沖縄での日給5000円の人生の合宿『深呼吸の必要』
■深呼吸の必要
《作品データ》
『月とキャベツ』や『昭和歌謡大全集』を手掛けた篠原哲雄監督が当時キャリアがキャリアが浅かった5人の俳優を中心に作ったヒューマンドラマ。東京に住む若者男女5人が沖縄のサトウキビ畑で行われる「キビ刈り隊」のバイトに応募し、沖縄にやって来る。期日までの約1ヶ月間、おじいとおばあの家で寝泊まりしながら、広大なサトウキビ畑の耕作の手伝いをする。主演はこの作品が映画デビュー作となる香里奈で、他谷原章介、長澤まさみ、成宮寛貴、金子さやか、久遠さやか、大森南朋が出演。
・公開日: 2004年5月29日
・配給:日本ヘラルド映画(角川ヘラルド・ピクチャーズ)、松竹
・上映時間:123分
【スタッフ】
監督:篠原哲雄/脚本:長谷川康夫
【キャスト】
香里奈、谷原章介、長澤まさみ、成宮寛貴、金子さやか、久遠さやか、大森南朋
《『深呼吸の必要』考察》
長澤まさみと言えば、今やトップ女優の一角と言って間違いない。
第5回(1999年度)東宝「シンデレラ」オーディションに応募し、35,153人の中から2000年1月9日に当時、史上最年少の12歳(小学6年生)でグランプリに輝き、金子修介監督作品『クロスファイア』で映画初出演、『ロボコン』で初主演、セカチューこと『世界の中心で、愛をさけぶ』で大ブレイクし、その後も『涙そうそう』や『海街diary』、東野圭吾原作の『マスカレード』シリーズ、そして「コンフィデンスマンJP」シリーズなど、フィルモグラフィーを振り返るだけでも錚々たるもので、そのどの作品も邦画をよく見ている方ならば言えばだいたい分かる作品が大半。
だが、彼女のキャリア初期の出演作『深呼吸の必要』を知っている人は意外と少ないのではなかろうか?
・2004年の映画事情と『深呼吸の必要』
今回はちょっといつもと違う形で深掘り。
まず、公開した2004年の映画界だが、この年の興収ランキングがこんな感じ。
1 位:『ラスト サムライ』 137.0億円
2 位:『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』135.0億円
3 位:『ファインディング・ニモ』110.0億円
4 位『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』 103.2億円
5 位:『世界の中心で、愛をさけぶ』 85.0億円
6 位:『スパイダーマン2』 67.0億円
7 位:『デイ・アフター・トゥモロー』 52.0億円
8 位:『いま、会いにゆきます』 48.0億円
9 位:『劇場版ポケットモンスター アドバンスジェネレーション 裂空の訪問者 デオキシス』43.8億円
10位:『 トロイ』43.0億円
GW映画
『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』
『名探偵コナン 銀翼の奇術師』
『キル・ビル Vol.2』
『スクール・オブ・ロック』
『パッション』
夏休み興行
『スパイダーマン2』
『スチームボーイ』
『シュレック2』
『キング・アーサー』
『誰も知らない』
『華氏911』
クリスマス興行
『ハウルの動く城』
『ゴジラ FINAL WARS』
『Mr.インクレディブル』
『僕の彼女を紹介します』
『エイリアンVS.プレデター』
『ターミナル』
ここで勘がいい方、というかジブリのファンなら「あれ、興収ランキングに196億円稼いだ『ハウルの動く城』がないよ」って思うだろうけど、年末の公開なので、翌年の興収ランキングになる。というのがこの頃の映画界隈だが、今みたいにアニメ映画がランキングを占めるようなことはなく、まだまだ実写映画が強かった。ちなみに『ラスト サムライ』は前年の12月公開だったがこの年の4月末までの公開でかなりのロングランだったことを記憶している。
香里奈主演、篠原哲雄監督作品『深呼吸の必要』は5月の最終週の5月29日に公開。
ちなみに、この直前までの状況は、アフター・ザ・GWの5月8日にセカチュー、5月15日にティム・バートン監督作品『ビッグ・フィッシュ』とザック・スナイダー監督作品『ドーン・オブ・ザ・デッド』、5月22日にブラッド・ピット主演の『トロイ』が公開し話題となっていた。そして5月29日は洋画こそはミニシアター系作品ばかりだったが、邦画では
