見れば勇気モリモリ、てんこ盛り!な映画10選!
どうも、じょ〜い小川です。
今回のテーマは
「新生活にエールを!勇気をもらえる映画10選」。
うーん、基本的にはボクの専門の
「鬱・トラウマ・絶望映画」とは真逆ですね(笑)。
まぁ、それでも見てないわけじゃないし、あるにはありますよ。見方によっては
勇気モリモリ、てんこ盛りって感じですな。
それで今回は不慣れなジャンルなので、それぞれ小見出しをつけてアシストしてみました。
1.愚直に、我武者羅に、体当たりでぶつかる勇気
『宮本から君へ』(2019年)

監督・脚本:真利子哲也/脚本:港岳彦/出演:池松壮亮、蒼井優、井浦新、一ノ瀬ワタル、柄本時生、星田英利、古舘寛治、佐藤二朗、ピエール瀧、松山ケンイチ
まずはのっけから全力の右ストレートの重い一発のようなこの映画。90年代前半に週「刊モーニング」で連載が始まった新井英樹の伝説の同名漫画のドラマシリーズからの映画化で、主演は池松壮亮。

週刊モーニングで連載していた原作は昔読んでいたものの、この時の劇場版の公開時はそれをはっきりとは覚えていなかったのでほとんど前知識なしで見たが、真利子監督による時間軸ずらしの構成と中盤にある重い事件、それと主人公・宮本の愚直さがいい具合いにミックスし、
重いドラマとしては見応え抜群の映画である。

真利子哲也監督のこの前作に当たる柳楽優弥主演映画『ディストラクション・ベイビーズ』もやたらと喧嘩をする愚直な男を主人公としていたが、本作も何か難儀な事があると己の実力も省みない真っ直ぐさと根性で押し通そうとする愚直な男をこれでもかと言わんばかりに見せてくれる。見ている最中に原作を思いだし、宮本の愚直さが原作通りで見事に実写化されている。

本作の見所は草ラグビーの面々と宮本が揉めるくだりであるが、これは原作の後半に当たるパートで、これを時系列通りではなく、一通り事件が終わった後のパートを序盤に持って来ている。このため宮本がなぜ大怪我をしているのか、しかも会社絡みのトラブルであるにも関わらず示談で終息しているのか、さらにはヒロインの中野靖子のお腹の子もわけあり、などいくつかのミステリー案件を抱えつつ宮本・靖子にまつわる過去の事件へと繋がる。この構成が映画版らしい。

そもそも(当時)テレビ東京でこの前半に当たるパートを連続ドラマでやっていたが、中野靖子がよりいっぱい出て来たり、草ラグビーの面々との事件も映画ならではなので
テレビドラマ版を見なくてもとりあえずは問題ない。
なによりも、取引先の部長・真淵役のピエール瀧と部下の大野役の佐藤二朗、真淵の息子役の一ノ瀬ワタルなど脇役がどいつもこいつもインパクト抜群。レイプシーンも生々しいし、アクションシーンも見応えがある。一ノ瀬ワタルのふてぶてしさもいいが、脇役ではあるもののピエール瀧と佐藤二朗がやはり光っている。ヤクザじゃないのに見る者に押しの強さを与えるピエール瀧の存在感は重いドラマには欠かしたくないと再認識。
考えて見れば原作者って『愛しのアイリーン』の新井英樹で、またしても映画向きの重いドラマに仕上がっている。エンディングテーマのエレファントカシマシの宮本浩次が歌う「Do you remember?」がまた見事に主人公・宮本にフィットし、日本映画では珍しく音楽も良い。真利子監督としても前作『ディストラクション・ベイビーズ』よりも遥かにまとまり、展開にも長けている。
愚直な男の重いドラマとして最高である!

