第5回 アカデミー賞・作品賞受賞「グランド・ホテル」
様々な過去をもち、様々な状況下におかれた人物たちが、たまたま同じホテルに泊まり合わせたことによって起こる人間模様の面白さ...後に「グランド・ホテル形式」という用語を生み出した原点というべき古典的名作。
「グランド・ホテル」(1932年・米国、モノクロ、113分)
監督:エドマンド・グールディング
MGMが人気絶頂の主役級スター5人を使った、すこぶる贅沢な作品。
ドイツ・ベルリンの一流ホテルに宿泊する人々の人間模様を描いた群像劇でもある。


ベルリンの高級な「グランド・ホテル」に次の面々が宿泊している。有名なバレエ団のプリマドンナ、グルシンスカヤ(グレタ・ガルボ)は、往年の人気も失せ、自分の落ち目を感じて気力を失っている。ガイゲルン男爵(ジョン・バリモア)は賭博で多大な借財を抱えており、密かにグルシンスカヤの動向を探っている。彼女の宝石を狙っているのだ。一方、医者から余命宣告を受けたクリンゲライン(ライオネル・バリモア)は、人生の最後に好きなことをしようと、全財産を持ってこのホテルに投宿している。機業界の大物プレイジング氏(ウォーレス・ビアリー)は、自社が倒産の危機に直面しており、他社との合併で生き残りを図っている。魅力的な速記者のフレムヒェン(ジョーン・クロフォード)はプレイジング氏に雇われるが、思わぬ展開に困惑する....。
早速、人気絶頂5人のスター俳優に触れてみたい。
【グレタ・ガルボ】(1905.09.18 ~ 1990.04.15 / スウェーデン・ストックホルム生まれ)
「神聖ガルボ帝国」の女王と言われ、彼女の身辺は常に神秘のヴェールに包まれていた女優。
生涯孤独で、ハスキーボイスと共に、どんな表情のときも美しさが際立っていた。
代表作に「アンナ・クリスティ」(30年)、「椿姫」(36年)、「ニノチカ」(39年)など。

【ジョン・バリモア】(1882.02.15 ~ 1942.05.29 / 米・ペンシルベニア州フィラデルフィア生まれ)
兄は俳優ライオネル・バリモア、姉も俳優エセル・バリモアで、いわゆるバリモア一家の一人。
ドリュー・バリモアの祖父でもある。若い頃から先天的な演技の上手さに定評があった。
代表作に「狂へる悪魔」(1920年)、「ロミオとジュリエット」(36年)、「マリー・アントアネットの生涯」(37年)など。

【ライオネル・バリモア】(1878.04.28 ~ 1954.11.15 / 米・ペンシルベニア州フィラデルフィア生まれ)
弟は俳優ジョン・バリモア、妹も俳優エセル・バリモアで、いわゆるバリモア一家の一人。
日本での公開作品は弟よりも多く、特に30年代後半から40年代は多数の名作に出演した。
代表作に「我が家の楽園」(38年)、「君去りし後」(44年)、「素晴らしき哉、人生!」(46年)など。

【ウォーレス・ビアリー】(1885.04.01 ~ 1949.04.15 / 米・ミズーリ州カンサスシティ生まれ)
不敵な面構えで、1920年代から30年代にかけて、数多くの作品に出演、「チャンプ」(31年)でアカデミー主演男優賞を受賞している。
代表作に「惨劇の波止場」(30年)、「チャンプ」(31年)、「奇傑パンチョ」(34年)など。

【ジョーン・クロフォード】(1904.03.23 ~ 1977.05.10 / 米・テキサス州サンアントニオ生まれ)
個性的なマスクからは、負けず嫌いの激しい気性が感じられる。ハリウッドの超大物の息子ダグラス・フェアバンクス・Jrと結婚し、デビュー30年にして念願のオスカーを獲得している。
代表作に「雨」(44年)、「ミルドレッド・ピアース」(45年)、「何がジェーンに起ったか?」(62年)など。

アカデミー賞では、この年から作品賞候補が10作品に拡大されている。
有力候補だった「バッド・ガール」、「チャンプ」、「上海特急」を制しての受賞は、上述の5大スター競演のふれこみが大きく影響したことは明白であろう。
ところが、作品賞は受賞したものの、監督賞や脚本賞はおろか、上述のスター俳優5名は、誰一人として男優賞・女優賞にノミネートすらされなかったのである。
俳優それぞれの見せ場が分散してしまったこと、或いは、MGM支配に反発する会員がいたことなどが理由に挙げられていたが、何とも不可思議な出来事であった。
もう93年前の映画だが、ここまで古いと、古典的というのが逆に斬新な感じさえする。