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私の好きな映画

じゅーん バッジ画像
2024/09/12 01:01

『ソウルの春』に見る、軍事国家から民主化への韓国近代史

韓国で大ヒット!

『ソウルの春』

監督:キム・ソンス

主演:ファン・ジョンミン

時間:142分

現在日本は公開中、非常に人気のこの作品。しかも韓国では4人に1人が観たと言われております。特に当時を知らない20〜30代の若い人がこぞって観に行ったとか。しかも、内容的にイライラする場面もある為『心拍数チャレンジ』というのが流行ったらしいですよ。


まるでドキュメンタリー映画


後述する『南山の部長たち』で朴正煕大統領が暗殺され、民主化へ行くのかと思ったその流れを、思いっきりぶっ壊した1日を描いたのが、この作品だ。

ドキュメンタリーのようでいて、しっかりとドラマティックに肉付けしてくるあたり、本当にシビれます。また韓国の俳優陣は誰も皆、演技力のレベルがかなり高い。よって、どんなに熱く演じられても、それが決してオーバーアクトにはならず、観る者を惹きつけて離さない。

特にこの作品、中盤から『実録クーデターの全て』のごとく、しっかり時間通りに9時間を追う。あれは実際に事細かに記録が残っていたという。クーデターを企てた張本人は、全斗煥(作中では、一文字変えてチョン・ドゥグァン)で、ハゲた頭も再現している演技派ファン・ジョンミンが演じている。

対極する正義の軍人イ・テシンにチョン・ウソン。この構図が実に上手く、自然とイテシンに観てる側は肩入れしてしまうのだが、史実はそうは行かない。しかもそれは観ている人ほとんどが分かっている事実。なのにこんなにも目が離せないなんて!本当に凄い力のある作品。


韓国、民主化運動を描いた

ポリティカルムービーの面白さ


『南山の部長たち』

監督・脚本:ウ・ミンホ

主演 : イ・ビョンホン

時間 : 114分


18年続く独裁政治


この時系列で行くと、まずはこの作品を観るのが1番間違いない。一度も笑うことのないイ・ビョンホン。何故ならいつまでも続く独裁政治、諸悪の根源である朴正煕大統領の側近でありながら、暗殺する他道はないと決意したキム部長を演じているからだ。また、その朴正煕大統領を演じるイ・ソンミンさんが本人に寄せて大きな耳を立てて演じているのだが、これまた素晴らしい。ファンジョンミンが憎たらしいヒール役を演じるのとはまた違うヒール役。ちなみに韓国初の女性大統領は、この朴正煕大統領の娘、朴槿恵である。

そして次に来るのが、最初に紹介した『ソウルの春』。韓国の80年代は、クーデターで成立した全斗煥政権の下で始まった。朴正煕政権時代からの高度経済成長は引き続いていたが、政治的自由は制限され、工場労働者たちは低賃金の下であえいでいた。


『タクシー運転手』

〜約束は海を越えて〜

主演 : ソン・ガンホ

時間 : 137分

韓国を代表する俳優、ソンガンホおじさんが主演のこの作品も、もちろん実話を基にしている。たった40年前の出来事だ。この作品、前半は割とコメディな部分や、人間らしい場面も多くあり安心して観ていられるのだが、中盤から本当に厳しいシーンの連続で、さすがに信じられない。そして、それを目の当たりにした時の表情もまた、演じるソンガンホおじさんは素晴らしいのだが、とにかく辛い。

ソウルでタクシー運転手をしていたマンソプ(ソンガンホ)はドイツ人ジャーナリスト、ピーターを乗せて光州まで行けば、10万ウォン貰えると聞き、大はしゃぎで乗せる。これが正に運命の出会い。ソウルにそのまま居たら何も知らなかった現実がそこにはあった。自分たちを守るはずの軍人が、同胞でありましてや大学生などの若者達に暴行を加えていたのを目の当たりにする。

