DISCASレビュー

かずぽん
2025/06/20 09:59

タムタム姫

【それぞれの価値観】

 

(1935年・仏・77分・モノクロ)
監督:エドモンド・T・グレヴィル
原題:(フランス語:Princesse Tam Tam)

本作ヒロインのジョセフィン・ベイカーを知ったのは、一か月前に観た作品『はだかの女王』だった。それは、ジャン・ギャバンと共演のミュージカルで、私はどちらかというとジャン・ギャバンの方に興味があった。
しかし、ジャン・ギャバンが歌うシーンは少なく、肩透かし。でも、ジョセフィン・ベイカ―の“鈴を転がすような声”に魅了された。澄んだ高音で、坂本九のようなビブラートが耳に心地よい。

本作の幕開けは、いきなりの夫婦喧嘩。
フランス人の小説家マックス・ド・ミルクール(アルベール・プレジャン)は、妻のリュシー(ジェルメーヌ・オーセエ)の社交界の友人たちとのつき合いが煩わしく、息抜きのために北アフリカに旅立つ。彼のゴーストライター兼マネージャーのコトン(ロベール・アルヌー)が同行した。この旅は、次の小説のインスピレーションを求めるものでもあった。
コトンはホテルに滞在することを勧めるが、ホテルでは妻の社交界の連中と同じような人々がいるからと、別荘で暮らすことになった。

彼らが訪れた「ドゥッガの遺跡」で現地の娘アルウィナ(ジョセフィン・ベイカ―)と出会う。ツアーで一緒になった仲間たちは彼女のことを野獣と呼ぶ。純真な彼女が「野獣って?」と聞くと、マックスは「野生の獣のことさ。でも君は野性的だけど獣じゃない。」と説明する。この後、アルウィナは自分を馬鹿にした金持ち連中に悪戯をする。マックスはその様子を笑って見ていた。次に町で彼女を見かけた時は、テーブルの下から手を伸ばしてオレンジを盗んでいるところだった。またもやマックスは楽し気に笑って見ていた。
アルウィナに興味を持ったマックスは、彼女を教育してパリの社交界にデビューさせることを思いつく。
ちょっと『ピグマリオン』に似ているなあと思ったけれど、本作の製作年の方が3年早い。
アルウィナをレディへと変身させ、その過程や様子をマックスの小説の中に登場させるというのも彼の計画だった。
一方、妻とマハラジャとの交際が噂になっていて、そのことへの対抗心もあった。
そして、ついにアルウィナのお披露目の日がやってくる。彼女は中央インドの部族の姫、パランドール王女として紹介される。この王女のことは新聞でも話題になり、リュシーの気持ちを搔き乱すことに成功したのだったが・・・
※「タムタム姫」という呼び名は一度も出てこなかった。(と、思う。)

物語全体としては、ヨーロッパ上流階級の差別意識や噂好きな社交界のことがコミカルに描かれていたけれど、チラチラと気になることが散見された。
アルウィナとパランドール王女は同一人物(中身は同じ)なのに、野生児と王族という肩書の違いで彼らは態度を変えていた。その点、マックスは人種的な偏見は無さそうだったけれど、彼の関心は妻に焼もちを焼かせて妻を取り戻すことに向けられていた。
意外なことに、個人をよく見ていたのはマハラジャだったように思う。パランドール王女が作られた虚像であることに気づき、彼女に住んでいた元の地に戻るように勧めていた。
西洋に向いた窓と東洋に向いた窓を見せられて、アルウィナは自分の居るべき場所に気づいた。
ただ、物語のオチを知ってしまうと複雑な思いに襲われた。マックスの考えって深いの、浅いの?

また、マハラジャについて少し気になったことは、彼は自分に近づいて来る女性をコレクションのように考えていたように見えたことだ。リュシーに甘い言葉を囁きながら、蝶の標本の額をそっと見つめていたのが気になった。(標本の真ん中のスペースが空いていたのが意味深)
それは置いておいて、アルウィナを演じたジョセフィン・ベイカ―は、陽気で活動的。見ているだけで楽しい気持ちにさせてくれる。
彼女が歌ったのは「Dream Ship」と「Neath the Tropical Blue Skies」の2曲だけだったけれど、とても印象に残る歌声だった。彼女のダンスは優雅さはないけれど、とても躍動的で、言い方は悪いけれど原始的な力強さがあると思った。

マックスは計画通りに新作を発表した。本のタイトルは「文明」
ヨーロッパにいるマックスは本のサインで忙しくしているけれど、マックスから譲り受けたチュニジアの別荘では、アルウィナは幸せな結婚をして子供が生まれていた。そして、「文明」というタイトルの本は、ロバに食べられていた。(笑)

※劇中に出て来た「ドゥッガの遺跡」は古代ローマのもので、とても巨大だった。広大な丘全体が城壁に囲まれていて、神殿、劇場、浴場などが残っているそうだ。今は世界遺産になっている。

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