DISCASレビュー

カッツ
2025/10/27 07:47

しとやかな獣

1962年、新藤兼人脚本による本作は、山岡久乃と伊藤雄之助が主演を務める。物語は、狭い団地の一室に据えられたカメラの前で展開される、まるで舞台劇のような密室劇だ。
元海軍中佐・前田時造(伊藤雄之助)は、戦後のどん底の生活を経験した過去を持ち、二度とその境遇に戻りたくないという強い執念から、子どもたちを操り、他人の金を巻き上げては、狭い部屋で贅沢な暮らしを続けている。
その空間に漂う緊張感と、登場人物たちの複雑な心理が交錯する様子は、まさに“陣元劇”と呼ぶにふさわしい濃密さがある。若尾文子は登場時間こそ短いが、その存在感は鮮烈で、物語に強い印象を残す。
50年以上前、テレビの土曜映画劇場で初めて観たときの衝撃が今も忘れられず、最近DVDで改めて鑑賞したが、やはり素晴らしい作品だった。時代を越えて心に残る、静かで力強い映画である。

コメントする