キャスティングの妙! 若草物語の3作品
ルイーザ・メイ・オルコット女史(1832.11.29 ~ 1888.03.06 / ペンシルベニア州・フィラデルフィア生まれ)は
アメリカの女流小説家。
「若草物語」は彼女の自伝的小説と云われており、1917年の初映画化をはじめ、今まで10数本の映画(テレビ映画含む)が公開されてきた。
その中から素晴らしいキャスティングでヒットした3作品について記してみたい。
「若草物語」(1933年) 監督:ジョージ・キューカー
1864年、南北戦争の最中、アメリカ北東部ニューイングランド。
長女メグ、次女ジョー、三女ベス、四女エミイのマーチ家四姉妹は、両親が示す犠牲的精神の影響を受け、病人や恵まれない人々を思いやる優しい心を持ちながらも、健やかに育った。彼女達の隣家は富豪のローレンス老人(ヘンリー・スティーブンソン)の邸で、老人の孫ローリー(ダグラス・モンゴメリー)が欧州留学から帰っていた。ジョーはローリーと親友になり、メグはローリーの家庭教師ブルック(ジョン・ロッジ)と愛し合うようになる。やがて戦地にいる四姉妹の父親(サミュエル・S・ハインズ)が重症との報が入り、母親が看護のためにワシントンへ赴くこととなる...。
当時の若手人気女優が顔を揃え、オールスター・キャスト映画の先駆けとなった作品である。
4姉妹を演じた女優は次のとおり。
◎優しく内気な長女、メグ役
「フランシス・ディー」(1909 ~ 2004/米・ロサンゼルス生まれ) 本作出演時24歳。
30年代から40年代にかけて、「アメリカの悲劇」(31年)、「痴人の愛」(34年)など数多くの作品に出演。名優ジョエル・マクリーの元妻として知られる。
◎活発で小説家願望の次女ジョー役
「キャサリン・ヘプバーン」(1907 ~ 2003/米・コネティカット州生まれ) 本作出演時26歳。
オルコット女史がモデルといわれている。
アカデミー主演女優賞を4度受賞した、正真正銘の大女優。半世紀に渡って活躍した。
◎内気で病弱だが、ピアノが上手な心優しい三女ベス役
「ジーン・パーカー」(1915 ~ 2005/米・モンタナ州生まれ) 本作出演時18歳。
生涯83作品に出演しているものの、クレジット上位は「一日だけの淑女」(33年)、「拳銃王」(50年)くらいで、ヒット作に恵まれなかった。
◎まだ学校に通っている我がまま娘で、絵を描くことが好きな四女エミイ役
「ジョーン・ベネット」(1910 ~ 1990/米・ニュージャージー州生まれ) 本作出演時23歳。
多くのフィルム・ノワールで異彩を放った女優。44年「飾窓の女」は絶品だった。
他の共演者は、ポール・ルーカス、エドナ・メイ・オリヴァー、スプリング・バイイントンら名優揃い。
主演のキャサリン・ヘプバーンが目立つ存在には違いないが、かといって残る3姉妹がおざなりにされているわけではなく、ストーリーの要所要所にしっかりと其々の個性が描かれている。
「若草物語」(1949年) 監督:マーヴィン・ルロイ
南北戦争の頃、米マサチューセッツ州・コンコードの町。
貧しいマーチ家では、父親(レオン・エイムズ)が出兵中のため、母親(メアリー・アスター)が四姉妹の面倒をみている。長女メグ、次女ジョー、三女エミイ、四女ベスである。隣家には大金持ちのローレンス爺(C・オーブリー・スミス)が一人で住んでいるが、怖そうなので彼女たちは近寄り難い。ある日、ジョーはローレンス爺の孫であるローリー(ピーター・ローフォード)とその友人ブルック(リチャード・ワイラー)に会った。ジョーがローリーと友達になったことから、マーチ家とローレンス家の親交が深まっていくのだが...。
当然のこと乍ら、ストーリーの根幹は33年版と同じだが、本作には決定的な違いがある。
33年版と異なり、三女がエミイ、四女がベスとなっている。
4姉妹を演じた女優は次のとおり。
◎しっかり者だが内気な性格の長女、メグ役
「ジャネット・リー」(1927 ~ 2004/米・カリフォルニア州生まれ) 本作出演時22歳
伝説的な名女優ノーマ・シアラーに見出されてデビュー。「サイコ」(60年)におけるシャワー惨劇のマリオン役はあまりにも有名。「ザ・フォッグ」(79年)では、娘ジェイミー・リー・カーティスと共演している。
◎男勝りで明朗快活、作家志望の次女、ジョー役
「ジューン・アリスン」(1917 ~ 2006/米・ニューヨーク州生まれ) 本作出演時32歳
この人の魅力は、何と言っても人懐っこい笑顔。古き良き時代のアメリカを象徴するような温かさを感じる。本作以外の代表作に「甦る熱球」(49年)、「グレン・ミラー物語」(53年)がある。
◎ちょっと我がままな性格だが憎めない性格の三女、エミイ役
「エリザベス・テイラー」(1932 ~ 2011/英・ロンドン生まれ) 本作出演時17歳
少女時代からMGMの子役として数々の作品に出演、成人後に出演した大作、話題作がすべてヒットしている。2度のアカデミー主演女優賞を受賞するなど優れた演技力も定評がある。
反面、8度の結婚を経験するなど、メディアにおけるゴシップも賑やかであった。
◎病弱だがピアノが上手な四女、ベス役
「マーガレット・オブライエン」(1937 ~ /米・カリフォルニア州生まれ) 本作出演時12歳
天才子役と言われた彼女の可愛さは特筆もので、おしゃまな魅力で一世を風靡した。