2.クライアントの無理難題にアイデアで切り抜ける
『超高速!参勤交代』(2014年)

監督:本木克英/原作・脚本:土橋章宏/出演:佐々木蔵之介、深田恭子、伊原剛志、寺脇康文、上地雄輔、知念侑李、柄本時生、六角精児、渡辺裕之、市川猿之助、石橋蓮司、古田新太、陣内孝則、西村雅彦
佐々木蔵之介主演による歴史コメディ映画。 藩を我が物にしようとする老中の企みにより通常8日かかる参勤交代を4日間に行わなければならない。そこで藩主・内藤は家老・相馬に参勤交代を短縮を命じ、超高速での参勤交代を実現することに。

原作云々よりも、ポップなタイトルと江戸時代の武家社会の習わし“参勤交代”を題材にしていることで惹かれたが、
単なるお江戸コメディというだけでなく「水戸黄門」的な悪だくみ&勧善懲悪、さらにはアクションなど思った以上に見所が多かった。

今の福島県いわき市から東京まで往復で約二週間以上の旅を終えた湯長谷藩の面々が地元に帰って早々にある疑惑を晴らすためにすぐさま江戸まで、しかも通常8日間かかる所を5日間で来いといういじめまがいの要望から始まり、これを湯長谷藩の面々が受けてたつ、という流れ。この無茶な要望を出す陣内孝則演じる老中の悪役ぶりがお見事で、彼のおかげで勧善懲悪な流れが成り立っている。次々とふりかかる無理難題を西村雅彦が演じる知恵者の家老に押し付け、そこに笑いと斬新なアイデアで痛快に切り替えす。

参勤交代という切り口自体は新しいが、よく考えてみれば「水戸黄門」や「弥次喜多珍道中」といった時代劇ロードムービーとそれほど変わらず、映画そのものは時代劇×娯楽作といった所。斬新なアイデアの連続とはいえ、結局ストーリーの骨格は「水戸黄門」で、良く言えば安心して見れるがその枠からはみ出てない点ではそれ以上のものはない。最近では『てれすこ』や『武士の家計簿』と比べても遜色はないが、かといって抜き出てはいない。
序盤、中盤での大根や飢饉に関するネタの伏線の回収もお見事で、石橋蓮司といった大ベテランから上地雄輔やHey!Say!JUMPの知念侑李などもちゃんと使いきるキャスティングなど全体的にしっかりとした作りである。気軽に見る娯楽の時代劇としてはちょうどよいかな。

3.上下関係が厳しい「高校の野球部」という世界に立ち向かう
『野球部に花束を』(2022年)

監督・脚本:飯塚健/出演:醍醐虎汰朗、黒羽麻璃央、駒木根隆介、市川知宏、三浦健人、里崎智也、小沢仁志、高嶋政宏
週刊少年チャンピオンで連載されていたクロマツテツロウの同名コミックを実写映画化した青春コメディ作品。中学でもう野球を止めるつもりだった黒田は、成り行きで高校でも野球部を続けることになってしまう。先輩や監督の厳しい指導に耐え、同級生たちと切磋琢磨していく。

公開当時、原作漫画は知らなかったが、『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』や『榎田貿易堂』を手掛けた飯塚健監督・脚本作品として見た『野球部に花束を』。大方期待通りの高校の野球部カーストを題材にしたコメディで、
甲子園の高校野球シーズンに(公開当時)ピッタリな映画だった。

県立高校の野球部に入部した1年生目線の高校の野球部あるあるを上手く描いた映画で、現代らしいコンプライアンスを気にしつつリアルに、コミカルに展開。野球部カーストに高嶋政宏が演じる監督のクセの強さがコント手前の演出でいいアクセントになっている。

一応、地方都市のそこそこの強さ・規律を持つ県立高校野球部を描いたためか、ずば抜けた天才的なプレイヤーは皆無で、みんなほとんど平均的。そこがリアルとも言えはするが面白み、ダイナミズムに欠けてしまっている。
唯一、駒根木隆介が演じる亀井が意外性があるデブで目立っていて、そこだけ生徒側のキャストて頭一つ抜けていたが、他は正直誰が誰だか分かりにくいぐらい無個性。