庵野秀明監督作品『キューティーハニー』と深田恭子主演の『下妻物語』
といった超強力な話題作があった。
ボンクラな筆者はこれに加えて、ロック様ことドゥエイン・ジョンソン主演の『ランダウン ロッキング・ザ・アマゾン』とジャン・レノ主演の『クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち』、あと銀座シネパトスで『エル・コロナド 秘境の神殿』を見に行ってて、正直
長澤まさみ出演作の『深呼吸の必要』どころではなかった。
さらに、6月に入っても第一週目はアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品『21グラム』(当時から個人的にイニャリトゥは要注目監督だった)とディザスター映画の『デイ・アフター・トゥモロー』、第二週には『海猿 UMIZARU』と銀座シネパトスで『スターシップ・トゥルーパーズ2』、そして最終週には『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』と韓国映画『ブラザーフッド』という感じで、やはり『深呼吸の必要』が映画ファンの「見たい映画候補」に入る隙がなく、こうして20年経った令和の今の今まで見ないでいた。
・ようやく見た『深呼吸の必要』
映画としては都会暮らしの若者5人がサトウキビ畑のキビ刈りという重労働を途中文句言いながらも、成し遂げていくというもの。そんな中で大半の者が鬱屈した過去があり、後半では各々が過去の自分と向き合い、変わっていく。
大森南朋が演じる田所豊は仕事の経験者としてキビ刈り隊の取りまとめ&リーダーを務めているんだけど、この大森南朋と谷原章介や成宮寛貴、香里奈、金子さやか、長澤まさみの立ち位置はまさしく当時の演技キャリアそのものが表されていて、そこが妙に生々しい。谷原は谷原でテレビドラマ「救命病棟24時」での彼の役どころがそのまま生かされていて、上手いキャスティングである。
そして、この映画の長澤まさみが演じる土居加奈子は自閉症気味の鬱屈した少女で、彼女のフィルモグラフィーの中でも珍しい役どころを演じている。あまりの違いっぷりに「これ、長澤まさみ?」と疑う程で、そういう意味でも珍しい映画である。
しかしながら、主演の香里奈が演じる立花ひなみと長澤まさみが演じる土居加奈子の過去に関する描写が明らかに足りない。そこはそのような描写を極力省いたとも考えられるが、それぞれのキャラにもう2,3シーン深掘りが欲しかった。ただ、そうなると尺が長くなるから省いたのであろうが、故に全体的にさらりとした作りになっている。
それと、この沖縄のキビ刈り隊の仕事、
日給5000円である。
これには三食、風呂付き、宿付きでと考えれば相応とも思えるけど、だとしても金銭感覚は今と変わらない20年前で日給5000円はいくらなんでも安すぎないかな?たしか、西村賢太原作の「苦役列車」での1984年の港湾労働でさえ日当6000円だったし、2002年頃に一時期コンビニの深夜バイトをやっていたが、日給計算でも8000円はいったはずだ。そこで2004年の沖縄県の最低賃金を見たら時給606円だから、8時間労働で1日5000円というのも妥当なのかもしれない。ましてや三食風呂宿付きだしね。
それどころか、確か沖縄県でも2週間に1回買い物を頼む用の船が来る所だから、コンビニやスーパーというのもない環境での生活なんだよね。それって、都会人には一番キツいんじゃないかな?だからこそ訳アリな若者5人衆というわけで、過去の出来事から逃げている、自分と向き合っていない、というのも一つのテーマになっている。
予告編やフライヤーから感じられたこの映画の純朴なイメージはわりと当たっていたりする。が、本作を見ることでより「それってどういうことなのか?」と軽く自分で問い詰められたりする。おそらくそれはお金以上の「何か」を考える仕事・時間としてはお金よりも遥かに価値があるようにも思える。そんな純朴な農業×ヒューマンドラマ×青春である。それも、香里奈をはじめ、谷原章介、長澤まさみ、成宮寛貴、金子さやか、久遠さやか、大森南朋にとって、その後の活躍から逆算すると