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DISCASレビュー

J.T.Hammer
2025/04/06 11:40

二流の生き方もまんざら捨てたもんじゃない

「さよならゲーム」(1988) 米 108分


MLB開幕!"聖林の描いたベースボール" Vol.1 (Cover photo:  via IMDb https://www.imdb.com/title/tt0094812/mediaviewer/rm2087283457)


プロ野球に限らずどんな分野にせよ頂点を極め「一流」の仲間入りを果たせるのはほんの一握りである。ましてや大谷翔平みたいに「超」がつく存在となればこれはもうまさに「神に選ばれし者」としか表現出来ない。そして皆が「一流」になれない以上その陰に「二流」が居るのも必然だ。ここでひとつ頭に入れておくべきはまずそれらの門をくぐっていなければ「二流」はおろか「三流」にすらなれぬ点だろう。従って謂わば唯の「門外漢」たるアマチュアのファンはいつも心中に監督・選手へのリスペクトを忘れてはならないと云える

自身もメジャーリーガーを志したロン・シェルトンの手掛ける「さよならゲーム」は全篇からベースボールとマイナーリーガーに対する愛情が溢れ出す映画だ。ノース・カロライナに実存する球団ダーラム・ブルズ(ア・リーグ東地区所属タンパベイ・レイズ傘下3A)を舞台に球速はメジャー級ながらも制球力ゼロの若手投手ヌーク、彼の教育係としてチームに加わったベテラン捕手クラッシュ、野球教の猛烈な信者にして毎季ひとりずつ有望選手を「喰って」は成長を愉しみにする年増女アニーの織り成す三角関係がアニーを巡る恋愛話と捕手=女房役クラッシュ目線で見た期待の逸材ヌークを巡る野球話の二重奏で展開される脚本が上手い

クラッシュの設定がスイッチヒッターの点に監督シェルトンの拘りを窺わす。米国では相手先発が左投手か右投手かによって打線を組み替えるプラトーン(小隊)・システム【注】を採択するところもあるが、両打ちのクラッシュは恐らく左右関わらずゲームに出られたと考えられる。彼が長きに渡りプロ捕手を務め、そこでホームランを量産した(マイナーリーグ通算本塁打記録更新目前)のは大きな怪我をしなかったのと同時にスイッチヒッターだったことも理由に挙げられよう

本作を含め「フィールド・オブ・ドリームス」「ラブ・オブ・ザ・ゲーム」に主演した「野球映画の至宝」ケビン・コスナーは経験者だけあって何気ない立ち居振る舞いや動作が大変サマになる(80年代青春真っ只中の筆者にとって劇中で彼の着るアルファ社MA1ジャケットやポロシャツ襟立てなどのファッションが懐かしい)。一方でヌーク役ティム・ロビンスの投球フォームは上半身と下半身のアクションがまるっきりバラバラで、あれではとても95マイル(152キロ)の速球を放れるように思えず。またいくらコントロールが悪いにしてもボールボーイなどが控える方向へ投げるのは余りに戯画的すぎて興覚めだ。この辺はもう少し現実味が欲しかった

ヌークから「万年マイナーリーガーのくせに」と嘲笑を受けるクラッシュだが腐らずに置かれた場所で咲き続けた末に最後で或る転機が訪れ幕は閉じる。二流の生き方もまんざら捨てたもんじゃない、と感じさせながらのちょっとビターな風味が心地良い

自分の活躍で勝つ日もあれば、自分のミスで負ける日もある。負傷をしたり調子を落としたりして試合を遠ざかる時もあれば、首脳陣と反りが合わず不遇な時を送ることもある。こうしてみると野球とはまさに人生そのもの。今後さらに素敵なベースボール・フィルムと出会えたなら幸せの一言に尽きる

[注]2020年、当時チーム方針にプラトーン・システムを据えていたシンシナティ・レッズへ移籍の左打者・秋山翔吾【現・広島カープ】が、相手先発サウスポーの際には(それを殆ど苦手としていなかったにも拘わらず)ラインアップを外れたのは記憶に新しい

【★★★★★★☆☆☆☆】

(2025-17)


©Photofest / Getty Images 
  • 原題:"Bull Durham"
  • 監督:ロン・シェルトン
  • 脚本:ロン・シェルトン
  • 撮影:ボビー・バーン
  • 編集:ロバート・レイトン、アダム・ウェイス
  • 音楽:マイケル・コンバーティノ
  • 出演:ケビン・コスナー、スーザン・サランドン、ティム・ロビンス
  • 劇場公開日:1988.06.15 (米) / 1988.09.23 (日本)
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1 件の返信 (新着順)
Hiroki Yamaguchi
2025/04/09 09:51

今度見てみたいと思います!


J.T.Hammer
2025/04/09 20:22

野球への興味が有る無しに拘らず楽しめる内容じゃないかと思います。もしご覧になったら感想をお聞かせ下さい