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DISCASレビュー

じょ〜い小川
2024/08/08 18:08

1989年ど真ん中のマリンリゾート&トレジャーハント映画『彼女が水着にきがえたら』

■彼女が水着にきがえたら

《作品データ》

クリエイター集団ホイチョイ・プロダクションズの「ホイチョイ3部作」の代表2弾で、マリンリゾートブームを描いた原田知世主演のアドベンチャー&ラブストーリー。スキューバダイビングにハマったアパレルメーカーのOLの真理子と恭世は相模湾でのスキューバダイビング中に仲間とはぐれた際に、海底で飛行機の残骸を見つけた後に、ヨット船ツバメ号の大塚と吉岡文男に会い引き上げてもらう。その直後に二人はアマゾン号でのクルーズパーティーに誘われ、雰囲気に馴染まない真理子は途中で偶然通りかかった吉岡に再び助けられることに。田中真理子役を原田知世が、吉岡文男役を織田裕二が演じ、他伊藤かずえ、田中美佐子、谷啓、伊武雅刀、竹内力、安岡力也、坂田明、白竜、今井雅之、佐藤允が出演。

・公開日:1989年6月10日

・配給:東宝

・上映時間:103分

【スタッフ】

監督:馬場康夫/脚本:一色伸幸

【キャスト】

原田知世、織田裕二、伊藤かずえ、田中美佐子、谷啓、伊武雅刀、竹内力、安岡力也、坂田明、白竜、今井雅之、佐藤允


《『彼女が水着にきがえたら』考察》

 

・1989年の“ あの頃”

1989年=平成元年。ボクは中学2年。当時の流行りを思い起こすと、音楽なら光GENJIにWink、工藤静香とまだまだアイドルが強かったようにも思えるが、深夜番組ながらブームになりつつあるイカ天こと「三宅裕司のいかすバンド天国」にプリンセス・プリンセスやZIGGY、バラエティ番組「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」の1コーナー「ヘビメタ」のコーナーの人気もあって、明らかなるバンドブームが来ていた。

 

当時、中学2年のボクはニッポン放送の「三宅裕司のヤングパラダイス」や「オールナイトニッポン」といったラジオの深夜番組を聴くようになり、それと同時にようやく音楽も嗜むようになった。それまでプロレスオタク一直線だった筆者が、X Japan(当時はX)、ZIGGY、筋肉少女帯などによって瞬く間にバンド少年へと染まった。音楽以外ではとんねるずのバラエティ番組「とんねるずのみなさんのおかげです」や田原俊彦主演の月9ドラマ「教師びんびん物語2」が爆発的に流行り、全国の中2のハートを鷲掴みしていた。

 

 

プロ野球では阪急ブレーブスがオリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)に、南海ホークスが福岡ダイエーホークス(現ソフトバンクホークス)に変わり、読売ジャイアンツが藤田マジックで近鉄バファローズを下し日本一に。CMでは時任三郎が「24時間タタカエマスカ」と言ったり、映画では邦画ならスタジオジブリの『魔女の宅急便』、洋画ならブルース・ウィリスの『ダイ・ハード』、トム・クルーズの『カクテル』、マイケル・ダグラス&松田優作の『ブラック・レイン』がヒットした。1989年はそんな年だった。


・『彼女が水着にきがえたら』とボク

そして今回見た原田知世&織田裕二W主演映画『彼女が水着にきがえたら』はそんな時代の真っ只中の1989年6月10日に公開。が、ボクはこの時はあまり映画を見ていないし、周りも同じ様な感じだったからか、少なくとも埼玉県吉川市(当時は吉川町)の片隅の中学ではXや光GENJIや「とんねるずのみなさんのおかげです」の話は出ても、この織田裕二主演のトレンディな映画( あ、「トレンディ」という言葉まだ自体なかった)は話題にすらあがってなかった。

 

そうなってしまった要素はいくつか考えられる。まず、『私をスキーに連れてって』と同じ馬場康夫監督作品、原田知世をヒロインにした作品ではあるが、舞台は夏の湘南や東京湾、相模湾のクルーズパーティーやその周辺のバーで、スキーリゾート地でのウインターレジャーからスキューバダイビング、水上バイク等のマリンスポーツ・リゾートと真逆のものである。筆者にとってはスキーリゾートも無縁ではあったが、こちらはクラスに何人かは行ってた人もいて比較的身近なものであったが、スキューバダイビングともなると流石に周りでやってる同級生とかいなかった。

 

それにメインキャストの一人の織田裕二はこの作品と直後の夏にTBSで放映したテレビドラマ「ママハハ・ブギ」や「予備校ブギ」で頭角を表す俳優で、

この映画の頃は明らかに誰も知らなかったはずである。

いや、むしろこの『彼女が水着にきがえたら』が頭角を表すきっかけの作品と言えよう。

 

 

それでも『 彼女が水着にきがえたら』は興行収入8億円。世の中的にはスマッシュヒットをしているので、中学2年の筆者が単にこの作品のターゲット層ではなかったとなるが、ではもし仮に筆者がこの時代にターゲット層の年齢であったとしても、おそらく見なかったであろう。ボクはこの当時の、特にこの映画で見られるような世界観の 

「鼻持ちならなさ」がどうにも苦手であった。 

なので、その反動としての硬派な応援団文化や暴走族・不良文化も分からなくはないし(もちろん、応援団でも暴走族・不良ではなかったが)、プロレス・格闘技やHM/HRといった特殊な趣味に走ったことも改めて頷ける。そこに来てスキューバダイビングにヨット、クルーザーといったお金がかかる趣味といった田舎の中2男子には浮世離れした世界が余計に足を遠のかせた、と自分なりに考えている。


