危機を切り抜けて敵を倒したときに観客の喝采を呼んだと思います。
 黒澤明監督の作品は語り出すときりがないものが多く、映画好きの分析や語り合うタネになっているのではないでしょうか。


かずぽん
2025/11/27 23:32

ダシール・ハメットの「赤い収穫」が原作だということ、以前にさっちゃんから教えて頂いていましたね。読んでみようと思っていたのに、すっかり忘れていました。トホホ…

>30年代のアメリカの田舎町を舞台に人探しに来た探偵が、その町に巣くっている二組の組織を言葉巧みに闘わせて共倒れに追い込むという話

そうなんですか。原作自体がそういうお話だったのですね。うまく日本映画、しかも時代劇に翻案したのですね。これは是非、原作小説を読んでみないと、ですね。
さっちゃんの貴重なコメント、このサイトが閉じられる前に保存しておかなくちゃ!
実は、来年2月にサイトがクローズすることを知らなくて、ディスカスのひろばに「マガジン」という見出しが無くなって、右往左往してしまいました。