ノスフェラトゥ
【リリー=ローズ・デップの熱演 ビル・スカルスガルドの怪演】
(2024年・米・120分)
監督:ロバート・エガース
原題:NOSFERATU
原作:ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』
あらすじは過去作(『吸血鬼ノスフェラトゥ(1922年)』『ノスフェラトゥ(1978年)』)と殆ど同じですが、ヒロインのエレンがノスフェラトゥ(不死者)と幼い頃から繋がっていたという設定が大きく違っていた点でした。
本作の鑑賞を終えた時点で過去作のヒロイン及びラストシーンをどうしても確認したくなり、確認した上で改めて本作を再見しました。
少女時代のエレンは孤独で、その孤独から逃れるために救済を求めて祈ったところ、ノスフェラトゥと心を通わせてしまったのです。以来、エレンは悪夢やてんかん発作のような症状に苦しむようになったのですが、夫トーマスとの出逢いでやっと悪夢から解き放たれたと感じます。しかし、そうではなかった。結婚した早々に再び悪夢を見るようになったのです。
上記のことを前提に物語は進んで行きます。エレンを演じるのはジョニー・デップの娘リリー=ローズ・デップです。孤独と不安に怯えるエレンを儚げに演じ、時には、まるで『エクソシスト』を思わせるオカルトめいた演技も披露してくれました。白目をむいて全身を痙攣させる姿は怖いほどでした。巨大な手の影が彼女に近寄って来るシーンはおぞましく、その支配の強さに抗えないものを感じました。
依頼人のオルロック伯爵(ビル・スカルスガルド)の体温の感じられない威圧と束縛は、恐怖以外の何ものでもありません。オルロックの話す言葉ですが、ドイツ語かなと思っていたら、古代ルーマニアの言語であるダキア語なのだそうです。
オルロック伯爵が大量のネズミが入った棺と共に船でヴィスブルグを目指します。その航海中、船員たちが次々に命を落としていきます。ペストを蔓延させた原因は積み荷にあると考えた船員が、恐る恐る船倉を確かめにいくシーンは怖かったです。棺に手を掛けようとした彼の左肩後方(画面の右)に潜んでいるものを見落とさないでください。ノスフェラトゥの痩せこけた背骨が禍々しいです。
エレンの夫のトーマス・ハッタ―(ニコラス・ホルト)は過去作の夫の誰よりも勇敢でした。オルロック伯爵の狙いはエレンだと確信したトーマスが、弱り切った体で妻の元を目指す姿は愛情に満ちて頼もしかったです。
ムルナウ版、ヘルツォーク版と本作の三作品に共通しているのは、ヒロインが自らの意志でノスフェラトゥに身を差し出すということです。そして、朝までノスフェラトゥを彼女に惹きつけておいて、太陽の光が彼を射すのを待つのです。その自己犠牲と献身の故なのか、彼女の最期のシーンは神々しく清らかで美しいです。
もう一つ共通しているのは、吸血鬼ドラキュラにおけるヴァン・ヘルシングにあたる教授――本作ではフランツ教授(ウィレム・デフォー)が知識だけの人物で、ノスフェラトゥ退治にはまったくの無能であることです。そういう設定(ヒロインの愛でしか太刀打ちできない)なので仕方がないのですが。
リリー=ローズ・デップの熱演には拍手を贈りたいです。憑依された人間を表現するための体当たり演技(眼球上転、痙攣、涎など)に女優としての覚悟・根性を感じました。また、ビル・スカルスガルドの怪演も素晴らしかった。ノスフェラトゥの不気味さには彼の192cmという身長の高さも効果的だったと思います。夫のトーマス役のニコラス・ホルトも身長が190cmあるそうですが、彼の場合は恐怖に引きつった表情がとても真に迫っていて、妻を護るために恐怖に打ち勝つ姿が印象的でした。さんざん無能扱いしたフランツ教授役のウィレム・デフォーですが、彼の存在感は流石です。本作のロバート・エガース監督作品『ライトハウス(2019)』では汚い老人灯台守の役でしたが、時折見せる狂気の表情がいいです。
『ノスフェラトゥ』と『ドラキュラ』とは同じ原作ではあっても、系統が違う作品として枝分かれしたものと思います。
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投稿を表示おー、かずぽんさんもご覧になったんですね。
やはり、リリー=ローズ・デップの熱演に感動されたみたいで、これは鑑賞した方の共通の感想みたいです。他にも、ビル・スカルスガルドの眼が怖かったし、威圧的な演技で”死”の象徴のようなオルロック伯爵の恐怖を表現していました。
美術や照明も19世紀ドイツの雰囲気をかもし出していました。(夜の情景でレンブラントの絵を連想するような映像が印象的でした。)
裏話として、ムルナウが映画化したときには原作者ブラム・ストーカーの未亡人に許諾を得ないままだったので、訴えられて敗訴したのです。まぁ、当たり前ですけど、ムルナウの態度が悪かったのか、ネガを没収、焼却という判決が出ました。
しかし、その頃、ネガやフィルムは世界中に送られており、中でもアメリカでは法律の扱いが錯綜していたのと配給会社がのらりくらりとはぐらかしていたので、映像によっては残ったものもあって、現在も我々が観ることができるので、不正なことなんだけど、良かったと思う心もあって複雑ですね。何年か前にNHK(BSだったと思います。)でドイツのアーカイブで世界中から集められるだけの残存ネガを集めて、原版に限りなく近づけた『吸血鬼ノスフェラトゥ』を放送したことがあって、ダビングした筈なんですけど、どこへしまったのか分かりません。マヌケな話です。
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投稿を表示これって、過去作が有るんですね!
こちらは、来週中に視聴予定です。