私の好きな映画

巨匠の忘れられそうな作品「ライアンの娘」

巨匠D・リーンが描くイギリスーアイルランドの諸事情

 

「戦場にかける橋」、「アラビアのロレンス」と連続してアカデミー賞を受賞したD・リーン監督。

「ドクトルジバゴ」は受賞ならずとも、北米では記録的なヒットをし、

作品の評価、興行とも成功した巨匠という名をほしいままにしました。

 

その次作が「ライアンの娘」。

過去3作には原作があり、また実在した人物、出来事を映画化したのに対し、

本作は原作もないオリジナル作品です。

最後の70ミリ映画

SUPER PANAVISION、フル70ミリで3年間にわたる製作期間、3時間を超える超大作。

これ以降、トムクルーズ夫婦が出た「遥かなる大地」までフル70㎜作品はつくられておりません。

 

巨匠のフィルムモグラフィからして、知名度の低い作品です。

興行成績は北米はベスト10に入っていて、3000万ドルと「ドクトルジバゴ」の1/3以下。

日本では配収ベスト10に入っていないのでわかりません。その公開時は「アラビアのロレンス」が再映され、配収第10位になっています。

テレビ放映は過去作品がいづれも前編、後篇の2週にわたって編成されていたのですが、

本作は30分延長枠での放送。正味2時間少々に短縮されていて、こんな扱いでした。

 

アイルランド独立戦争前西部・寒村を舞台にした

地味なお話で・・・

働き口もない村の人たちが登場人物でこれといった人物が出てきません。

冒頭の断崖の情景は70ミリを生かした美しさが投影され、主人公のサラマイルズがお散歩していて、持ってる日傘が崖下に落とします。

この情景もスクリーンでないと認識できないスケールです。

この雄大な景色を見せながら、登場人物の心情、出来事を映像で見せていきます。

サラマイルズはこの村での生活が退屈でしょうがなく、

かつての恩師で初老のロバートミッチャムと結婚します。

 

ライアンの娘のライアンとは?

タイトルのライアンはサラマイルズのおとっつあんで町の居酒屋を経営しています。

黒澤明的な展開で、アイルランドの民衆を描くのです。

 

そこに駐留してきたイギリス軍将校ドリアン少佐がやってきました。

こころにキズを持った悩める軍人なのですが、

結婚するも夫婦生活が満たされないサラマイルズと禁断の愛にすすんでいきます。

 

70ミリで見せるエロティシズム

ふたりは人知れず森の中で体を重ね合います。

70ミリで××シーンを展開するのです。

過去、70ミリ映画でこのような大胆な濡れ場を見たことはありません。

 

わたしは作品を見る前に、映画雑誌でグラビアで見たのですが、

D・リーンがんなシーンを撮ったのか、と驚いたものです。

 

アイルランドにみるヨーロッパの事情

一方、独立運動の闘士たちがドイツから密輸した兵器を密かに運ぶのだが、それがこのイギリス軍にみつかってしまいます。

これはサラマイルズが密告したと村人たちはそう信じこみ、サラマイルズは髪の毛を切られ、衣服をやぶれられるリンチにあいます。

ロバートミッチャムは妻を守るべく抵抗しますが、あえなく民衆の前に倒れてしまいます・・・

 

その渦中のドリアン少佐は自殺、密告したのはサラマイルズの父、ライアンだったと。

 

ロバートミッチャム、サラマイルズは離婚を前提にこの町を去っていきます、それでおわり・・・

 

アイルランドとイギリスの関係はあんまり理解していないのですが

イギリス人のD・リーン監督にとって、描くべき題材であったんでしょう。

ヨーロッパは民族の対立、分断など大陸ゆえのいろんな歴史があります。

D・リーン監督はそれをアイルランド人の視点で

日常を描きます。

主人公二人の夫婦関係、しっくりいかない。

そして不倫にはしる妻に疑惑を抱き、苦悩するR・ミッチャム。

彼らを見守る町の神父をイギリスの名優T・ハワードが演じ、道化師役で登場する

心、身体に障害を持つ町の嫌われ者をJ・ミルズが演じ、このストーリーの第三者的視点で展開させます。

その美しい映像と、その映像描写で説明的セリフはなしのはこびは

巨匠ならではなのですが、なにせ大きな展開がない。地味なんです・・・

「アラビアのロレンス」「ドクトルジバゴのようなスペクタクルシーンがなく、なにせ長い。

サラ・マイルズはどことなく、ジュリークリスティの面影があって、D・リーン監督の御好みなんでしょう。R・ミッチャムはアイリッシュの血筋ってことで起用したのでしょう、

ハリウッドでのタフガイややあぶない男と一転して生真面目な教師を演じています。・・・

 

いまいちなのが、この不倫相手の軍人を演じたC・ジョーンズです。

全然魅力がなく、感情移入できませんでした。

 

T・ハワードがだいだい官僚的役や軍人など厳格な役柄が多いのですが、ここでは人情ある宗教者を好演しています。

もうひとり、特徴的なキャラクターで、こころも障害をもつ男。

町民にバカにされて常にいじられています。サラ・マイルズにも近寄るなって嫌わていたのですが、

町を去るときには全く逆の行動をとります。

道化師的な役割をしていて、演じたジョン・ミルズはアカデミー賞を獲得します。

この手の役にアカデミーは賞を与えてきました。

 

撮影のF・ヤングも「ドクトルジバゴ」に続いてアカデミーを受賞しています。

カメラワークの美しさは、なるほどなものです。

 

しかし、D・リーン作品はずっと作品賞、監督賞はいづれもノミネートされてきました。

本作はノミネートなしで、監督自身もショックだったらしいです。

 

名声を得て来た巨匠が挑んだ作品でしたが、

埋没してしまった?作品でした。

キネマ旬報ベスト10もはいっておらず、20位までにもなかった・・・

 

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1 件の返信 (新着順)
LOQ
2025/07/11 18:47

映画史に残る名作を作った巨匠が、観客と自身の評価基準のハードルが上がってしまい、完全主義に陥って、小品として軽くさっと撮るべきなのに、企画が流れるうち現場勘を失って、かたく重い精彩を欠く作品を撮ってしまう・・・いわゆる「 巨匠病 」。

黒澤明、フランシス・フォード・コッポラ、ビリー・ワイルダー、スタンリー・キューブリック、ベルナルド・ベルトルッチ。あるいは宮崎駿も ? 言われてしまいますが、デヴィッド・リーンは代表例でしょうか。

結局次の『 インドへの道 』まで14年のブランク。
『 ガンジー 』『 太陽の帝国 』『 ノストローモ 』などのメガホンをとることはありませんでした。