インタビュー『秦俊子』後篇
後篇は秦俊子監督が作る映像について、そのインスピレーションの元となる作品や、作品作りで大切にしていることを深掘りします。
映像制作のプロから見る、不朽の名作の魅力とは?
【HOT NEWS】
大阪コミコン2024に『パカリアン』ブースが登場!詳しくは以下インタビューをご覧ください。
好きな映画から受ける、ご自身の作品への影響とは
――好きな映画ベスト〇〇はありますか?
時々によって変わりますが、ホラー映画は決まっていて『死霊のはらわた』3部作と『悪魔のいけにえ』です。
その二作品はとても影響を受けていて、自分の今の作品にも大きく影響しています。この二作品はなかなか揺るがないというか、それを超えるものはなかなか無いですね。
「すごくいいな」と思う作品は他にもいっぱいあって、例えば『キューブ』。数学的で、緻密で完璧な素晴らしい映画で「ああいうことができたら、とてもかっこいいな」って思いますが、完璧さみたいなものは、自分にはできることではなくて。ホラー映画に関しては、『悪魔のいけにえ』のような作り手も予想していなかった、神がかり的なことが起きている瞬間にとても魅力を感じます。
おばあさんが怖い映画も好きです。例えば『ヴィジット』とか『スペル』。普段でも車に乗って、暗い道を走っている時に、いきなり現れたお婆さんなどもやっぱり怖いんですよね。“なんか怖いな”という要素があるものはホラーになり得るというか、それをうまく表現できている作品が『ヴィジット』と『スペル』でとても好きですね。
あとバランスがおかしいもの。例えば頭が大きすぎる、とか何か異様なものがあるとか。「あ、これホラー映画になるな」と思って見てしまいます。私も”人形って怖いな”というところから大学院の修了制作の『さまよう心臓』を制作しました。
――僕は夜の子供に怖さを感じます。
確かに、身近に感じるシチュエーションや、日常でもあり得るシチュエーションにもかなり惹かれますね。夜、外に子供が1人でいたりすると怖いですよね。
それで言うと『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスのお兄さんは、主人公が乗っている車に乗り込んできます。そして、笑いながら唐突に自分の手のひらをナイフで切り始めるのですが、それがとても怖い。車は密室ですから、密室という時点で逃げられない。そこで“異常な行動”をし始める怖さが出来上がってしまうところがすごいと思います。日常でもあり得ることなので、自分ごとのように身近に感じてしまい、より怖さが倍増される。いわば、想像力を引きたてる怖さです。
さらに『悪魔のいけにえ』と『死霊のはらわた』の良いところは笑えるところだと思います。怖すぎて笑えたり、単純にギャグになっていて笑えるシーンもあります。怖いだけではなくて、そこに笑える要素があると、さらに好きです。『ヴィジット』や『スペル』もそうですがホラーとギャグって表裏一体な部分があって、おばあさんが怖すぎて笑えるんですよね。そういうものって映画に必要だなって思いますね。日常だと怖いだけですが、それが映画だと笑える面白い要素になる。
ホラー映画はただ怖いだけではなくて、ストレス解消になることもあります。日常の嫌なことや時間を忘れてられるというか、日常を上回る衝撃を自分に与えてくれることでストレス解消にもなる。逆に癒しにもなっていたり、リフレッシュもできます。日常のこともパッと忘れて、その世界に没入して楽しめるのは、ホラー映画の魅力だなと思います。
――ホラー以外で好きな映画はありますか?
