カッツ
2025/12/25 08:37
横道世之介
2013年/監督:沖田修一
吉田修一の同名小説を原作とした『横道世之介』は、長崎から上京してきた大学生・横道世之介の、なんでもない日々を描いた作品である。物語は、彼と関わった人々が十数年後に当時を振り返るという構成で進み、世之介という青年が周囲に残した“温度”のようなものが静かに浮かび上がってくる。
世之介は特別な才能があるわけでもなく、劇的な事件を起こすわけでもない。ただ、彼の飾らない優しさや、どこか抜けた愛嬌が、出会った人々の心に確かな痕跡を残していく。その“いい奴”ぶりが、観ているこちらにもじんわりと伝わってくる。
しかし、物語の終盤で明かされる事実は胸に重くのしかかり、彼の存在がどれほど貴重だったのかを痛感させられる。何気ない日常の中にあった温かさが、時間を経てより鮮明に、そして切なく浮かび上がる。
「出会えたことが、うれしくて、可笑しくて、そして、寂しい――。」
この言葉が、世之介という人物のすべてを物語っているように思う。彼のような人間に出会えたこと自体が、人生のささやかな奇跡なのだと感じさせてくれる作品である。
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