同じ韓国内でも知らなかった現状を、このドイツ人ジャーナリストに託す。世界にこの現状を知らせて欲しいと。そこの胸熱展開には泣かされる事間違いなし。

国民を守るはずの軍が国民に銃を向けた衝撃と、結果的に光州を見殺しにしてしまったという悔恨が、彼らを激しい運動に駆り立てた。こうした状況に抗議の声を上げたのは、第一に学生運動だった。光州事件の真相が、大学のキャンパスの中でひそかに語り継がれていく。


『1987、ある闘いの真実』

監督:チャン・ジュナン

主演:キム・ユンソク、キム・テリ

時間:129分

どの国にも時代の転換期と言われる【年】があると思うが、韓国は正にこの年だったに違いない。この時、日本はバブル期真っ只中。この違いに驚きを隠せませんが、当時はまだソウルの春の全斗煥による、軍事政権下にあった韓国。

ある大学生が北のスパイと思われ、暴行されて亡くなる事から始まる。暴行された学生を早々に火葬して隠蔽しようと指示するのは、脱北者であり対共捜査所長のパク(キム・ユンソク)。そんな事はさせまいと対立するチェ検事(ハ・ジョンウ)そこにマスコミの力として、東亜日報の記者サンサム(イ・ヒジュン)が大きく作用していく。

それでも中々体質は変わらず、ひた隠しにしようとする韓国ポリス。今までならここで軍事介入して国民が押さえ付けられたんでしょうけど、この時の国民は違いました。あちこちでデモが起き、更なる悲劇が起きます。また、オリジナルのキャラクターとして、紅一点ヨニ(キム・テリ)が非常に良いのです。終盤近くまでこういった社会の動きにどこか懐疑的だったのですが、ある現実に直面して動き出すのです。これは、監督自身を投影しているのだとか。

この作品、製作は決して簡単ではなかった。

朴槿恵政権は自分たちに合わないコンテンツに対して弾圧を加えていたため、秘密裏に製作を進めなければならず、実在の人物がたくさん登場する作品は、モデルにする人に会い、話をするのが基本なのですが、噂が広まることを懸念して、文献のみでリサーチを進め、シナリオを作っていったそうです。

『1987、ある闘いの真実』は、こうした劇的な出来事が起きた1987年を舞台としているが、6月民主抗争そのものを描いた作品ではない。そうではなく、そこに至る半年のプロセスを描いた群像劇。「光州虐殺」「軍事独裁」「民主化弾圧」……暗黒イメージばかりが強調された。しかし実際の全斗煥時代は意外に明るかった。それまで18年間続いた朴正煕政権の勤倹節約・質実剛健・贅沢は敵——という時代が終わり夜間外出禁止令解除など人びとの暮らしの規制、統制が一気に解除されたからだ。何故、光州だったかというと、次期政権に金大中氏への期待が強く、それだけ反発が強かったからだ。


『キングメーカー』

監督・脚本:ビョン・ソンヒョン

時間:123分

15代大統領となる金大中、映画ではキムウンボム(ソル・ギョング)とその参謀である厳昌録、役名はソチャンデ(イ・ソンギュン)の実話。ここまでずーっと描かれてきた韓国の政治といえば、独裁政権。それを撃ち破ろうとしているキム・ウンボムには影で支えた人が居た。その2人の熱い友情と悲しい別れを描いている。

演説が素晴らしいウンボムではあるが、実はそれを上回ったのではないか、と思わせるのがチャンデだった。無くてはならない片腕だったはずが、いつしか正に光と影となっていくのが切ない。ポスターからもその様子はおわかりだろう。今まで出てきた作品ほどエンタメしてはいない、いぶし銀な作品ではあるが、この2人を光と影として対比させる演出や映像は、実に上手い。また、2人が対立する原因でもあるエグい程の選挙工作も見どころ。嘘でしょ?と思うけれど、ほぼ実話だそう。


