【Foyer vol.2:Cinema Chupki TABATA】全ての人へ銀幕の光を——映画を観て、世界の見え方が変わる場所
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目が見えなくても、耳が聴こえなくても、足が不自由でも
映画の感動を、全ての人へと届ける——
全ての人にひらかれる多様な社会へ
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目次
1. 日本初のユニバーサルシアター
2. 全ての人に寄り添うための取り組み
3.無数のサインから感じる映画への愛
4.五感に寄り添う映画体験
5. 映画は誰のものか?
1. 日本初のユニバーサルシアター
山手線の中でも比較的落ち着いた下町、田端。東京藝術大学から程近く、かつては芥川龍之介、板谷波山など名だたる文士、芸術家たちが暮らしていた。そんな情緒溢れる街にある映画館「Cinema Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)」。 座席数は25席。目の見えない人、耳の聞こえない人、車椅子の人、子育て中の人など、全ての人が映画を楽しめる日本初のユニバーサルシアター。

障がい者だから優遇されるという訳ではなく、「どんな人も一緒に楽しめる」。その当たり前で、しかしどこにもなかった場所を作るため、クラウドファンディングで多くの人々の想いを集め、2016年に開館した。館内には支援者の名前がびっしりと生い茂った「チュプキの木」が描かれている。

2. 全ての人に寄り添うための取り組み
チュプキの運営母体は、20年以上の歴史を持つ「バリアフリー映画鑑賞推進団体City Lights」。その活動の原点は、「映画の感動を、全ての人と分かち合いたい」という純粋な想いだ。その中心にあるのが、目の見えない人と映画を「共に楽しむ」ための音声ガイド制作である。音声ガイドとは、セリフの隙間でシーンの視覚情報を補うナレーションのことであるが、単に映像を説明するだけではない。映像を見たままの情報を全て伝え切ることができる訳ではないため、作り手の意図を読み解き、物語の核となる情報を取捨選択する必要がある。さらには、作品の世界観やリズムを壊さぬよう、言葉を慎重に選び、セリフや音楽と重ならない絶妙なタイミングでナレーションを差し込む。その繊細な作業は、観客の想像力に寄り添う「第二の脚本」を書き起こすかのような、もはや一つの創作活動と言える。そんな地道な努力を積み重ね、チュプキでは、常時、全席に音声ガイドや本編の音の増幅ができるイヤホンジャックを設置。さらに、日本語字幕も全ての映画に付けられ、目の見えない人、耳の聞こえない人がいつでも映画を楽しめる環境を実現している。

そして、映画好きの中には映画を観るたびに必ず買うという方も多いパンフレット。チュプキではそんなパンフレットの魅力を目の見えない人にも届けようと、「パンフレット朗読会」も行なっている。こうした活動の一つ一つの積み重ねが「ユニバーサルシアター」というものを作り上げている。

3.無数のサインから感じる映画への愛
チュプキのロビーに入って誰もが目を見張るのが、壁一面を埋め尽くすサインの数々。今は亡き日本を代表する大女優の樹木希林をはじめ、『ケイコ目を澄ませて』の三宅唱監督や、『アルプススタンドのはしの方』の城定秀夫監督など、多くの映画人たちがその名を刻んでいる。全ての人に映画を楽しんでもらうために様々なことに取り組むチュプキを応援したいという、意思表示の署名のような、ビッシリと書き込まれたサインからは溢れんばかりの映画愛が感じられる。

その無数のサインの中に、人気声優・小野大輔の名前もある。彼はチュプキの活動に賛同し、アイルランドの長編アニメーション映画『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』の音声ガイド制作に協力した。他にも『秒速5センチメートル』を梶裕貴、『劇場版ソードアート・オンライン-オーディナル・スケール-』を戸松遥がそれぞれ音声ガイドナレーションを務めており、第一線で活躍するプロ声優の起用が、「音声ガイド」というものを福祉の文脈だけでなく、新たなエンターテインメントの可能性をも示した。

4. 五感に寄り添う映画体験
「チュプキ」という名前の由来は、アイヌの言葉で「自然の光」を意味する。木漏れ日のような照明に導かれスクリーン内に入ると、そこには優しさに満ちた空間が広がっている。

全25席のコンパクトな場内は、前3列は段差がないフラットな設計。最後列には、車椅子ユーザーが鑑賞できるようにすぐに取り出せる椅子を設置している。また、小さいお子様を連れた親御さんも周りを気にせずに映画を楽しめる親子鑑賞室も用意されており、泣き声や話し声を気にすることなく過ごせる。まさに誰もが不自由なく映画を楽しむことができるユニバーサルデザインとなっている。

そして、音響には『ガールズ&パンツァー』シリーズや、映画『スパイダーマン:スパイダーバース』(吹替版)などを担当した巨匠・岩浪美和が設計した「フォレストサウンド」。天井にもスピーカーを配した立体音響システムが、まるで森の中で音の粒子に包まれるような、柔らかく繊細な音響体験を生み出す。
ユニバーサルな優しさと、映画ファンを唸らせるプロフェッショナルなこだわり。その二つが見事に両立しているのが、チュプキのスクリーンなのだ。

5. 劇場の在り方
Cinema Chupki TABATAでは、自分とは違う誰かと、同じ空間で心を震わせる一体感をより強く感じさせてくれる。ここでは、映画という窓を通して、社会の多様性そのものを体感できる。

全員に映画を届けたいというチュプキの哲学が強く感じられるのが、「U-22★ギフトチケット」というユニークな制度。これは、大人が未来の映画ファンのためにチケット代を寄付(ギフト)し、高校生以上・22歳以下の若者が無料で鑑賞できるというもの。世代を超えて映画体験という文化を贈る、未来への投資である。
企画概要はこちら、チケットを買う人はこちら、チケットを使いたい方はこちら、をそれぞれ確認!

障がいのある人もない人も、大人も子どもも、映画の作り手も受け手も。全ての人が同じ光の下に集い、同じ物語に心を震わせる。Cinema Chupki TABATAは、映画が持つ本来の力を信じ、全ての人にその扉を開き続けている。この小さな映画館が灯す光は、これからの社会がどこへ向かうべきかを、静かに、しかし力強く示している。
Cinema Chupki TABATA
インスタグラム:https://www.instagram.com/cinema.chupki/
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