印象が180度変わる事間違いなし!作品
B級ホラー?
いいえ、違います
ヒューマンドラマです
監督・脚本: トマ・カイエ
製作国:フランス
時間:128分
近未来ディストピア
世界的に人間が動物化してしまう奇病が流行っている。いきなり奇天烈設定の今作品。冒頭渋滞に巻き込まれたフランソワが、見知らぬ運転手と交わす『世も末だ』が印象的。父フランソワと息子エミールが病院へ行く車内、お年頃なのか苛立つエミール。フランソワもトゲトゲ若く話していたその時、正にその奇病の「新生物」と出くわします。
病院にはもう1人の家族、妻であり母であるラナが居る。彼女はもう顔も人から動物になりかけていて、言葉も出なくなっている。人と動物の違いって、やはり言葉なんだなってのがこの作品を観ているとわかる。その後、病院の勧めにより南仏のセンターでラナを専門的に診てもらうこととなり、2人も近くへ引っ越す。
しかし、その輸送中に嵐でトラック横転、奇病の新生物達はそれぞれ逃げてしまった。ラナもその中の1人。フランソワは憲兵になんて頼っていられないと個別に探します。
エミールの変化
そんなある日、エミールは体育の授業であり得ない力を発揮し、家で指先の爪の異常に気付く。なんとエミールも動物化してしまったのだ。この奇病はある日突然始まるものの、徐々に変化して行くのです。違和感を感じつつ、誰にも気付かれまいと振る舞い、次第に森や自然の中に居心地の良さを感じて行くエミール。
学校で仲良くしてくれたニナ。彼女はADHDで思った事を全て言いたい子だ。そんな自分を理解して欲しかったと、病気がわかった当時を振り返る。きっと彼女だからエミールの変化にも気づけたし、心配しながらも受け入れてくれたんだと思う。そんな時、再び出会ったのは渋滞中に出くわした新生物のフィクスでした。彼は両腕が鳥の羽根に変化していながら、まだ空を飛べずに居たのです。
まだ話が出来たフィクス。エミールが来て普通の人間だと思い攻撃的な態度をとります。しかし飛ぶ練習に付き合い手助けするエミールを見て、体の変化について教えます。何故だろう、フィクスが飛べるようになった時の爽快感、高揚感を見て、私も胸が一杯になってしまう。しかし、世の中は新生物を「獣」と言いバカにしたり虐げる。
テーマは差別
実はこの作品、設定はかなりぶっ飛んでいるが、『差別』についてわかりやすく描いているお話。マジョリティとマイノリティ。分断。障がいの有無。ダイバーシティ。また人が同じ人を隔離するのは、コロナ禍をも思い出させた。
設定は奇想天外ではあるが、この新生物を虐げる様子は最初からある。その事で非常にリアリティがあり、世界観に没入する事にひと役買うのは、皮肉なものだ。どうしてもその差別に慣れてしまっている事を、改めて思い知らされるからだ。
本当の愛情
エミールの変化を見ていると、どこか自由になっていってるようにも見えた。生きる事、自由になる事って一体なんだろう。親が子供にしてあげられる本当の愛情は、どんな事かをこの作品は見せてくれる。父と息子が2人で移動する車中が何度となくある。最初は不機嫌だったエミールが、奇病となり変化する。夜中に父と森の中を母を探す。大きな声で『ママー』と叫ぶ。ここは1段階、彼が解放されていくのを感じるシーンだ。そして最後、警察や政府からエミールが追われるのを父が手助けする車中。ここがこの作品で1番の見せ場。非常に感情を揺さぶられます。
また、エミール自身も最初は動物化した母を疎ましく思っていて、他人事として外から見ていたのだが、自身が動物化する事で当事者目線での展開となるのも面白い。観る前には想像も出来ないラストカット。是非、劇場で確認して下さい。