王道な映画でいうと『E.T.』、『バック・トゥー・ザ・フューチャー』や『ロッキー』。あと、『ターミネーター2』も。その4つは大好きです。
――ザ・名作ですね。
そうですね。芯の部分の面白さが同じように思います。
――エンターテインメントですよね。
ホラーはエンターテインメントだと思いますし、見る人を怖がらせる、つまり見る人のことを考えて作るところがエンターテインメントです。これら4作品は子供の頃から何度もロードショーで見ていて、それがキッカケの1つで映画が好きになりました。
最初に観た映画が『E.T.』で、三歳の時に金曜ロードショーで観た記憶があって、その時に感じたことが“この中に入りたい”でした。『E.T.』がキッカケで映画に興味を持つようになったのですが『E.T.』はスティーブン・スピルバーグがフランソワ・トリュフォーから「子供向けの映画を作りなさい」と言われたことがきっかけで作られたようです。だから、三歳の私にもとても刺さったんだと思います。
――三歳の記憶をよく覚えていますね。
すごくよくできているからだと思います。三歳の子供にすら刺さる映画なのは、たとえ言葉や難しいことが分からないとしても、何が起きているのかが分かる作り方になっているからだと。
作品作りの"芯"はミュージカル映画からも
ミュージカル映画だとブライアン・デ・パルマの『ファントム・オブ・パラダイス』が一番好きです。
『ファントム・オブ・パラダイス』は、『ロッキー・ホラー・ショー』とほぼ同時期に公開されました。どちらもミュージカル映画ですが、『ロッキー・ホラー・ショー』ばかり売れていました。確かに『ロッキー・ホラー・ショー』は衝撃的な絵作りで、とても印象に残る。
でも、『ファントム・オブ・パラダイス』は無駄がない。全てのカットにちゃんと意味があって、雰囲気だけで作られていない。すべて意味のあるカットが繋がっている。
映像を作る時に「何故このカットが必要なのか、何故この構図じゃないといけないのか。全てに意味が必要」だと思います。ただこの絵がいいから!で映像を作ることもあるかもしれませんが、本来は全てに意味が必要だと思います。無駄なカットがない作品はとてもいい作品だと私は思います。
――今の作品作りにも影響を受けている部分なのでしょうか。
やはり自分で作る上でも「このカットって何故必要なのか?」や「なくても成立するカットは入れる必要がない」など、ちゃんと考えながら作らなくてはいけないと思うようになりました。
ホラーは怖がらせるための”組み立て”があると思うので、良くできたホラーだと、そこに関しては本当に無駄なシーンはないと思います。それがミュージカルでできるのは、やはり無駄なシーンがないように組み立てられているということだといます。
日本のドラマを観ていると「説明が多すぎる」時ってありませんか?内容を全てセリフで説明してしまっているような。たとえば、お金に困っている主人公に対して「お金が必要なんだろ?」と言ってしまう。「それは違うのでは...」と自分は思います。
まず情景描写で理解させないといけない。説明的なカットを入れなくても、観る人に伝えられるような作り方ををできれば良いなと思います。セリフがないアニメーションは勿論大切で、全てセリフで言ってしまうと「それは映像表現じゃなくてもいい」と思ってしまいます。映像じゃないと成立しないような表現ができると、とても良いと思うので『ファントム・オブ・パラダイス』はそういうことがとてもうまくできているなと思います。
『E.T.』などの名作に関しては全てが必要な要素でできていて、セリフが分からなくても分かるようになっている点が本当にすごいと思います。
コミコン出展を通して語る、今後の展望とは。
――今回は東京コミコンに加えて大阪コミコンへの出展も決まりましたが、コミコンはアメコミのイメージが強いですよね。
確かにアメコミだけとなると幅狭まってしまいます。カートゥーンネットワークという『パワーパフガールズ』などを放映している、北米のアニメチャンネルがあり、そこで流すために4作品を作ったことがあります。その4作品をコミコンの会場のモニターで流していたのですが、その作品はコミコンとの相性が良い気がします。北米のアニメ好きの人々に向けて作った作品なので。カートゥーンネットワークのターゲット層は幼児向け・ティーン向け・18歳以上の青年向け、の三つに分かれていて、その18歳以上の青年向けの"アダルトスイム"という枠で流してもらいました。
やや過激でバイオレンスなコンテンツもあり、血も出して良い。私が作るアニメーションは、そういう傾向があるのでぴったりだなと思います。
――むしろ、そちらがメインですね。
日本だとそこまで過激な表現って今はできなくて。基本的にテレビで過激な描写はNGなので「テレビで流せるなら作りたい」という気持ちはあります。「絶対過激でないと嫌だ」ということではありませんが、年齢層高めのターゲットに向けたものも作っていきたいという思いがあります。私自身がホラーの要素に魅力を感じるので。
――そういった作品が日本で配信できれば良いですよね。『パカリアン』もショートアニメ映画ですからね。
最初は自主制作で仕事の傍らで作っていた短編だったのですが、とてもありがたいことに斎藤工さんに声優を担当していただけました。そこから徐々にステップアップして、カートゥーンネットワークでも作ったりと、ゆっくりなペースでステップアップしています。
――今後二作目三作目ができれば、シリーズにもなりますね。
本当にやりたいのは長く続けられるシリーズアニメ。日本だとこの手のアニメは子供向けのイメージなので、短編かつ大人向けで、少し過激な描写がある作品は実現しづらい部分もあります。作れる機会あれば作りたいですね。
――秦さんが映画を観る時のシチュエーションや、観たくなる映画はありますか?
