謎の大富豪に出逢った哀しく切ない夏の日々
「華麗なるギャツビー」(1974)
アメリカ 144分
"米国文学の至宝はどう映画化されたか" Vol.1 (Cover photo: via IMDb https://www.imdb.com/title/tt0071577/mediaviewer/rm2854793472)
今年は、映画と同じく小説についても、さしたる理由も無しにただ何となく、米国の作品主体に目を通しており、スタインベック「怒りの葡萄」を皮切りに、ヘミングウェイ「日はまた昇る」トマス・ウルフ「天使よ故郷を見よ」再びスタインベック「ハツカネズミと人間」フォークナー「響きと怒り」ときて、ようやく彼らと同世代のフィッツジェラルドへ順番が巡り(それにしても19世紀末から20世紀初めにかけて生まれた米国作家の綺羅星の如き顔ぶれたるや)文学史に名を刻む代表作「グレート・ギャツビー」の頁を開いた
この小説ほど読前読後で印象がガラリと変わる文芸作品も他に例を見ない。メロドラマを連想させる題名とは百八十度趣が異なるサスペンスフルで哀切極まりないその内容は訳者村上春樹が指摘するようにフィッツジェラルドのファンだったチャンドラーが「ロング・グッドバイ」の下敷きにした可能性を強く窺わすものだ。本作はこれまで二度映画化(追記:私の完全な知識不足。計四度映画化)されているが、それがどんな風にフィルムで描かれているのかは少なからず気になるところでもあり、早速両者のディスクをレンタルした
まず鑑賞したのはジャック・クレイトン演出の74年版。奇をてらわず原作を忠実にまとめた部分に脚色を担ったフランシス・コッポラの著者へ対するリスペクトの念などが読み取れる。前述の「ロング・グッドバイ」映画化作品が余りに無様な脚色によりストーリーをズタズタに切り裂いたのとは対照的だ(あれを観て私は監督のロバート・アルトマンに「長い別れ」を告げた)大富豪ギャツビーの過去に関する描写が手薄になったため、残念ながら物語の奥行の点では小説に及ばないものの原作ありきの映画のなかでは割と出来良く感じられたのはコッポラの才覚によるところが大きいのかもしれない。中央公論社刊の書籍カバーにも用いられた眼鏡店看板が神の目を象徴する存在として、映画では小説以上の重要なアイテムに設定されていたのが印象に残る。まだ世界恐慌を知らぬ金満連中が夜な夜なギャツビー邸で浮かれ騒ぐ姿と、邸内で或る一件が起きて以降の寂寥とした様子の対比に人間の薄情さを垣間見るラストがとても良い
ロバート・レッドフォードやミア・ファローを始めキャストに適役が揃った。特に語り部を務めるニック・キャラウェイ役サム・ウォーターストンの濁流に呑まれず常に真摯であろうとする雰囲気は原作のイメージにかなり近い。フィッツジェラルドが書いた「ピンクスーツを着たギャツビー」の記述から林家ペーとオードリー春日の像しか頭をよぎらぬ我がイマジネーションの貧弱ぶりを嘆いていたのだが、本作においてラルフ・ローレンのそれを纏ったレッドフォードのショットに触れたことで腑に落ちたのは云うまでもない
【★★★★★★★☆☆☆】
- 原題:The Great Gatsby
- 監督:ジャック・クレイトン
- 脚本:フランシス・コッポラ
- 撮影:ダグラス・スローカム
- 編集:トム・プリーストリー
- 音楽:ネルソン・リドル
- 出演:ロバート・レッドフォード、ミア・ファロー、サム・ウォーターストン
- 劇場公開日:1974.03.29 (米)/ 1974.08.03(日本)
(2025-19)

