私の好きな映画

【Foyer vol.1:Stranger】映画を観るだけじゃない。社長・更谷伽奈子が語るStrangerが育む映画体験

都営新宿線・菊川駅から徒歩1分。49席のスクリーンと併設のカフェスペースを軸に、独自のカルチャーを育んできた映画館「Stranger(ストレンジャー)」。

2024年2月、その舵取りを引き継いだのが、当時26歳だった更谷伽奈子さん。もともと映画の配給業務をしていたという彼女が、社長としてStrangerにどんな変化をもたらし、そして何を守ろうとしているのか。映画との出会い、地域との関わり、そして「映画館のこれから」について、たっぷりと語ってもらった。

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1つの作品の出口を多く作る

──幼い頃はよく映画館へ行っていたのですか?

幼い頃は映画をたくさん観ていたというわけではなく、「チケット代が高いからやめなさい」と親に止められていました。なので、映画館で映画を観るということに小さい頃から憧れは持っていました。

──そのあと、どのようにして映画業界へ進んでいったのでしょうか?

学生時代に制作会社のインターンや映画祭の運営スタッフなど、色々やってみました。その中でも、映画館以外のところに作品を届ける非劇場配給会社でのアルバイトをしていた際に、1つの作品の出口を多く作るということに興味を持ちました。良いものは出来るだけ多くの方に見ていただける環境を作った方が良いと思い。卒業後は配給の仕事に本格的に携わるようになり、映画を届ける側に身を置いてきました。

 

「変える部分」と「守る部分」

──2024年2月に社長に就任されてから、1年以上が経ちました。振り返ってみて、どうでしたか?

もう、とにかく走り続けてきた感覚ですね。なんとか継続させたいという気持ちで、できることは全部やってきました。その中で、上映ラインナップは少しずつ変えているので、劇場の雰囲気も少し変化したかもしれません。

正直、そこがすごく怖かったです。前のオーナーのもとでStrangerが築いてきたイメージや立ち位置はすごく確立されていたと思うので、それを自分が変えてしまっていいのか?という葛藤はありました。でも、同じことを繰り返すだけでは意味がないとも思っていて。

幸い、劇場の立ち上げから働いているスタッフが今も残ってくれていて、スタッフたちが“守るべきStranger”をしっかり支えてくれている。そのおかげで、変える部分と守る部分のバランスを保てているのかなと思います。

 

不安になるくらい尖ってる企画。でもちゃんと届いてる

──結構コアな映画ファン向けの映画もされていますね。

四半期に一度ほど、Stranger独自の特集上映を組んでいるのですが、これが毎回ちょっと不安になるくらい攻めてるんです。普段なかなかスクリーンにかからないような旧作をセレクションしていて、例えば6/27~上映している「ヴィンセント・ミネリ特集」など。1監督で5作品ほどを組むような構成なので「この企画、お客さん来てくれるかな……」と心配になることもあるんですけど、ありがたいことに、予想を超えて多くのお客様が足を運んでくださる。

去年やったジョン・ヒューストン特集もすごく反響がありました。「あれは難の企画なの?」といろんな人から言われるくらい(笑)。でも、全部自分たちで考えて、オリジナルで企画してるんです。尖ったラインナップであっても、しっかり届くべき人に届いている実感があります。

 

地域の憩いの場としての顔も

──コア向けな特集企画も実施している一方、菊川という地域の映画館としても機能している印象があります。

そうですね。あまりミニシアターに行ったことがない方や、新宿や有楽町までは足を伸ばしづらいなという方が気軽に映画が観られる場所として、利用いただいてます。話題作や、分かりやすいエンタメ寄りの作品もラインナップに入れていて、そういう日は地域のお客様の割合が高いです。

あと最近は、NHKの「どーもくん」などを手掛けるアニメーションスタジオ・ドワーフさんと一緒に、毎月コマ撮りアニメの上映企画やっていて。アニメ業界の方にももちろん足を運んでいただいておりますがご近所の方にも興味を持っていただけています。

──すごく幅広い層が来館されているんですね。

はい。「どんなお客さんが多いですか?」って聞かれると難しくて。企画によって、お客様の層も変わっていきます。

 

映画を観てからを育む

──カフェやイベントスペースが併設されているのもStrangerならではですよね。

「映画を観た後に、誰かと話したくなる」ってありますよね。Strangerのカフェは、まさにそういう場所になればいいなと。作品をただ観るだけでなく、その先のプラスアルファを生み出せる場所が映画館と思っています。あと、劇場内に感想ノートが置いてあって、そこに「今気になってる映画」や「上映してほしい作品」のようなリクエストが自由に書けるようになってるんです。それを読んで、次の作品選定のヒントにさせてもらうこともありますね。

 

独自の価値を持つ場所であり続けたい

──配信サービスが普及した今、映画館で映画を観る意味とは?

すごく制限のある行為だと感じています。時間を合わせて、席に着いて、携帯も触らず、見知らぬ人と2時間を共にする。配信とは全く別の体験だと思います。でも、だからこそ得られる集中力や余韻ってあるなと感じていて。

カフェで誰かとその映画について語ったり、ひとりで感想を反芻したり。「観た」で終わらない体験を提供できるのが映画館なんじゃないかと思います。もちろん、配信も大切な“出口”です。だからこそ、映画館もそれとは違う価値を持つ場所であり続けたいです。

 

足湯の設置も検討?飽くなき探求

──短編映画の上映企画「 Tiny  Space  Theater 」も印象的な取り組みですね。

はい。上映中のスクリーンの裏で、カフェエリアに布のスクリーンを張って、短編映画を流しています。来場者が本編を観ている約2時間の間に完結できるような作品を選んで、監督のトークを交えたり、観客とお酒を飲みながら語ったり。

──すごく贅沢な時間ですね……。

「映画を観る」という目的以外でも、ふらっと立ち寄れる場所でありたいなと思っていて。実際、カフェだけを利用される方もいますし、「え、ここ映画館なんですか?」って驚かれることもあります(笑)。実は、銭湯とコラボして足湯を設置しようとしたこともあるんですけど、モーターの問題で断念しました……。でも、本当に色んなことをこれからも試していきたいです。

 

一度で持って帰れる何かを、可能な限り多く

──最後に、Strangerにまだ訪れたことのない方へ、メッセージをお願いします。

Strangerは、映画館であり、カフェであり、イベントスペースでもある。アパレルのポップアップをやったり、アートのギャラリーを開いたりもしていて、いわば“文化の拠点”みたいな存在になれたらと思っています。

映画を観て、そのまま帰るのではなく、仕事をして、コーヒーを飲んで、音楽を聴いて、お酒を飲んで──。一度で持って帰れる何かを、可能な限り多く用意すると意識しています。

なので、それぞれの楽しみ方を見つけて、自分だけの過ごし方を開発してもらえると嬉しいです。

 

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Strangerという場所に秘められた無限の可能性を誰よりも信じる社長・更谷伽奈子さんが今後どんな楽しいことを仕掛けてくれるのか。ついそんな期待をしてしまうエネルギーを纏った人柄。これまで培った経験を活かし、配給事業にも積極的に取り組んでおり、Strangerのセンスで選定された作品が全国の劇場へと拡がっている。

 

 

映画を観ることだけでなく、その余白までも愛し、育てていこうとする姿勢は、きっとこれからも驚きや発見を生み出し続けてくれるはずだ。

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