主な出演作(いずれも子役)に「キュリー夫人」(43年)、ジェーン・エア(43年)、「若草の頃」(44年)がある。
4姉妹役、それぞれの出演時の年齢にご注目いただきたい。
12歳から32歳までと幅広いが、まったく違和感なく溶け込めている。
冒頭の、4姉妹がシェークスピア劇の真似事をする場面は実に楽しく、心が和む。
笑いあり、涙あり、恋あり、4姉妹を中心に様々な出来事が通り過ぎていくのだが、ひとつの出来事を深追いせず、それはそれ、これはこれ、という感じで物語は展開する。
観終わった清々しさは言葉に表せないほどだ。
他の共演者は、ロッサノ・ブラッツィ、ルシル・ワトソン、エリザベス・パターソンといった面々。
「若草物語」(1994年) 監督:ジリアン・アームストロング
19世紀半ばの米国・マサチューセッツ州コンコード。マーチ家では南北戦争従軍中の父親に代わり、母(スーザン・サランドン)が4人姉妹と共に留守を守っていた。長女メグ、次女ジョー、三女ベス、四女エミイはみな個性的だが、互いを思いやる仲良しだった。隣家には富豪ローレンス氏(ジョン・ネヴィル)が孫のローリー(クリスチャン・ベイル)と住んでいた。メグとジョーは舞踏会で親しくなったローリーと意気投合し、観劇に出かけた。ローリーの家庭教師であるジョン(エリック・ストルツ)とメグの仲を取り持つ案だったが、ローリーに憧れるエミイは、腹いせにジョーが書いていた小説の原稿を暖炉で燃やしてしまう...。
やはり古典的な雰囲気はあまり感じず、33年版、49年版と比較すると、何となく ‘格 ’の違いを感じざるをえない。しかしその分、本作は新鮮さを感じる作品となっている。
4姉妹を演じた女優は次のとおり。
◎長女、メグ役(本作での設定は16歳)
「トリニ・アルヴァラード」(1967 ~ /米・ニューヨーク生まれ) 本作出演時27歳
エキゾチックな顔立ちだが、父親がスペイン人のフラメンコ歌手、母親がプエルト・リコ出身のフラメンコ・ダンサーと知って納得。
代表作に「ステラ」(90年)、「リトル・チルドレンン」(06年)など。
◎次女、ジョー役(本作での設定は15歳)
「ウィノナ・ライダー」(1971 ~ /米・ミネソタ州生まれ) 本作出演時23歳
若かりし頃の私生活での事件が、女優業に影響していた時期もあったが、本作の演技でアカデミー賞・主演女優賞にノミネートされ、大人の女優として脱皮した。
「エイリアン4」(97年)、「17歳のカルテ」(99年)等をはじめ、90年代以降から現在に至るまで、話題作への出演が続いている。
◎三女、ベス役(本作での設定は13歳)
「クレア・デインズ」(1979~ /米・ニューヨーク生まれ) 本作出演時15歳)
単なるアイドル女優とは違い、個性の強さ、芯の強さを感じる女優。
本作のベス役は、ナタリー・ポートマン、アリシア・シルバーストーンといったライバルを押しのけてオーディションに合格した。
代表作に「レインメーカー」(98年)、「ターミネーター3」(03年)など。
◎四女、エミイ役(本作での設定は12歳)
「キルスティン・ダンスト」(1982~ /米・ニュージャージー州生まれ) 本作出演時12歳
この頃の彼女は ‘ベテラン並の実力派’ と言われ、しかも年齢よりも大人びた色っぽさをもっていた。2000年代に入り、話題作への出演が続いている。近作に「シビル・ウォー アメリカ最後の日」(2024年)がある。
尚、エミイ役は中盤以降、サマンサ・マシスが演じている。
「サマンサ・マシス」(1970 ~ /米・ニューヨーク生まれ) 本作出演時24歳
故リヴァー・フェニックスが最後に愛した女性として知られ、才能豊かな天才肌として批評家の評価も高い。母親は女優ビビ・ベッシュ(故人)。
代表作に「キルトに綴る愛」(95年)、「アメリカン・プレジデント」(95年)など。
四姉妹の母親役スーザン・サランドンの出演はインパクトが強く、頼りになる優しい人物像を演じきっていた。
又、クリスチャン・ベイルが20歳の若さで出演している。
<3作品のつもりがついつい...>
最後に、「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」(2019年/グレタ・ガーウィグ監督)もなかなかの佳作。
長女メグ役はエマ・ワトソン、次女ジョー役はシアーシャ・ローナン、三女ベス役はエリザ・スカンレン、四女エミイ役はフローレンス・ピューが演じていた。
因みに母親役はローラ・ダーン、セオドア・ローレンス役はティモシー・シャラメであった。
いやはや、キャスティングの見比べもなかなか楽しい。
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投稿を表示目の付け所が素晴らしいですね!
各年代の作品のキャスティング比べ、楽しそうです。
1994年のだけ見ていないと思ったら、1949年の作品も見ていないようです。
機会があったら見比べてみたいです(^_^)
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投稿を表示コメント失礼します☺️
改めて、若草物語は何度も映画化されている名作ですね✨
ご紹介いただいたなかで、キャサリン・ヘプバーンがジョー役の作品はまだみていませんが、彼女の雰囲気はジョーにぴったりですね!
私としてはなんとなく、ジョーは金髪ではなくブルネット、というイメージを持っています