そこも含めて平均的野球部の野球部あるあるを楽しむコメディ映画としては正統派で、見た後きっちりとクリーンヒットを打つかのような爽やかさがある。野球部コメディとして佳作である。


4.「好き」を貫き、極めた魚類学者
『さかなのこ』(2022 年)

監督・脚本:沖田修一/脚本:前田司郎/出演:のん、柳楽優弥、夏帆、磯村勇斗、岡山天音、さかなクン、三宅弘城、井川遥
魚類学者、タレントのさかなクンの半自伝的物語を、彼の自叙伝「さかなクンの一魚一会 まいにち夢中な人生!」をもとにして、性別の垣根を越えて女優・のんが演じたコメディドラマ映画。

常にハコフグの帽子をかぶったハイテンションな魚類学者さかなクンの自伝映画をのん主演で映画化した『さかなのこ』。スタンダードな成長記・自伝映画でありながら主人公を男女逆転させたり、さかなクン本人を登場させたり大胆な演出を見せつつ、
上質なヒューマンドラマ映画に仕上げている。

映画は主人公ミー坊の小学生時代、高校時代、そして大人になってからの時代を描いたもので、ミー坊が魚類学者としてメディアに出るようになるまでを描いている。魚に夢中になるミー坊と、極端な偏愛に不安になる父親をよそに温かく見守る母親、奇妙に思いながらも仲良く付き合う友人らとの交友を中心に展開。大人になってからの悪戦苦闘は予想通りながら、そこにいくつかの小学生・高校時代からの登場人物との人間関係を群像的に展開するあたりは沖田修一監督・脚本で前田司郎共同脚本の『横道世之介』にも通じるものが感じられる。



主演をのんにすることで、さかなクン特有のコミカルさと時おり見せる哀愁が自然に演じられ、さかなクンそのものに見える。勢い任せに海に飛び込む様子はテレビドラマ「あまちゃん」の経験があるのんならではだし、不良にも臆せずズンズンと付き合う様子は見ていて爽快さがある。

魚・海の軟体動物への偏愛しながら周りを巻き込み、それを大人になっても押し通し、本人が元来から持つADHDの気質からのドタバタ・悪戦苦闘人生はさかなクンらしくあり、思わぬメディア進出も意外とスムーズに見える。
さかなクン本人を近所に住む魚好きの変なおじさんとして登場させた大胆な演出も見事に決まり、若干のウエットさ、コミカルさを持ち合わせたさかなクンの自伝映画。魚じゃなくても何かに夢中になることは誰にでもあり、それを大人になってからの折り合い方、一本通した奇跡にロマンがある。
さかなクンの世界を飽きずに満喫できる奇跡の日本映画である。



5.イギリスのインディーから世界のWWEへ
『ファイティング・ファミリー』(2019年)

原題:Fighting with My Family/製作国:アメリカ、イギリス/製作年:2019年 監督・脚本・製作総指揮:スティーヴン・マーチャント 出演:フローレンス・ピュー、ニック・フロスト、レナ・ヘディ、ジャック・ロウデン、ヴィンス・ヴォーン、ドウェイン・ジョンソン
プロレス界世界最大の団体WWEの元WWEディーヴァズ王者ペイジことサラヤ・ジェイド・ベヴィスを題材にしたプロレス映画!公開当時、最近のWWEはたまに見るぐらいで女子の流れとか知らなかったし、恥ずかしながらサラヤ・ジェイド・ベヴィスもほとんど知らなかったが、
これが意外にも良かった!!

