DISCASレビュー

カッツ
2025/10/30 07:37

東京物語

小津安二郎監督、笠智衆と原節子主演による『東京物語』は、日本映画を代表する名作である。
物語は、尾道に暮らす老夫婦が、東京で暮らす息子や娘を訪ねるところから始まる。子どもたちはそれぞれ家庭を持ち、それなりにもてなしてはくれるが、かつてのような温かさは感じられない。
唯一心から歓迎してくれるのは、戦死した息子の嫁・紀子(原節子)である。やがて老夫婦は、子どもたちの都合で熱海の温泉へと追いやられ、母親はその旅の疲れから体調を崩してしまう。
尾道に戻った後、母は静かに息を引き取る。危篤の知らせを受けて慌ただしく帰郷する子どもたちが、まだ母が亡くなっていないにもかかわらず「喪服を持っていくかどうか」を話し合う場面は、現代にも通じる人間の冷たさと距離感を象徴しているようで、強く印象に残った。
当時の東京〜尾道間の移動は特急でも一日がかりだったことを思えば、時間の重みもまた物語の静けさに深みを与えている。
ラスト、原節子と笠智衆が並んで海を眺めるシーンは、言葉にならない哀しみと優しさが滲み出ており、忘れがたい余韻を残す。

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