
【ネタバレあり】伝わる時代と、伝えなければならない時代『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』

一足早く、試写にて本作を鑑賞させていただきました。ケイト・ウィンスレットと言えば、恋愛作品に多数出演しており、『タイタニック』を始め『エターナルサンシャイン』や『ホリデイ』『愛を読むひと』など名作も勢ぞろい。しかし、それらの作品と本作が違うのは「彼女の中心は恋愛ではない」ことだ。彼女の見慣れた恋愛スタンスにも触れつつ、”真実”を追い求め続ける野生心溢れるキャラクターを堪能してもらいたい。
■目次
なぜ、彼女にスポットライトを当てるのか
様々な視点で感じる”繋がり”
伝え方まで考えられたソラリゼーション
以下、ネタバレを含みます。
■概要
トップモデルから転⾝、歴史的⼀枚“ヒトラーの浴室”を記録した、 20 世紀を代表する⼥性報道写真家の情熱的で数奇な運命を描く実話。本作の製作総指揮でもあり、主演としてリー・ミラー役を務めたケイト・ ウィンスレットは、20 世紀の男性社会に⾶び込み、使命を持って写真を撮 り続けたリー・ミラーの⼈⽣に深く感銘を受け映画化を熱望。8 年以上の 歳⽉をかけ、偉⼤な写真家リー・ミラーの知られざる⼈⽣が遂に映画化。
■あらすじ
「傷にはいろいろある。⾒える傷だけじゃない」
1938 年フランス、リー・ミラー(ケイト・ウィンスレット)は、芸術家や詩⼈の親友たち──ソランジ ュ・ダヤン(マリオン・コティヤール)やヌーシュ・エリュアール(ノエミ・メルラン)らと休暇を過ご している時に芸術家でアートディーラーのローランド・ペンローズ(アレクサンダー・スカルスガルド) と出会い、瞬く間に恋に落ちる。だが、ほどなく第⼆次世界⼤戦の脅威が迫り、⼀夜にして⽇常⽣活のす べてが⼀変する。写真家としての仕事を得たリーは、アメリカ「LIFE」誌のフォトジャーナリスト兼編集 者のデイヴィッド・シャーマン(アンディ・サムバーグ)と出会い、チームを組む。そして 1945 年従軍 記者兼写真家としてブーヘンヴァルト強制収容所やダッハウ強制収容所など次々とスクープを掴み、ヒト ラーのアパートの浴室でポートレイトを撮り戦争の終わりを伝える。だが、それらの光景は、リー⾃⾝の ⼼にも深く焼きつき、戦後も⻑きに渡り彼⼥を苦しめることとなる。
なぜ、彼女にスポットライトを当てるのか

本作を語る上で、A24史上最大規模&2週連続全米1位を獲得した『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を語らずにはいられない。『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の主人公リー・スミスはまさに本作のリー・ミラーから取られた名前だ。『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は女性戦場カメラマンが大統領にインタビューすることを目指し、アメリカ国内での争いの勃発を描く作品だが、本作はまた毛色が異なる。リー・ミラーという本名をタイトルにしている部分から分かる通り、自伝的作品に仕上がっている。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』然り、『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』についても言えるのは現代社会における進歩と、価値観の違いだ。2023年時点で、世界のスマートフォン所有率は世界人口の約半分(49%)、日本においては90.6%の普及率を誇る。加えて、スマートフォンで撮影した写真はほんの数秒後には世界の人に共有できてしまう世の中。それに反して『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』では彼女の人生・命をかけて収める一枚。第二次世界大戦の時代と現代における写真にかける重さは如実に描かれていることが分かる。
リー・ミラーに焦点を当てることで、現代の記録・情報発信の手軽さを改めて感じることができ、さらには過去における記録・情報発信の重要さや困難さを実感してもらいたい。
様々な視点で感じる”繋がり”

本作を観ていて、いくつか”繋がり”を感じられる箇所を紹介する。
■ケイト・ウィンスレットとキルスティン・ダンスト
キルスティン・ダンストと言えば、前述でも述べた通り『シビル・ウォー アメリカ最後の日』で主役を務めた女優だ。主演作品が多い、というよりか助演作品に多く登場するイメージだが、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』では大人でアグレッシブな彼女が出ていた。そんな彼女はリー・スミスを演じていて、本作ではケイト・ウィンスレットがリー・ミラーを演じていた。参考になったモデルが同じという共通点もありながら、実は『エターナル・サンシャイン』でも共演している。2004年から約21年が経過しようとしている今、彼女らが作品を通じて繋がっていることは明らかである。
■「ミラー」について
本作のタイトルは『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』となっているが、様々な視点からも「ミラー」繋がりが感じられる。元々は被写体(モデル)だった彼女は報道写真家に転身したわけだが、被写体という意味では”自分を映す鏡(ミラー)”であり、報道写真家としてはカメラのレンズ(ミラー)への繋がりも感じられる。また、女性の社会的地位が低い世の中において、VOGUEを通じて世界に訴えかけていく、云わば”女性の鏡(ミラー)”という立ち位置でも関連性があるように感じ取れる。名前からの連想ゲーム、なんて簡易的に捉えられるほど、柔なつながりでないはずだ。
伝え方まで考えられたソラリゼーション

リー・ミラーが撮った写真を見ると、よく見る白黒写真ではなく、”白と黒の陰影が非常に強い”写真が多く写っている。一般的には「少し見にくい」と感じてしまう写真だが、ここに列記とした写真の表現技法がある。それが「ソラリゼーション」という表現技法だ。
ソラリゼーションとはフィルムの露光中に光を過度に当てることで、潜像の一部が過剰に露光され、その部分の画像が反転して現われる現象のことを指し、ある種幻想的で、ある種刺激の強い写真に見える。実はこの「ソラリゼーション」は1929年にはマン・レイが助手のリー・ミラーとともに偶然にこの現象を発見し、ポートレートなどの制作に積極的に利用されたものである。単なる写真を見せているだけでなく、「彼女の表現技法に気づいてもらいたい」という意志まで読み取るのも、本作の楽しみ方の1つだ。

『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』
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2025年5⽉9⽇(⾦) TOHOシネマズシャンテほかROADSHOW
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© BROUHAHA LEE LIMITED 2023
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
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作品名:「リー・ミラー 彼⼥の瞳が映す世界」
監督:エレン・クラス
製作:ケイト・ウィンスレット、ケイト・ソロモン
出演:ケイト・ウィンスレット、アンディ・サムバーグ、アレクサンダー・スカルスガルド、マリオン・コティヤー ル、ジョシュ・オコナー、アンドレア・ライズボロー、ノエミ・メルラン
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
原題:LEE イギリス| 2023 | 116 分 |英語、フランス語
翻訳:松浦美奈
© BROUHAHA LEE LIMITED 2023