丸々ペイジの自伝映画ではあるが、上手く実話ベースの王道のスポ根映画・家族映画に仕上げている。
とにかくレスリングファミリーのナイト一家、ペイジ、NXT、世界最大のプロレス団体WWEという素材が良すぎる。イギリスのナイト家経営のインディー団体WAWの様子からからロンドンでのWWEのトライアウト、フロリダのWWEの下部組織NXTでの試練、そしてWWEでの大舞台と綺麗なステップで、家族・兄妹を巻き込んだ紆余曲折のサクセスストーリーで、ベタな展開ではあるがいわゆるアメリカン・ドリームとして単純明快で面白い。


ペイジとナイト家のパンクというかHM/HRというかボンクラなキャラクターが非常に面白く、下品な言葉がズバズバ決まる。プロレスの世界ずっぽりなペイジとプロレスに全く興味がない同世代の女の子の反応や、兄ザックの婚約者の両親のリアクションなど一般の人の目線もしっかりと描けてる。
このイギリス時代のペイジとナイトファミリーの下品でワイルドなノリは1990年代末に大ブレイクした時のWWF(現WWE)のCMにあい通じ、またHM/HRのミュージシャン/ファンの世界観に似た物が感じられる。
NXT時代は必要最低限にしながらもモデルやチアガール出身のお色気ディーヴァのノリと違ったイギリス娘の馴染めなさや、ペイジのメンタルの弱さから来る挫折や孤独を描いている。ややステレオタイプな苦労エピソードだが、スポ根ドラマらしい。それと平行してイギリスに残る兄ザックの落ちる気持ちも描きドラマを盛り上げている。


随所でドゥエイン・ジョンソン本人が出て実話とは違うがストーリーをより面白く盛る演出としては最高で効果的。ドゥエイン・ジョンソン自身も祖父の代からのプロレス一家で、しかも『ワイルド・スピード』シリーズで映画界でもスターになった彼だからこそのオイシイ役である。またHM/HRナンバーの使用が多く、モトリー・クルーの「Wildside」やアイアン・メイデンやモータヘッドなどワイルドなナイト家にピッタリな曲が多く、音楽面でも楽しめる。

サラヤ・ジェイド・ペイジを知らなくても、いや知らない方が紆余曲折のストーリーや数々の演出を楽しめるので、
家族・兄妹映画の側面は強いがWWEが好きな方なら絶対必見!


6.みんなの結婚式で、様々な「ウェディング・ハイ」
『ウェディング・ハイ』(2022年)

監督:大九明子/脚本:バカリズム/出演:篠原涼子、中村倫也、関水渚、岩田剛典、中尾明慶、浅利陽介、前野朋哉、泉澤祐希、佐藤晴美、宮尾俊太郎、六角精児、尾美としのり、池田鉄洋、臼田あさ美、片桐はいり、皆川猿時、向井理、高橋克実
『架空OL日記』や『地獄の花園』の脚本を手掛けたバカリズムと『勝手にふるえてろ』や『私をくいとめて』を手掛けた大九明子監督による結婚披露宴を舞台にした群像コメディ映画! 結婚披露宴が中心の映画と聞いて、見る前は独身の自分に向いてるか不安だった大九明子監督、バカリズム脚本の『ウェディング・ハイ』。
これがまさかの超傑作ウエディング/ウエディングプランナー・コメディ群像劇映画だった!!!!

パッと聞いた設定はロバート・アルトマン監督の『ウエディング』に似てる、というより、オマージュ作品とも見れる。『ウエディング』が結婚披露宴の24時間を描いた作品だったのに対して、『ウェディング・ハイ』は結婚する2人が結婚披露宴の計画を立てる所から始まり、これを費用計算やプランナーとの話し合いから作り上げる。その徐々に結婚披露宴本番に向うサマがあたかもマラソンランナーの「ランナーズ・ハイ」や登山家の「クライマーズ・ハイ」に似た盛り上がりでのドタバタコメディで展開する。


