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J.T.Hammer
2025/07/06 18:00

マジックアワーが生む写実主義絵画的世界観

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© 2025, 1978 by PARAMOUNT PICTURES 

【2025 - No.31】

𝒀𝒐𝒖'𝒓𝒆 𝒚𝒐𝒖𝒏𝒈, 𝒚𝒐𝒖'𝒓𝒆 𝒉𝒖𝒓𝒕

〜 若さゆえ君は傷つき Vol.2 〜


天 国 の 日 々

アメリカ 94分 1978年


これまで本作には何度か目を通してきたが今回が一番この物語の主題を理解出来たように思えた。それは凡人の小生がようやく監督テレンス・マリック、ハーバード大学を哲学専攻で首席卒業した人物、の思想の一端に指が触れた瞬間だったとも云える

第一次世界大戦の最中に季節労働者としてテキサスの農場へ流れ着いた青年ビルの姿を通して人間の愚かさを謂わば神の視点にて捉えた映画だ。余命幾許もない農場主に兄と偽ったうえで恋人アビーを嫁がせ安楽に富を享受しようと考えたビルは傲慢・強欲・憤怒・嫉妬・怠惰の大罪を犯して神の怒りを買い自らに悲劇を招く。劇中起こる災厄の渦中でアビーがビルに対して呟く(事実を)知ったのね、の言葉の主語は農場主であると同時に神の意を含むのだろう

イナゴの大群が実ったばかりの麦を喰い荒らすシークエンスは出エジプト記における災いを、平原が燃える描写はソドムとゴモラに関する記述を、ビルとアビーの逃亡はアダムとイヴの楽園追放を、そして仮初めの義兄ビルと農場主の諍いはカインとアベルの確執を想起させるほか、画面に映し出される動物たちのそれぞれにキリスト教的啓示を窺わす。ややもすればこの「天国の日々」はバルビゾン派の画家がキャンバスに描いたかの如き映像美主体で語られることの多いフィルムだが実はストーリー自体大変計算されているのに改めて気付く。ビルが川で落としたグラスを水中撮影で収めた何気ないショットなどもその後彼が迎える最期を暗示しておりマリック自身が手掛けた脚本の緻密さには感嘆せざるを得ない

© 2025, 1978 by PARAMOUNT PICTURES 

ビルの勧めに従うがまま半ば軽い心持ちで農場主と結婚したアビーはやがて彼を本気で愛してしまうのだが、アビーに扮するブルック・アダムスが話の進行に伴いみるみるうちに綺麗になっていくのがハッキリと分かる。身体を酷使する労働者から領主の妻へ転身してのメイクや衣装変化の影響も勿論あろうがどうもそれだけではないようにも感じられる。彼女に向けて一体マリックがどんな演出をしたのかが興味深い

カメラマンにネストール・アルメンドロス、スコアにエンニオ・モリコーネを起用し極めてヨーロッパ風の枠組みを形成ながらも骨格はフォークナーやスタインベックの小説に連なるアメリカ的物語を有した本作は鑑賞を重ねるごとに味わいが増す名画のひとつ。今春監督監修による4Kレストア版が公開されたのは記憶に新しいがここはぜひジャケ買いしたくなる装丁を施したブルーレイの販売も検討してほしいところだ

★★★★★★★★★★


© 2025, 1978 by PARAMOUNT PICTURES 

原題 Days of Heaven

監督 テレンス・マリック

脚本 テレンス・マリック

撮影 ネストール・アルメンドロス, ハスケル·ウェクスラー

編集 ビリー・ウェバー

音楽 エンニオ・モリコーネ

出演 リチャード・ギア, ブルック・アダムス

受賞 1979年カンヌ映画祭監督賞, 同年アカデミー賞撮影賞

公開 1978.10.06 (米)/ 1983.05.13 (日本)

𝑯𝒂𝒎𝒎𝒆𝒓 𝑵𝒐𝒕𝒆

舞台設定はアメリカ南部テキサス州だが実際の撮影は地理的には真逆のカナダで行われた。ビリーとアビーが逃亡を図る場所はメキシコを彷彿とさせる風景なのでプロの仕事とは云えとてもよく似たロケーションを探し当てたものだと思う


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