ヴァリエテ
【サイレント映画だけれど 見応えがあった】
(1925年・独・57分・モノクロ・サイレント)
監督:E・A・デュポン
原題:VARIETE
原作:フェリックス・ホレンダー『Der Eid des Stephan Huller』
本作は、淀川長治総監修「世界クラシック名画撰集」の中の1作です。
例によって冒頭に淀川さんの解説があります。
ヒロインのベルタ・マリーを演じるのはリア・ド・プティですが、淀川さんは「美人でもなく、不美人でもなく、綺麗でもなく汚くでもなくという女性」と表現されるのですが、私は可愛らしい女性だと思います。
でも、その後で「いかにも女の匂いを持っている」とも評されています。
それから、私が見落したのでは無いと思うのですが、淀川さんの解説のシーンが何箇所か出てこないのです。カットされているのかもしれないですね。
鑑賞後にWikipediaで確認しましたが、やはり映画の内容とは違っています。混乱するのでWikipediaは無視します。
「ヴァリエテ」というのは、曲芸団、サーカスのことです。
サーカスのシーンから始まるのかと思えば、意外なことに主人公は“囚人番号28”として登場します。囚人服の背中には(まるで野球の背番号のように大きく)「28」という表示があります。
28号は10年の服役中、何の陳述もして来なかったのですが、彼の友人から恩赦の請願があり、この機会に彼の気持ちを語るよう促されました。
そして、28号が語り始めたこととは・・・
28号の名前はフラー(エミール・ヤニングス)といい、曲芸団では夫婦のブランコ乗りとして評判でした。しかし、売れない小さな曲芸団です。
そこに現れたのが、ブランコ乗りの第一人者アルティネリ(ワーウィック・ワルト)です。彼は兄弟で活動していましたが、兄が楽日に落ちて相棒を失ったと言います。そこで、技術が高いと評判のフラーとベルタ・マリーの夫婦に一緒に組もうと声が掛かったのです。
そして新しいトリオの空中ブランコは、大きな劇場での興行で大成功を博します。
アルティネリは所謂“色男”で、出会った最初からベルタ・マリーに興味を持っていました。サイレント映画なので、一人一人の表情が確実に伝わってきます。アルティネリは、横目でチラチラとベルタ・マリーのことを見ていましたし、下心は見え見えでした。
しかし、フラー(団長と呼ばれている)と妻は愛し合っており、団長は仕事で成功して綺麗な奥さんまでいて運がいいと評判でした。団長もそのように信じて疑いませんでした。
ところが、アルティネリがベルタ・マリーに仕事の記念にと指輪を贈った辺りから暗雲が立ち込めます。二人の噂は団長の知らないところで囁かれるようになり、ある日、友人が描いた落書きから団長も知ってしまうのです。
サーカスの空中ブランコではボスが“受け手”で、あとの二人が“乗り手”です。ボスがしっかりと受け止めてやらないと相手は落下することになります。空中ブランコのショーの最中、ボスの脳裏にふと邪な思いが過(よぎ)ります。その思いを必死に振り払ってショーを続けますが、彼の心は既に平静さを失っていました。そして、ある夜・・・
セリフもなく、役者たちの表情と時々挿入される字幕のみのサイレント映画で、本作のように緊迫感のある作品は珍しいと思います。
主役を演じたエミール・ヤニングの上手さも然ることながら、周辺の人々の表情や仕草も見事でした。特に、アルティネリとベルタ・マリーの関係を落書きで友人たちに暗に伝えたり、その噂が次々に伝播していく様もよく表現されていました。
当時のサーカスが人々の楽しみであり、ドキドキワクワクのショー(見世物)であることが分かります。
私が一つだけ可笑しいと思ったのは、空中ブランコの時の衣装の胸につけられた人の顔(骸骨?)の模様でした。それがもっと怖い表情ならよいのに、何だかマヌケな感じなのです。(笑)
因みに主役のエミール・ヤニングスは、『肉体の道』で第1回アカデミー賞の主演男優賞を受賞しています。彼の出演作『嘆きの天使』は未見なので今年こそは観てみようと思っています。