本作のキモはこれを複数のキャラも結婚披露宴本番に望む、それぞれの「ウェディング・ハイ」を見せる部分にある。披露宴を支えるプランナー達はもちろん、祝辞を読む者、祝辞映像を提供する者、乾杯の音頭を取る者など、あらゆる人物の「ウェディング・ハイ」を展開。個人的には高橋克実が演じた上司編や皆川猿時が演じた関連会社の男編がそれぞれの俳優の良さがフルに生かされていて見事過ぎた。
さらに中盤から披露宴進行上のトラブルが起きる。ここでは篠原涼子が演じるウエディング・プランナー目線が多めになり、これが伏線から彼女自身のストーリーなどを次々と展開。


これだけでもウエディング・コメディ映画として十分に高く評価できるが、本作はさらにその上をいった。具体的なことはネタバレになるのでフワッとしか書けないが、あらぬ方向のエピソード、展開が盛り込まれていて、このおかげで単なるウエディング・コメディ群像劇のさらに10歩上をいく映画になっている。これに関するシーンは伏線から意外な繋がりがあり、お見事としか言いようがない。

全体的に結婚披露宴企画、前日、本番のあるあるを元にしたバカリズムの脚本と、元お笑い芸人の大九明子監督の経験やアルトマンの『ウエディング』へのリスペクトとうっすら感じさせる『卒業』の香りが見事に融合した
奇跡のコメディ群像劇である!

7.左遷されても前を向く住めば都
『異動辞令は音楽隊! 』(2022年)

監督・脚本・原案:内田英治/出演:阿部寛、清野菜名、磯村勇斗、高杉真宙、板橋駿谷、モトーラ世理奈、見上愛、岡部たかし、渋川清彦、酒向芳、六平直政、光石研、倍賞美津子
『ミッドナイト・スワン』を手掛けた内田英治監督最新作は鬼刑事が警察音楽隊に異動し、そこで巻き起こるヒューマンドラマ! 長年捜査一課の刑事だった成瀬は、ある日署内におけるパワハラの内部告発をされ、広報課の警察音楽隊に異動することに。成瀬は子供の頃に和太鼓を習っていたことから音楽隊のドラム担当になるが、隊に馴染めず空回りする。

『ミッドナイト・スワン』でメジャー作品への道に進み始めた内田英治監督がやりたい映画をメジャーのプロデューサー(松下剛氏)の元で作り上げた阿部寛主演映画『異動辞令は音楽隊!』。これが見事に音楽隊/吹奏楽隊の映画でありながら、左遷映画、刑事映画、うらぶれ部署映画、コンプライアンス問題映画でもあり、
阿部寛を中心に若手からベテラン俳優まで力を発揮できたトップクラスの日本映画に仕上がっている!

序盤の阿部寛による前時代的なコンプライアンス無視な中年刑事をこれでもかというぐらい描き、その再生劇でもある。その異動先の広報課の音楽隊のうらぶれっぷりが見事。これぞ左遷。そこからの「俺はまだまだ刑事だ!」という主人公のプライドを「住めば都」的な展開にスライドさせ、そこにオセロの裏返しのような心地よさがある。

メインは音楽隊のエピソードだが、主人公が異動直前まで取り扱っていた事件も生きていて、いくつか伏線も回収される。部署から離れながらも刑事ドラマも楽しめる。また、職場におけるパワハラやジェンダー差別といった現代的な社会問題から、親子の断絶や親の介護といった内の問題など様々な社会派要素に切り込む。


それでいて音楽そのものも「セッション」といったキーワードを元にハイクオリティなものを見せる。クライマックスの演奏のアレンジにまで伏線回収が見られ、どこまでも楽しめる。

同系統の傑作である『スウィングガールズ』にも勝るとも劣らない。人生再生とあらゆる社会問題を擁した大人の音楽映画である!

