カッツ
2025/11/09 07:33
影の車
1970年公開の映画『影の車』は、松本清張の原作を野村芳太郎監督が手がけた心理サスペンスである。主演は加藤剛、岩下志麻、緒形拳、小川真由美。平凡なサラリーマンが、過去の記憶と欲望、そして妄想に翻弄されていく姿を描いた、静かで不気味な物語だ。
主人公・加藤剛演じる男は、毎日会社と団地を往復するだけの単調な生活を送っていたが、通勤途中に幼馴染の岩下志麻と再会し、心が揺れ始める。彼女は未亡人で、気難しい6歳の息子を抱えていた。男は妻と別れ、岩下と新たな人生を築こうとするが、息子との関係はうまくいかず、次第に心の均衡を崩していく。
やがて、男は息子が自分に殺意を抱いていると妄想し始め、現実と幻想の境界が曖昧になっていく。この妄想が引き起こす悲劇は、観る者に「人間の心の闇とは何か」を突きつける。天下の二枚目と美人女優による不倫と殺意の物語は、単なるスキャンダルではなく、心理の深層を描いた文学的な構造を持つ。
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