オススメ教えて!

J.T.Hammer
2025/05/25 16:25

初老の牧童が導く過酷な越境ロードムービー

◤ ℍₐₘₘₑᵣ 𝔽ᵢₗₘ 𝕋ₕₑₐₜₑᵣ ◢

Photo: via IMDb

【2025 - No.25】

〜 ギジェルモ・アリアガ作品集 Vol.1 〜

𝐆𝐮𝐢𝐥𝐥𝐞𝐫𝐦𝐨 𝐀𝐫𝐫𝐢𝐚𝐠𝐚 𝐖𝐨𝐫𝐤𝐬 

( Cover photo: via IMDb )


メルキアデス・エストラーダの

3度の埋葬

 

フランス・メキシコ・アメリカ 

121分 2005年


今世紀に製作された映画のなかでも取分け優れていると思うのがアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ演出「21グラム」だ。現在・過去・未来が断片的に交錯しながら(それはフォークナーの小説を彷彿とさす)男女三人の人生模様を描くこの秀逸なる脚本はメキシコ出身のライター、ギジェルモ・アリアガによって執筆された。此度は彼の作品にスポットライトを当ててみたい

テキサス州に位置する片田舎を舞台に、初老の地元牧童ピート、不法入国のメキシコ人牧童メルキアデス、新任の国境警備隊員マイクを主要な登場人物に据えた本作の内容は鎮魂と贖罪がテーマとして扱われ、説教調ではなく絶妙な塩梅で物語に織り込められた宗教性に脚本家アリアガの確かな手腕を感じさせる。メルキアデスの遺体を故郷へ返すべく歩を進めるピートとマイクの越境旅は非情にして過酷を極めるがその道程におけるふたりの関係は「父と息子」或いは「師と弟子」に近い。ラストでピートがマイクに向けて呼びかける「Son」の言葉はそれを端的に表し(字幕では若造と訳されていたがここはやはり息子とすべき)対するマイクの返答にも利己的だった彼の明らかな人間的成長が窺えることから、この物語は謂わば我が子を谷底へ突き落すピート流の手荒な教育の話とも考えられる。また、時代設定が現代にも拘わらず劇中で全く誰も携帯電話の類を使用せず、ピートとマイクの移動手段は馬に限られるなどのアナログ要素が全体の雰囲気に聖書のエピソードめいたものをもたらした点も興味深い。一昨年亡くなった米国文壇の雄コーマック・マッカーシーはメキシコ国境付近を背景に数々の名作を書いたが「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」には何となくそれらと通じ合う部分があり(例えばピートとマイクが途中で出会う盲目の老人はいかにもマッカーシーの小説に出てきそうだ)アリアガがマッカーシーの影響を受けた可能性を見出せる

女性が単なる色恋沙汰の対象たる「お飾り」に成りがちなマチズモ系映画とは一線を画し各々自分の存在を主張しているところにも本作の魅力が認められよう。特に夫を愛していると常々口にしながらも娯楽に乏しい小さな町で暮らす気晴らしに複数の男と情交を重ねるレイチェルはメリッサ・レオの演技力も相まって強いインパクトを残す。浮気相手のピートから突然結婚してくれとプロポーズされて断った後の彼女の表情をどう捉えるべきか、私は答えを量りかねている

 ★★★★★★★★☆☆


Photo: via IMDb

監督 トミー・リー・ジョーンズ

脚本 ギジェルモ・アリアガ

撮影 クリス・メンゲス

編集 ロベルト・シルビ

音楽 マルコ・ベルトラミ

出演 トミー·リー·ジョーンズ, バリー·ペッパー

受賞 2005年カンヌ映画祭男優賞, 脚本賞

公開 2005.12.14 (米)/ 2006.03.11 (日本)


Upcoming Film Review ↣↣↣

"あの日、欲望の大地で" (2008)

コメントする