【Foyer vol.5:ポレポレ東中野】世界と出会い、対話し、立ち止まる。社会、そして自らと向き合う「思考の場」
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上映が終わると、対話が始まる。
社会を映すスクリーンと共に、
ポレポレと思考を深める場所。
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目次
1.ドキュメンタリーの聖地「ポレポレ東中野」
2.スクリーンが映し出す「社会」と、作り手の「声」
3.思考を深める空間設計
4.ポレポレ坐が繋ぐ、人と時間
5.「ゆっくり」と立ち止まれる場所
1. ドキュメンタリーの聖地「ポレポレ東中野」
JR中央・総武線と都営大江戸線が交差する東中野駅。新宿の喧騒からわずか数分でありながら、穏やかな生活の空気が流れるこの地に、全国の映画ファンがドキュメンタリーの聖地と呼ぶ場所がある。それが「ポレポレ東中野」だ。

名前にもあるポレポレとは、スワヒリ語で「ゆっくり、ゆっくり」を意味している。
駅北側の線路沿い、ポレポレ坐ビルの地下。その文化拠点へと続く階段を下りていくと、踊り場に壁を埋め尽くすどころか、今にも溢れ出しそうなほどのチラシ。他館も含めた上映作品のフライヤーをはじめ、映画祭などのイベント情報もキャッチすることができる。そして、さらに階段を下ると上映作品に関する記事の切り抜きなどが掲示され、劇場へとたどり着くまでに思わず時間をかけてしまう。これから訪れる映画体験への期待に胸が膨らむ、ポレポレならではのアプローチと言っていいだろう。

2. スクリーンが映し出す「社会」と、作り手の「声」
ポレポレ東中野は、しばしば「ドキュメンタリーの聖地」と呼ばれる。確かにそのラインナップの中心には、世界の片隅で生きる人々の息遣い、社会の歪み、あるいは光を捉えた、優れたドキュメンタリー作品が並ぶことが多い。

しかし、その魅力はドキュメンタリーだけに留まらない。全国のミニシアターでもなかなか出会えない自主配給の意欲作、若き才能がほとばしる新人監督の作品など、ジャンルや知名度にとらわれない多様なプログラムこそが、ポレポレ東中野の真骨頂だ。

これほどまでに個性的で、力強い作品が集う背景には、劇場スタッフの徹底した「作品への愛」がある。ポレポレ東中野では、上映する作品を決めるとき、必ず支配人、あるいはスタッフが自ら鑑賞するという工程を貫いている。作り手の熱量がこもった一本一本と真摯に向き合い、自らが「観客に届けたい」と感じたものを選び抜く。このプロセスこそが、観客からの「ポレポレが選ぶなら間違いない」という絶大な信頼の礎となっている。
そして、監督やゲストを招いた舞台挨拶を毎日のように開催しているのもポレポレの特徴の一つ。上映するだけでなく、その作品を届けた「作り手の声」を観客に直接届けることで、
受け手が作品の理解を深める、あるいは考えるきっかけを生み出している。
3. 思考を深める空間設計
地下のロビーを抜け、スクリーンの扉を開けると目に飛び込んでくるのは、客席を埋め尽くす鮮やかな赤い座席。その数、96席。ミニシアターと呼ぶにはゆとりある設計となっており、この絶妙なスケール感が、見知らぬ隣人との間に不思議な連帯感を生む。また、入口付近には車椅子スペースも配置され、誰もが等しくスクリーンと向き合えるよう設計されている。

そして、何よりも特筆すべきは、地下でありながら一切の圧迫感を感じさせない「天井の高さ」だ。この広い空間がもたらす解放感は、物理的な快適さだけでなく、観客の思考の「余白」として機能している。スクリーンに映る様々な場面を、フラットに受け止め、作品の深層へと潜っていくことができるのだ。観客が作品と出会い、深く思考するための「舞台装置」として、完璧に設計されている。

4. ポレポレ坐が繋ぐ、人と時間
劇場のすぐ上にある「Space & Cafe ポレポレ坐」は、カフェとしてだけではなく、“語りの場”としても機能している。 上映後、観客や監督が集い、熱い議論や静かな対話が生まれる——。 ライブイベントやトーク、朗読会なども頻繁に開催され、まさに文化の交差点として多くの人に親しまれている。

古材のぬくもりが感じられる空間には、珈琲の香りと本のページをめくる音が静かに広がる。 ここでは、映画を観る前の期待と、観終わった後の余韻が、やさしく混ざり合う。映画体験をより深く、豊かにしてくれる空間だ。

5.「ゆっくり」と立ち止まれる場所
情報が洪水のように押し寄せ、あらゆる物事が目まぐるしい速さで消費されていく現代。私たちはともすれば、物事の本質を深く考える間もなく、次の情報へと流されてしまいがちだ。

そんな時代だからこそ、ポレポレ東中野の存在意義は一層際立っている。1作品ごと丁寧に選び抜かれた作品を通して、自らの内面と向き合う濃密な時間。そして上映後は、カフェに立ち寄り映画の内容を反芻し、さらに思考を深める。この劇場を構成するすべての要素が、私たちに「立ち止まること」を強く促してくる。
スワヒリ語で「ゆっくり、ゆっくり(pole pole)」と名付けられたこの映画館は、単に情報を受け取るだけではなく、それをどう解釈し、自らの問題として引き受けるかを思考していく場所である。ポレポレ東中野が灯し続ける光は、私たちがこの複雑な世界でどのように生きていくべきかを、力強く問いかけてくる。東京という大都会のなかで開かれる、ゆっくりと立ち止まれる“思考の場”が、ここにある。
「ポレポレ東中野 」
住所: 〒164-0003 東京都中野区東中野4-4-1 ポレポレ坐ビル地下
アクセス: JR中央・総武線「東中野駅」西口より徒歩1分 /
都営大江戸線「東中野駅」A1出口より徒歩1分
座席数:96席(車いす席有り、車いす用トイレ、エレベーター完備)
公式HP:https://pole2.co.jp/
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