・意外にもトレジャーハントものの展開

そして35年の時を経て、TSUTAYAの店舗で『彼女が水着にきがえたら』のDVDを手にすると、あの「鼻持ちならない世界観」ですら今ではバブル時代の香りとなっている。あの時は見る気にならなかったが、その時代の香りを嗅ぎたさもあって、借りてみた。

 

この作品が初見の筆者はてっきり『私をスキーに連れてって』のスキューバダイビング&クルーズパーティー版かと思いきやちょっと違った。なんと、この映画、意外にもトレジャーハントもののアドベンチャー要素が軸になっていて、織田裕二が演じるカッコよくはあるけどどこか不器用でガサツな吉岡文男と、原田知世が演じる「THEバブル女子」のような髪型、化粧、ファッションなのにどこかぼんやりしている田中真理子によるラブロマンスもしっかりとある。

 

見方によってはまるでサザンのプロモビデオのような映像と変な角度からの微妙なアドベンチャー&アクションなど、ツッコミだしたらキリがない。が、これらは等身大の世界から少し背伸びしたオシャレな世界観を見せた『私をスキーに〜』の反動として、明らかにあり得ないお宝探しや中国マフィアとの攻防といった映画の世界という非日常の世界を作り上げた、意識したかな、と考える次第である。


・主人公を支える伊藤かずえ&谷啓

本作のヒロインは原田知世になるが、もう一人、田中真理子の友人・恭世役の伊藤かずえもかなり目立つ。おっとりしている真理子とは違ってハキハキして、仕事ではやや男勝りな態度だったり、また真理子と比べて「軽い奴」という印象もあるが、ちょっと大柄な身長とボーイッシュな短髪は一際新鮮な印象がある。しかも、伊藤かずえって「ポニーテールはふり向かない」の主演だったり、「スクール☆ウォーズ」に出てくる富田圭子役という重要な脇役を演じるなど大映ドラマには欠かせない美女だったけど、本作では短髪にしているせいか大分印象が違う。

 

それと、吉岡文男が乗る「ツバメ号」のオーナーの大塚役の谷啓も若いメインキャストらをグイグイと引っ張っている。ポジションこそは文男の上司というか海仲間の年長者だが、ストーリーにおけるメインキャストらに振り回されたり、サポートしたりする様子はかつての植木等主演のクレージー・キャッツ映画でのそれにも通じる。つまり、谷啓の使い方が上手い。

 

また、本作で比較的嫌な役回りの山口役の伊武雅刀もキザっぷり、嫌味っぷりたっぷりなバブル時代ど真ん中な男を演じている。

 

あと、ミュージシャンの坂田明や強面キャラが当時も定番だった安岡力也、あと今井雅之らが何故か外国人役で出ている。こういうキャスティングって今どきならあり得ないけど、さらに昔に森繁久彌主演の「社長シリーズ」でフランキー堺が日系ハワイ人とか中国人とか怪しい役をやっていたことがあったけど……あれに近いような違うような。


・時代を象徴するプロダクトプレイスメント

それと、本作はバドワイザーのロゴ・マークやオンワードの時計、KAWASAKIの水上オートバイやボート、トヨタのセリカ・コンバーチブルやハイラックスサーフなど、やたらとプロダクトプレイスメントによる企業コラボが目立つ映画でもある。最近では『君の名は。』や『天気の子』、『すずめの戸締まり』などの新海誠監督作品で見られる手法だが、洋画・邦画問わず昔から見られはするがその目立ち方がホイチョイ・プロダクションズ作品と新海誠監督作品は特に顕著である。新海誠監督作品のそれはアニメと現実世界を繋ぐアイテムとしての使い方だけど、ホイチョイ・プロダクションズの場合はその時代の香りを伝える使い方をしているので、似て非なるものではある。

 

そして、『私をスキーに〜』の松任谷由実に対して、本作は

サザン・オールスターズ一色の音楽。

確かに夏の雰囲気にピッタリだし、日曜日の午後にFMラジオから流れてきそうな休日のひと時感覚もあり、映画の世界観を引立てている。シーンによっては「え?今、その曲をかける?」というような微妙な選曲もあるが、全体的に『私をスキーに〜』との対比にもなっている。


一部、展開的に「どうよ?」と思える部分もあるが、概ねバブル時代の彩りと味わいがたっぷりあるので、35年も寝かせた甲斐はあったかと。これもまた映画の楽しみ方としてアリである。

 

今回、この文を書いている筆者が非常に懐かしい気持ちになってしまった。

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1 件の返信 (新着順)
かこ
2024/08/08 19:03

読者の私も非常に懐かしくなりました😭✨


じょ〜い小川
2024/08/08 19:15

ありがとうございます!
ちょっと力を入れて書いただけに嬉しいです。

調べながら書いたんですが、
意外にも「ママハハ・ブギ」の方が後だったんですねー。
この頃のドラマはテレビにガッチリ釘付けになりながら見てましたね。
おかげで成績がガタ落ちでした(笑)。

かこ
2024/08/09 08:05

えっ「ママハハ・ブギ」の方が後だったんだぁ😮それは意外!
テレビやラジオが全て、の時代でしたね😄見たり聞いたりしてないと、次の日の話しについて行けなかったり💦同じく私も成績は………😂

じょ〜い小川
2024/08/09 08:44

『彼女が水着にきがえたら』が6月公開で、
「ママハハ・ブギ」が7月からのドラマなのでわずかに後。まぁ、実質同時期でしょうかね。
織田裕二だけでなく、的場浩司や石田ひかりのキャリア初期の作品というのが今となっては凄いですね。

毎日ラジオ聴きすぎた、というかいつ寝てたのか謎だったなー。