8.サモアの島で底辺から這い上がれ!
『ネクスト・ゴール・ウィンズ』(2024年)

原題:Next Goal Wins/製作国:イギリス、アメリカ/製作年:2023年 監督・脚本・製作:タイカ・ワイティティ 出演:マイケル・ファスベンダー、オスカー・ナイトリー、カイマナ、デビッド・フェイン、レイチェル・ハウス、ビューラ・コアレ、ウィル・アーネット、エリザベス・モス、ウリ・ラトゥケフ、クリス・アロシオ、セム・フィリポ、イオアネ・グッドヒューリーヒ・ファレパパランギ、ヒオ・ペレササ
『シェアハウス・ウィズ・バンパイア』『ジョジョ・ラビット』などのコメディ作品で知られ、俳優としても活躍するタイカ・ワイティティ監督の最新作!

『ジョジョ・ラビット』や『マイティ・ソー』シリーズを手掛けたタイカ・ワイティティ監督最新作とあって期待してみたマイケル・ファスベンダー主演映画『ネクスト・ゴール・ウィンズ』。概ね予想通りのスポーツコメディ映画で、南国のアメリカ領サモアを舞台としたあたりはニュージーランド出身のタイカ・ワイティティ監督としてもうってつけだったであろう。
マイケル・ファスベンダーが演じる零落れサッカー指導者と体型も習慣、気質を含めてサッカーに不向きな世界最弱のアメリカ領サモアサッカー代表による底辺からの這い上がりと住めば都なスポーツコメディ。いわゆる、『がんばれ!ベアーズ』や『メジャーリーグ』、テレビドラマ「スクール☆ウォーズ」のような指導者とダメダメチームの這い上がりをアメリカ領サモアの風景や宗教観たっぷりに味わう作品。敵対チームもそこそこ強そうなトンガ代表チームもちょっぴりヒールな感じで、
弱者のスポーツコメディの王道を楽しめる。

デブデブで呑気なアメリカ領サモアの代表チームの底抜けな弱さが問題というだけでなく、指導者のトーマス・ロイゲンもサッカー指導者として問題児で、アメリカサッカー界から島流し同然でアメリカ領サモアにやって来たから、トーマス・ロイゲン視点として敗者復活感はある。そのトーマスが徐々にチームや島の風習に馴染むあたりに住めば都というか「南の島を毎日観光気分で味わえて、ダメダメチームだけどサッカーの仕事が出来るからいいじゃん」みたいになるのが、見知らぬ地に赴任した経験がある者ならシンパシーを感じる。

それと、チームのキーポイントにもなるジャイヤ・サエルアとトーマスとの衝突のエピソードは真っ向からトランスジェンダーについても描いている作品でもあり、中盤以降のサエルアが男子サッカーのチームに自然と溶け込んでいるあたりはタイカ・ワイティティ監督の手腕と言えよう。また、アメリカ領サモアの宗教事情や試合前にやるオールブラックスのハカのような踊りと掛け声が南国らしく、上手く全面に押し出している。

タイカ・ワイティティ監督らしくコメディとシリアスの塩梅が良く、音楽もいい。後半はあっさりだけど、概ね予想通り楽しめるスポーツコメディ映画である。

9.アフリカ系女子テニス界のアメリカン・ドリーム!
『ドリームプラン』(2022年)

原題:King Richard/製作国:アメリカ/製作年:2021年 監督:レイナルド・マーカス・グリーン脚本:ザック・ベイリン 出演:ウィル・スミス、アーンジャニュー・エリス、サナイヤ・シドニー、デミ・シングルトン、トニー・ゴールドウィン、ジョン・バーンサル
女子テニス史上、アフリカ系アメリカ人でしかも姉妹で頂点にたったウィリアムズ姉妹が父・リチャードと一緒にプロへ挑戦していた頃の時代を再現したスポーツドラマ映画!

テニス史上初のアフリカ系アメリカ人の世界チャンピオン姉妹かプロになる直前・直後の話で、テニス素人父ちゃんリチャードと、これに健気についていくビーナスとセレーナの姉妹の親子の挑戦を描いた『ドリームプラン』。てっきり、女子テニス版「巨人の星」なのかと思いきや、ちょっと違って、
ウィリアムズ姉妹の実話ベースを使ったステージママならぬステージパパの映画だった!

