DISCASレビュー

かずぽん
2025/06/13 23:32

老人と海

老人の孤独な闘い】

 

(1958年・米・86分)
監督:ジョン・スタージェス
脚本:ピーター・ヴィアテル
原題:THE OLD MAN AND SEA
原作:アーネスト・ヘミングウェイ『老人と海』

「老人と海」を読んだのは中学生の時だった。物語のプロットはとてもシンプルだ。メキシコ湾で漁を続けてきた老漁師が、1人で漁に出て巨大なカジキマグロを釣り上げる。老人を待っていたのはそのカジキマグロとの3日間にわたる死闘と、港に帰り着くまでのサメとの闘いだった。
それは、誰も見ていない所で老人ひとりに起きている出来事に過ぎない。
しかし、当時の私は「ずっとこれだけ?」と思いながらも、大海原で孤独に闘う老人の姿を想像しつつ、少年に代わって老人を励まし続けていたように思う。

本作の映像で観る物語は、遠い昔に読んだ記憶のままだった。
老人の名前はサンチャゴといい、84日間一匹も釣れていない。マノリンという名の少年が老人の舟に乗っていたが、40日が過ぎたところで、少年の両親は他の舟に乗るようにと言った。少年は従うしかなかったが、老人と一緒に乗りたかったし、再び老人と一緒に漁に出るのが夢だった。少年は老人を尊敬し、慕ってもいたのだ。
冒頭は、少年と老人の関係がよく解るシーンだった。
不漁のまま港に戻って来た老人を手伝って舟を陸にあげたり、港近くのカフェで老人にビールを奢ったりする。老人も少年の好意を素直に受けて、少年は老人を労いつつ甲斐甲斐しく世話をしている。まるで血の繋がった祖父と孫のようだ。

翌日、老人は少年に見送られて、いつもの様に一人で漁に出て行く。老人は、今日はいつもより遠くまで行ってみようと考えている。此処から先は、たった一人で舟を漕ぎ出す老人のモノローグで進んで行く。老人を演じているのは、当時58歳のスペンサー・トレイシーだ。映像は本物の海が映し出されたり、合成映像になったりする。ブルースクリーンの合成技術を初めて使った作品の一つらしい。
合成シーンは直ぐに判るけれど、大事なのは其処じゃない。老人のモノローグによる心情の吐露が、彼の人生や考え方を伝えてくれる。
この日の午後になって、老人は大物が掛かった手応えをを感じる。

二日目。確かに捕えた獲物は大きいと感じるものの、獲物は姿を現さない。老人は綱を背中に回して獲物が泳ぐままに任せることに決める。夜になっても魚は姿を見せることなく、老人の舟を曳きながらどんどん沖へと進む。

三日目。ついに獲物が旋回を始め、やがて水面まで上がって来た。それが飛び跳ねた瞬間、舟よりも大きなカジキマグロだと分かって、老人は驚く。寝不足と疲労で気を失いかけながら、その大きな魚との死闘が始まる。老人は、ここに少年がいてくれたら・・・と何度も思う。老人は気づいていなかったが、少年が舟を下りてから独り言が多くなっていた。
老人は、左手が攣ったり、手の平に傷を作りながらも綱を手繰り寄せ、カジキマグロに銛(もり)を打ちこむ。
仕留めた獲物を舷側に結わえ付けて、老人はやっと自分の港に向けて舟を走らせる。しかし、老人の新たな敵がやって来る。カジキマグロの血がサメを呼んだのだ。サメの中でもアオザメは泳ぐのが速く、カジキマグロの血が高速道路の役目を果たす。
サメの襲撃からカジキマグロを守るために、老人は必死に闘い続けた。

老人はコンパスも持たず、星の位置で自身の現在地を知り、偏西風でどちらに向かえばよいかを知っている。陸に町の灯りが見えたら、そこが老人の帰る港だ。
真夜中過ぎに港に帰り着いた老人は、いつものようにツギハギだらけのマストを抱えて家までやっとのことで辿り着き、粗末なベッドで眠りに落ちた。

夜が明けて、老人の舟に括りつけられた骨だけになったカジキマグロの大きさに人々は驚く。観光客は、その大きさに驚愕するだけだが、漁師たちは理解する。老人の孤独な闘いのドラマを。
そして、観客はもっと多くを知っている。老人が自らの老いと向き合い、人生を振り返りながら、若い日の成功体験を思い浮かべていたことも。
あの腕相撲の勝負での何時間にも及ぶ闘いは、まるでカジキマグロとの闘いに似ていた。あの日の不屈の精神で今回も乗り切ったのだ。そして、自分と闘ったカジキマグロを、今度はサメから自分が守ってやろうとする。
他人の目には、老人は「運から見放された男」と見えるかもしれない。でも、今は― 老人は目覚めた時、少年だけではなく漁師仲間からの尊敬と労いの視線を感じることだろう。

スペンサー・トレイシーの語りが味わい深くてとてもよい。
少年がいてくれたら・・と気弱にもなるが、「自分は、ずっと運が悪い。でも、運が向いて来た時には、準備万端でいたい。」と、いつまでも挑戦する姿勢を淡々と表現していた。
観終わった後、「老人と海」を探して読んでみた。映画と完全にシンクロした老人がいた。

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