実は、金大中こそ手段を選ばない

政治家だった


個人的にはラストシーンの余韻が半端なく印象的で大好きな作品ですが、実際の金大中は現実主義者で、必要なくなれば義理もへったくれもなく切り捨てるような一面もあったとか。作品としては手段を選ばないのは影であるチャンデで、真っ当で光に当たるのがウンボムでした。これは韓国の国民が望む民主主義を勝ち取った大統領、という事姿の現れ。それをいつまでも誇りに思うが為、描かれた姿なのかもしれない。

韓国民主化運動は激しく劇的な展開をしてきた。そうした歴史の現場を生きた人々の姿を、韓国映画は熱く伝えている。私たちはそうした作品から、権力によって人々が引き裂かれる痛み、声を上げることの尊さ、さらには声を上げた人々がつながり、大きなうねりがつくられていくという場面を目の当たりにして感動するのだろう。

 

是非、気になった方は南山から始まり順番に『韓国民主化マラソン』してみて下さい。

 

 

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2 件の返信 (新着順)
ちょう
2024/09/16 13:31

改めて観ると、私はタクシー運転手が1番響いたわ。
歴史を知るには、この3作はマストだね。
キングメーカーを早速観てみようと思うよ👍
物凄く良くまとまってて、多分ソウルの春観る前にも、ココにお邪魔すると思いまーす。


じゅーん バッジ画像
2024/09/16 16:11

ちょうちゃん、ようこそ。早速読んでくれてありがとう😊✨
キングメーカーも今は亡きイソンギュンが非常に良かったし、映像凝ってるのもあって私は好き。早くソウルの春観て欲しいなぁ✨観たらまた話そーねー!

椿五十郎 バッジ画像
2024/09/15 12:22

これは、どれも気になる作品ばかり!!
タクシー運転手と1987は観たのですが、事実をベースにしてきちんとエンタメになっているところがさすがは韓国映画ですね。
しかし、本当にこれだけの大変革を経験した国だからこその真剣さが伝わってきますが、今大発展を遂げている韓国で、このような闇があったとは・・。もちろん、軍事政権で相当に人々の自由は制限されていたんだろうな、とか、金大中氏の事件などで上っ面なことは知っていましたが、北朝鮮や中国といった国々に比べればと思っていましたが、とんでもないことで、これだけ非道なことが行われていたのか、と映画を見て知った感じです。
さすが、韓流は歴史の闇にもしっかりと対峙して作品を作り上げてゆく姿が素晴らしいですね。そして役者が本当によすぎます。ユ・ヘジンさんなんてまぁ、コメディ役者かと思ってましたが、すごく温かみのある役を演じたりも素晴らしいし、『梟』の醜悪な王のような役まではまってますし。あと1987の対共捜査所長のキム・ユンソクのヴィラン?ぶりと言ったら、本当に執念深く怖い。のに、『モガディシュ』ではコミカルな大使で、とても同一人物とは思えません
韓流の、この時代の作品、もっと見たいと思っていたので、このリストアップ本当にありがたいです!


じゅーん バッジ画像
2024/09/15 20:32

まだ全斗煥の頃はあまり北朝鮮と変わりない生活をさせられていたようですね。それでも夜外出が許されたり停電しなくなったり。そんな時があったなんてこの映画達で知りましたよね。是非、椿さんも南山から始めて観て下さい!ソウルの春、ガチで良かったです。やっと全部のピースが埋まったので、この民主化マラソンも出来るなぁと。絶対に疲れますけど笑
タクシー運転手の同じ時代の作品で『26年』というフィクションも好きです!
ユヘジンさん、めちゃくちゃ私も好きです!キムユンソクさん、チェイサーが凄く好きで。韓国って最後の死闘が長くないですか?笑
もう現実なら死んでるよねって所からあと2ターン位やります。でもそこも全部役者の演技で観れちゃうから凄い!!
コメント嬉しかったです、ありがとうございます😊