カッツ
2025/11/08 07:29
ピアノレッスン
1993年公開の映画『ピアノ・レッスン』(原題:The Piano)は、ジェーン・カンピオン監督によるニュージーランド・オーストラリア・フランス合作の恋愛ドラマ。19世紀のニュージーランド奥地を舞台に、言葉を話せない女性エイダ(ホリー・ハンター)が、ピアノを通じて自らの感情と欲望を表現していく姿を描いています。
エイダは娘フローラとともにスコットランドから嫁ぎ先へと渡りますが、夫スチュアート(サム・ニール)は彼女の大切なピアノを浜辺に置き去りにし、土地と交換してしまいます。そのピアノを手にしたのが、マオリ族と親しく暮らすジョージ・ベインズ(ハーヴェイ・カイテル)。彼はエイダに演奏を教えてほしいと申し出、ピアノを返す代わりにレッスンを受けるという奇妙な取引が始まります。
この関係はやがて、エイダの内面に眠っていた欲望を呼び起こし、激しい愛へと発展していきます。夫が拒絶する中、彼女はジョージに心を開き、身体を通じて感情を伝えるようになります。この展開に戸惑いを覚えるのは自然ですが、カンピオン監督はここで「言葉を持たない女性が、音楽と身体を通じて自己を獲得する」過程を描こうとしています。
特筆すべきは、マイケル・ナイマンによるテーマ音楽「悲しみを希う心(The Heart Asks Pleasure First)」。静かで切ない旋律は、エイダの感情を代弁するように響き、映画の余韻を深く残します。今でも映画音楽のスタンダードとして広く知られています。
『ピアノ・レッスン』は、単なる恋愛映画ではなく、女性の主体性、芸術と欲望、沈黙と表現の関係を問いかける作品です。
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