カッツ
2025/11/21 07:33
64-ロクヨン-
2016年前後編で公開、横山秀夫原作、瀬々敬久監督
主演の佐藤浩市が演じる三上義信は、かつて「ロクヨン」と呼ばれた昭和64年の未解決誘拐殺人事件の捜査に関わった元刑事。現在は警務部の広報官として、記者クラブとの対立や警察内部の軋轢に苦しみながら働いている。
物語は、時効が迫る中でロクヨンを模した新たな誘拐事件が発生し、三上が再び過去と向き合うことになる。事件の真相だけでなく、警察組織の構造的な矛盾、匿名発表をめぐる報道との駆け引き、そして三上自身の家族との葛藤が複雑に絡み合い、観る者に深い問いを投げかける。
原作の持つ緻密な構成と心理描写は、映画でも丁寧に再現されており、「警察小説の最高峰」と称される横山作品の重厚さがそのままスクリーンに息づいている。佐藤浩市は、正義と組織の狭間で揺れる男の苦悩を静かな迫力で演じ、観る者の共感を呼ぶ。
また、昭和64年というわずか7日間しか存在しなかった時代設定が、物語に象徴的な陰影を与えている。「昭和に取り残された者たちの魂の彷徨」とも言えるテーマが、過去と現在をつなぎ、事件の解決以上に人間の尊厳と記憶の重みを描いている。
『64(ロクヨン)』は、ミステリーでありながら、組織と個人、報道と正義、そして家族の絆を描いた人間ドラマでもある。横山秀夫が直木賞を拒んでまで貫いた信念が、映画にも強く息づいている。
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