スポーツで猛烈父ちゃんと娘・息子のストーリーって、漫画なら「巨人の星」、実在なら亀田親子、アニマル浜口・浜口京子などわりとあったりするが、そのいずれもが「親も元選手」というパターンが大半だが、ウィル・スミスが演じたリチャードは経験がない素人。そのリチャードが独自のプランで二人の娘をテニスの世界チャンピオンにしてしまった、というもの。

「巨人の星」よろしくなスポ根要素よりも、父ちゃんが二人のマネージャーになってコーチ探しや練習環境、選手権の手配をする、いわゆる“ステージママ”ならぬ“ステージパパ”を見る様子で展開。その点ではリチャードは星一徹というより亀田史郎に近い。その娘らの方針に「ん?」と思うものがあるが、これに1980年代から1990年代前半の人種差別やアメリカ南部のゲットーの治安の悪さなどといった時代背景が盛り込まれていて、単なる親子スポ根に社会派の要素が加味されている。


加えて、この映画の構造は「シンデレラ」や『ロッキー』のようなオーソドックスな成り上がりものとして楽しめる。実際に「シンデレラ」に例えるシーンや家族でディズニーアニメの「シンデレラ」を見るシーンがあり、「シンデレラ」がテーマの一つになっている向きは強ち間違いではなかろう。それと、終盤の試合は『ロッキー』のアポロVSロッキーに近く、奇しくも黒人・白人が逆になっている。
何しろアメリカ人は「アメリカン・ドリーム」が好きである。70年代から80年代に活躍したNWA世界チャンピオンにダスティ・ローデスというレスラーがかつていた。彼のニックネームは「アメリカン・ドリーム」で、決め台詞に「俺は配管工の息子から成り上がったんだ」がある。
『ドリームプラン』の親子の物語はその「アメリカン・ドリーム」を地でいっている。夜間の警備員の親父と看護師の母親が二人三脚で娘たちを育てるアフリカ系アメリカ人、それも女性版「アメリカン・ドリーム」。それも「巨人の星」の鬼のような厳しさよりも、ウィル・スミスが演じていることもあって、どこか楽しげ。

しかしながら、やはりビーナス・ウィリアムズとセレーナ・ウィリアムズがその後テニス界で歴史的な記録を次々に作ったスーパースター、レジェンドであるからこその映画というのはある。この映画、起承転結で言うところの“起”が完全に抜けている。どういう風に「ドリームプラン」を作ったのか、という部分がなく、且つ、ビーナスもセレーナもいきなり才能があるテニス少女で始まっていて、父ちゃんによる教えも終盤な感じ。
敢えて、起承転結の“起”の部分を抜いたスマートな演出、と前向きに見ることはできるが、ならばビーナスとセレーナの実際の基礎情報をWikipediaで見て、押さえてから映画を見た方がいい。
1990年代風味の女子テニス版アメリカン・ドリームとしてそこそこかな。

10.少年らの悪ガキらしさ満点のジュブナイル映画!
『雑魚どもよ、大志を抱け』(2023年)

監督・脚本・原作:足立紳/脚本:松本稔/出演:池川侑希弥、田代輝、白石葵一、松藤史恩、岩田奏、蒼井旬、坂元愛登、新津ちせ、臼田あさ美、浜野謙太、河井青葉、永瀬正敏
『嘘八百』シリーズの脚本や『喜劇 愛妻物語』を手掛けた足立紳監督による少年4人を中心としたジュブナイル映画!
『喜劇 愛妻物語』を手掛けた足立紳監督による80年代末期を時代背景にしたジュブナイル映画『雑魚どもよ、大志を抱け!』。
1988年の時代背景が生々しく、品行方正さなんぞクソくらえな子供らの悪童ぶりに少年たちの弱さと秘められた勇気といったテーマを終始存分に効かせながら、子供目線での大人たちの世界・事情も垣間見ることができ、足立紳監督の師匠にあたる相米慎二監督の『ションベン・ライダー』の匂いと『生れてはみたけれど』や『スタンド・バイ・ミー』といった古今東西の名作ジュブナイル映画の要素がしっかり盛り込まれ、
足立紳監督の脚本執筆から20年近くかけて作り上げた執念の実りを痛感する。

