愛と尊厳の復活「カラーパープル」
今回は1985年と2023年の2回映画化されている「カラーパープル」をとりあげてみます。1985年版のあとに制作された同名ミュージカルも大変有名な作品ですね。
2作の映画は同じストーリーながらそれぞれの良さがあり、そのあたりにも触れてみたいと思います。
ストーリー
本作の舞台は、1900年代初頭のアメリカ南部、ジョージア州。奴隷制度が撤廃されて久しいものの、主が白人から夫や父親に取って代わっただけの暮らしを送る黒人女性も少なからずいたようです。
黒人であり、貧しく、女であれば殊に生きづらいなか、主人公セリィはそのうえ「醜い」とされ、幼いころから父親に虐げられてきました。
その父親の言うがまま心無い男に嫁がされ、過酷な日常に耐え抜くこと四十年余り。セリィは生き別れた妹を思わない日はありませんでした。姉妹は再会することができるのでしょうか‥
2度の映画化
原作は、アリス・ウォーカーによるピューリッツァー賞受賞の同名小説。スティーブン・スピルバーグ監督(1985年)、ブリッツ・バザウーレ監督(2023年)により、これまでに2度映画化されました。後者には1985年版でメガホンをとったスピルバーグ、出演したオプラ・ウィンフリーらが製作に名を連ねています。
1985年のスピルバーグ版
当時すでに、娯楽作品のヒットメーカーとして不動の地位を築いていたスピルバーグ。本作は、彼が初めてシリアスドラマに取り組んだ作品で、役者の演技、脚本、美術、衣装、編集などすべての要素でリアリズムの文芸作品へ結実させた感があります。それだけに虐待や暴力、荒んだ風景など、惨い描写にも臆することなく挑んだことが伺えます。
ウーピー・ゴールドバーグが主人公セリィ役、テレビ司会で知られるオプラ・ウィンフリーも友人ソフィア役でスクリーンデビューしており、双方見事にはまり役。
音楽はクインシー・ジョーンズが担当し、労働歌やゴスぺル、ジャズなど、多彩なブラックミュージックを登場させています。歌手のシャグ(マーガレット・エイヴリー)がセリィに捧げたブルース「シスター・ソング」など、のちのミュージカル版ヒットを予見させる歌のシーンも素晴らしいです。


ミュージカル色の強い2023年版
スピルバーグ監督作品の後、20年を経た2005年、ブロードウェイミュージカル「カラーパープル」が上演され、世界中で絶賛されました。
その映画版が、2023年のバザウーレ監督作品ととらえて良いかと思います。歌や踊りのシーンが多数です。



2023年版は1985年版に比べてビビットで軽やかな印象、というのが率直な感想です。セリィ(ファンテイジア・バリーノ)が父親や夫から受ける仕打ちなどは、ややオブラートに包まれて表現されています。
1985年のスピルバーグ監督版は原作を尊重した文芸作品として、2023年版は歌をメインに楽しむ作品として、別物ととらえるのが👍
「カラーパープル」は、「差別」や「搾取」、「家父長制」、「自由への抑圧」など人類にとって重いテーマがいくつも盛り込まれたリアリズム作品です。また同時に、苦境に立ち向かい自らの尊厳を取り戻す女性を描いたフェミニズム作品ともいえます。
紫色の花「カラーパープル」に象徴されるのは、この世の美でしょうか。人が人たる感性で、何気なくそれを感じとれる幸せは、かけがえのないものかもしれません。