最近は忙しいのですが、妊娠中は映画館に行っていました。すたみなさんのインタビューでもありました『トップガンマーベリック』ってすごくよかった。トム・クルーズが好きなので『ミッション・インポッシブル』もトム・クルーズが頑張っているんだと思ったら、観に行きたいと思ったりしました。クリント・イーストウッドも好きなので、監督や俳優で観る作品を決めます。
――クリント・イーストウッドも90歳超えていますよね。
自分がもし男だったら”希望”だなと思います。あんなかっこいいおじいちゃん、この世の中にいるのかと。90歳でも映画を撮っている事実にも勇気をもらえます。
歳を取ったら作品制作ってできない?と思いがちなところを90歳でも映画を撮っているのをみると、自分の勝手な思い込みだったんだなと思います。
だから、本当に希望だなと思います。
2024年大阪コミコンにも出展決定!!
東京コミコン2023でも出展したオリジナルアニメ『パカリアン』のブースが、大阪コミコン2024でも出展決定となりました。
U-nextでも配信中の『パカリアン』はこれまでショートショートフィルムフェスティバル&アジア2017では話題賞を受賞し、ロンドンのDiscover Film Awardsではベストアニメーション賞を受賞しています。2018年には、カートゥーンネットワークでAdult Swim枠のコマーシャルブレイク映像『PACALIEN』を制作し、アメリカとカナダで放送されています。どちらも主人公の声優を斎藤工さんが担当。
斎藤工さんが大阪コミコン2024のアンバサダーに就任!
大阪コミコン2024のアンバサダーに、斎藤工さんが就任いたしました!大阪コミコン2024開催期間中に現地参加を予定しており、アンバサダーとしてセレブを迎え入れ、ステージへの登壇も予定しているとのこと。
詳細はコチラ
そして、大阪コミコン2024のアンバサダー就任を受けて斎藤工さんからメッセージ映像も!
さらに!!!
メインステージでは5⽉4⽇、映画への想いを語る斎藤⼯さんのトークステージが予定されています。その中で「パカリアン」での映像制作について、本作品監督の秦俊⼦監督も登壇することが決定しました。トークステージスケジュールはコチラ。
大阪コミコン2024 <詳細>
名称:大阪コミックコンベンション2024 (略称:大阪コミコン2024)
会期:2024年5月3日(金・祝)11:00~20:00
2024年5月4日(土) 10:00~20:00
2024年5月5日(日) 10:00~18:00 ※開催時間は変更となる可能性があります。
会場:インテックス大阪(〒559-0034 大阪市住之江区南港北1-5-102)
主催:株式会社東京コミックコンベンション、大阪コミックコンベンション実行委員会
イベント内容:
・国内外映画、コミックなどの最新情報公開
・企業出展(限定・先行商品の販売、グッズの展示など)
・実際に映画で使用されたプロップ(小道具)や、レアグッズの展示
・最新技術を使った様々なコンテンツの体験
・海外セレブ俳優との交流
・ステージでのライブやパフォーマンス
・コスプレイヤーとの交流、コンテスト
・漫画家やイラストレーターの作品展示や販売、「アーティストアレイ」
『むしむしフェスティバル』グッズ販売開始!
秦俊子監督制作のNHK放送『むしむしフェスティバル』のグッズ販売につきまして、4月23日からDVD・ブルーレイ・グッズが全国のポップアップストアにて販売開始されます!一部販売店では先着購入者特典も。
https://news.ponycanyon.co.jp/2024/04/96709
https://mama.ponycanyon.co.jp/pcxk50028/
秦俊子さん(アニメーション監督)
【会社】
アングル合同会社