DISCASレビュー

J.T.Hammer
2025/05/04 10:10

ありえぬ話で食らった「ありえぬ」肩透かし

【2025-No.22】

〜黒人監督の現在地 Vol.2〜

𝐉𝐨𝐫𝐝𝐚𝐧 𝐏𝐞𝐞𝐥𝐞

(Cover photo: ©2022 Universal Studios)


NOPE/ ノープ

アメリカ 131分 2022年


昨年行われたMLBワールドシリーズの開幕前公式会見にて「緊張するか?」と問われた大谷翔平が通訳を介さずNOPEと即答したのは記憶に新しい。NOの俗語たるNOPEには強い否定の意があることを考えれば、彼の回答には少年の頃よりドジャースのユニを着てワールドシリーズで勝つのを夢見てきた自分にとってこの大舞台へ立つのはワクワクするばかりでそこで緊張するなど「ありえない」と云うニュアンスが含まれていたと思われる

タイトルにそのNOPEと冠された本作は普通なら「ありえない」話、つまり超常現象を取り上げたものだ。白人社会へ向けた痛烈な皮肉をユーモア交じりに描いたフィルムで話題を呼んだジョーダン・ピールが脚本・演出を務めただけに否が応でも期待は高まったのだが、いざ蓋を開けてみれば肩透かしの出来に終わった

小説を読むうえで行間からの推量が欠かせないのと同様に、映画を観るうえでも俳優の仕草や表情、或いは情景ショットなどから想像を働かせて監督の意図を汲まなければそれは第三者がこしらえた物語を漫然と眺めたに過ぎない。ただ、そうしたイマジネーションを観客が活用するに当たっては製作側も根拠となるような何らかのソースを劇中で示してもらわないとならないのだが、それが「NOPE」には見出せなかった

例えばストーリーラインで大きな位置を占めるTV放送事故の件は主人公の父親が遭遇した死を象徴する(いわゆる飼い犬に手を噛まれるってやつだ)と捉えられるものの、父親が行っていた過去の経緯が一切語られぬために筋書とは切り離されてしまい半ば浮いたエピソードと化す結果になったのは大変勿体ない。また、常識を超えた相手の概要が余りに抽象的で実体が伴わず、登場人物たちが命懸けで得た証拠の行方を示唆せぬままに終える唐突なマカロニウエスタン風幕引きには言葉を失うしかなかった。前二作に窺えた持ち前のセンスは跡形もなく消え失せ、製作費のみがやたらと上積みされた中身に乏しい大味な映画、エンディングマークの後にはそんな印象ばかりが残る。アイデアの枯渇とは少し厳しい見方かもしれないが正直そんな気がしてもおかしくはない低レベルな仕上がりだ

どんなに優秀なピッチャーであろうと調子が上がらず初回大量失点で早々に降板なんて試合を生涯で何度かは経験する。原作頼みではないオリジナルの脚本が書け且つ自身で演出も出来る稀有な映像作家ジョーダン・ピールの次回作にリベンジを請う

 ★★★★★☆☆☆☆☆


© 2022 Universal Studios

原題 Nope

監督 ジョーダン・ピール

脚本 ジョーダン・ピール

撮影 ホイテ・ヴァン・ホイテマ

編集 ニコラス・モンスール

音楽 マイケル・エイブルズ

出演 ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー

劇場公開日 2022.07.22(米)/ 2022.08.26(日本)

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