官僚・民間・政治家を巻き込んだ泥仕合を仲代達矢でまとめた社会派超大作『不毛地帯』(書きかけ・下書き)
■不毛地帯
〈作品データ〉
山崎豊子原作の「不毛地帯」を『戦争と人間』や『華麗なる一族』、『金環蝕』を手掛けた山本薩夫監督によって映画化された社会派超大作!第二次世界大戦中に大日本帝国陸軍中佐で大本営の作戦立案参謀だった壹岐正は終戦直後に11年に渡るシベリア抑留、帰国してから日本十大商社の一角に当たる近畿商事の繊維部門に入社。アメリカ視察でロサンゼルスに訪れた際にラッキード社で最新鋭の戦闘機を見て、航空自衛隊の次期戦闘機選定争いの仕事に携わることに。主人公・壹岐正を仲代達矢が演じ、他丹波哲郎、山形勲、田宮二郎、井川比佐志、八千草薫、秋吉久美子、大滝秀治、北大路欣也、山本圭、神山繁、内田朝雄、加藤嘉、高橋悦史、藤村志保、中谷昇、小沢栄太郎、日下武史、山口崇が出演。
・1976年8月28日公開
・上映時間:181分
・配給:東宝
〈『不毛地帯』考察〉
今回、配信では取扱いがないTSUTAYAの店舗でレンタルしたのが、この山本薩夫監督作品『不毛地帯』だった。不思議なのは、同じ山本薩夫監督作品でも『戦争と人間』や『金環蝕』は配信でも取り扱っているのに、何故か『不毛地帯』はない。それも唐沢寿明主演のテレビドラマ版「不毛地帯」もない。人気が薄いから取扱いがないのかと思いきや、木村拓哉主演のテレビドラマ版『華麗なる一族』もないから、違った角度から取扱いがないのであろう。
考えられるのがシベリア抑留を扱っているという点で、二宮和也主演の『ラーゲリより愛を込めて』も配信にはない。それに加えてラッキード社とグラント社による次期戦闘機選定がロッキード事件とダグラス・グラマン事件をモロに連想させる内容というのもあって配信にない。
ということで、前にTSUTAYAで借りて見てから大分経っているので久しぶりに見てみたら、シベリア抑留のシーンを最小限に抑え、さらには石油採掘プロジェクトのシーンも大胆にカットし、主人公・壹岐正がいつの間にかに次期戦闘機選定の暗躍の渦中にいて、政財界を巻き込んだ軍人上がりの商社マンの苦悩を描いている。
山本薩夫が描きたかったのは『金環蝕』のような政治家や財界人がワチャワチャとする泥仕合で、そういう意味ではインターミッション後のラッキードの戦闘機の事故が起こってからの急展開、とりわけ仲代達矢が演じる壹岐正の追い詰められっぷりと凌ぎっぷりは見事。
考えてみれば、映画製作・公開はまだ山崎豊子原作の「不毛地帯」が連載中だった。が、1976年2月にロッキード事件が明るみに出たこともあってか、なるべく早急に作られたようにも見受けられる。それが功を奏したか、7月27日に田中角栄元総理大臣が逮捕された1ヶ月後の8月28日に全国公開となっている。ただ、作品としてはロッキード事件の前段階で終わっていて、尚且つ「不毛地帯」としても途中で終わっているようにも思えるが、山本薩夫がやりたいことはやれた、そんな印象さえ感じる。
それでも戦闘機選定の大掛かりなミッションを旧知の政治家をあの手この手で使うのは仲代達矢が演じる壹岐だけでなく、田宮二郎が演じるライバル会社の鮫島もしかり。壹岐の後ろに控える山形勲が演じる大門社長や神山繁が演じる里井専務、あと大滝秀治が演じる政界の大物・久松経済企画庁長官や内田朝雄が演じる防衛庁の山城防衛庁長官など、民間・官僚・政治家を問わず、合法的な社会を描いているわりには極道並みに黒い。黒に限りなく近い灰色とでも言おうか。そこに成田三樹夫や室田日出男、金子信雄や松方弘樹がいないだけで、逆に彼らがいないことで「あっ、東映じゃないんだ」と我に返る。
前半部分は元軍人の壹岐が戦闘機選定の事業に染まるまでを描いている。そこまでの葛藤にかつての戦友で防衛庁の川又空将補も一枚噛んでいて、シベリア抑留のフラッシュバックのシーンがやや多い。シベリア抑留のシーンは回想でしか使われていないので、この辺りを期待していると肩透かしになりかねない。が、そこは後世の作品、二宮和也主演の『ラーゲリより愛を込めて』を見て我慢するしかない。幸い、壹岐も帰国してから近畿商事に入社するまでシベリア抑留の遺族への慰問や生還者の就職斡旋のために若干浪人していた旨を大門社長に少し語っているが、この辺は『ラーゲリより愛を込めて』の終盤のシーンを思い起こせば納得出来る。
それと、前半のアメリカ視察のシーンで北大路欣也が演じるニューヨーク支社の社員や山本圭が演じるロサンゼルス支社の社員とのやり取りに同じ山崎豊子原作の「沈まぬ太陽」を思い起こすが、『不毛地帯』ではこの感覚はサラッと描いている。逆にこの部分を広げたのが『沈まぬ太陽』と考えれば合点が行く。
唐沢寿明主演のテレビドラマ版を見ればまた印象が変わるような気がするが、仲代達矢主演の『不毛地帯』は一応これで完成したと見ていい。山本薩夫監督作品らしさと、突貫工事のように作られてはいるが、全盛期の仲代達矢の演技で引っ張ってまとめた。そんな感じである。