映画『普通の人々』~家族の崩壊を乾いた眼差しで見つめる名作ドラマ~
概要
作家ジュディス・ゲストによる映画と同名の小説を俳優ロバート・レッドフォードが監督を務めて映画化した作品。長男がボート事故で亡くなったことを境に崩壊していく家族の姿が描き出されていく。第53回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、脚色賞の合計5部門でノミネートされた。監督デビューを果たした俳優ロバート・レッドフォードが初ノミネートにして監督賞を受賞。他に脚色賞と作品賞を受賞した。さらにティモシー・ハットンがアカデミー助演男優賞を受賞した。

監督
ロバート・レッドフォード
出演
ドナルド・サザーランド
メアリー・タイラー・ムーア
ティモシー・ハットン
ジャド・ハーシュ
エリザベス・マクガヴァン
あらすじ
アメリカ・イリノイ州シカゴ郊外。
弁護士カルヴィンは妻ベスと次男コンラッドの3人で暮らしている。しかし、長男バックがボート事故で亡くなったことで家族の関係が壊れ始めていく。
ベスは長男の思い出に浸って次男コンラッドに冷たく当たり、次男は兄と同じボートに乗っていながら自分だけが助かったことに罪悪感を抱いていた。
2人の間を取り持とうとするカルヴィンだったが、全てが空回りするばかりであった。
映画評
ハリウッドの正統派二名目俳優ロバート・レッドフォードが初めて監督を務め、初ノミネートにして初めてアカデミー監督賞を受賞した作品。クラシックの名曲パッヘルベルの「カノン」がピアノで奏でられながら映画は幕を開ける。
そして映し出されていくのはアメリカのある家族の崩壊だ。長男がボート事故で亡くなったことから父親、母親、次男3人の心の奥底に秘めていた感情が少しずつ露わになっていく。長男の思い出だけに浸って次男に冷たい母親、兄と同じボートに乗りながらも自分が助かったことに罪悪感を抱く次男、そして2人の潤滑油になろうとするもののただ空回りする父親。静かな空気の中にヒリヒリとした痛みが感じられ、家族の関係にヒビが入っていく音が聞こえてくるようだ。
朝食のシーンに母親と次男の深い溝が感じられる。次男の好物であるフレンチトーストを母親は出すが、次男は全く食べない。それを知るや母親はすぐにフレンチトーストを捨ててしまうが、このシーンに母親と次男との深い溝を象徴している。どこか作り物めいた笑顔が次男に冷たい母親の感情を表現している。
トリビア
ボート事故で生き残ったことで自責の念に駆られる次男コンラッドを演じたティモシー・ハットンは弱冠20歳でアカデミー助演男優賞を受賞し、史上最年少の受賞者となった。
ハットンは役作りのために精神科で研修を受けて日記をつけ、孤独な青年を創り上げていった。
ロバート・レッドフォードは初めて監督を務めた本作『普通の人々』で初ノミネートにして初のアカデミー監督賞を受賞した。
メアリー・タイラー・ムーア演じる母親とティモシー・ハットン演じる息子の距離感を出すために監督を務めたレッドフォードは2人を引き離す演出を徹底した。
父親役を希望したドナルド・サザーランドは撮影開始時にすぐさま髭をそり落とした。
第53回アカデミー賞授賞式は1981年3月30日に開催される予定だったが、その日にロナルド・レーガン大統領が狙撃されたことで翌日に延期された。
メアリー・タイラー・ムーアは国民的コメディ女優として有名であったが、本作『普通の人々』では温かな笑顔の裏に冷淡さを秘めた演技を見せてアカデミー主演女優賞にノミネートされた。
映画『普通の人々』予告