DISCASレビュー

カッツ
2025/11/20 07:20

ラスト、コーション

 2007年公開、アメリカ・台湾・中国・香港の合作による歴史サスペンス映画であり、第二次世界大戦下の香港と上海を舞台に、抗日組織と日本の傀儡政権との間で繰り広げられる暗殺計画と、そこに芽生える禁断の愛を描いた作品である。主演はトニー・レオン。

タイトルの「ラスト」は“肉欲”を意味し、物語は肉体と感情、任務と愛情の狭間で揺れる女スパイの心理を繊細かつ大胆に描いている。彼女が暗殺対象である特務機関員と関係を深めていく過程は、緊張感と官能性が入り混じり、観る者に複雑な感情を呼び起こす。

モデルとなった実在の人物テン・ピンルー、彼女は中国人の父と日本人の母を持つ実在の人物であり、その出自が物語にさらなる深みと複雑さを与えている。彼女の立場は、国家や民族の境界を越えた葛藤を象徴しているようにも感じられる。

香港や上海の街並みは忠実に再現されており、当時の上流階級の生活様式や空気感が細部にわたって描かれている。セットや衣装、美術に相当な予算がかけられていることが伝わってくる。歴史的背景と美術的完成度が融合した映像は、まるで一枚の絵画のような美しさを持っている

トニー・レオンとワン・チアチーによるベッドシーンは、過激でありながらも物語の核心に触れる重要な場面として描かれており、単なる官能描写にとどまらない心理的な深みがある

『ラスト、コーション』は、歴史の闇と人間の欲望、そして愛と裏切りの境界を描いた、静かで激しい作品である。観終えた後も、登場人物たちの選択とその余韻が心に残る。

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