前半の展開は各子供たちや家庭環境、学校、普段の遊びの様子など、情報量たっぷりでテンポも早い。メインは隆造をリーダーとした瞬、正太郎、トカゲのグループで、性格、話し方、癖、好きな物までガッチリと見せ、そこから塾仲間の西野聡、隆造と対立する悪ガキグループのリーダーの明、そして転校生の小林幸介が加わり、4人の関係が微妙に揺れ動く。中盤から映画マニアの西野の映画好きが高じた映画作りと彼が抱えるある問題が浮上し、後半にその問題が隆造・瞬グループにも降りかかり前半とは別の盛り上がりを見せる。


本作はこうしたストーリーを骨格として、教育、各家庭の経済事情・家庭環境、そして細かい部分で大人たちの事情も巧妙に入れる。臼田あさ美が演じる乳がんを患いながらも教育熱心な瞬の母親には、結婚前に飛騨にやって来たネアカな女で地元に馴染みにくかったという過去があり、そこには高峰秀子主演の『カルメン故郷に帰る』の隠し味を感じるし、加えて永瀬正敏が演じるヤクザで飲んだくれで粗暴な隆造の父親に相米慎二監督の『ションベン・ライダー』の陰を見る。
また、学校の担任教諭や体育教師、校長先生、女性教師らとの浅いやり取りもちょっとしたスパイスになっているし、ワンポイントながら駄菓子屋の婆さんもメインの4人の家庭環境が分かるシーンにもなっているので、極めて重要なシーンで且ついいアクセントになっている。こうしたあくまでも子供目線の大人たちの世界もチラチラ見えるあたりが、他のジュブナイルドラマ、映画とは一線を画している。


途中途中で出てくる地獄トンネル呼ばれるトンネルやクラスメイトが嫌な目に遭っている場での気持ち、そして後半の出来事など、映画の大きなテーマとして少年の「弱さ」、「勇気」、「逃げ」、「走る」などが随所で伺える。一步間違えればNHK教育TVの小学生向け道徳ドラマになりかねない作品を、時代性と映画ファン目線、瞬の母親、隆造の父親、後半の出来事で大きく映画のカラッとした色彩を塗りたくり、より本格的な社会派目配りがありながら叙情的な味わいで締める。

少年らの悪ガキらしさ、相米イズムもあり、1988年の飛騨市のジュブナイル映画としては完璧。
20年かけた足立紳監督の執念と作品に込められた“勇気”をヒシヒシと感じ取れる。


ということで、今回は「見れば勇気モリモリ、てんこ盛り!な映画10選!」として映画を10本紹介しました。
10本中8本が邦画というチョイスになってしまったが、
「新生活」というのを頭に入れるとどうしても身近な日本での出来事…という方向性に行きましたね。
あと、転勤・新生活ものが4本、スポーツものが4本といった偏りもあり、さらには全体的に明るめの作品が集まりましたかね。
まぁ、ボクもこういう映画が好きですよ、という意外性アピールにもなったかな。

ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示『異動辞令は音楽隊! 』って、どうなんだろう?って思って観たからか、すごく面白かったです。
困ったところとか、慌ててるところ、阿部さんらしくて・・・
ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示すっごいボリュームwwww
なんか、じょ〜いさんの声で、この題名を脳内再生したらツボに入ってしまい止まりませんwwww🤣🤣🤣
ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示ボクの映画の見方が一つのジャンルに特化してないことがここでは生きましたね。
『さかなのこ』はその年の日本映画ではトップクラスのクオリティでしたね。
ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示10選、なかなか出せませんー👀💦 改めて、引き出しをたくさんお持ちですね✨
「さかなのこ」みてみようと思います🐟