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●概要

1962年に勃発したキューバ危機の際に、核戦争回避に決定的な役割を果たした実在のイギリス人セールスマンの決断と葛藤を描いたスリリングなスパイサスペンス。

スパイ経験など全くない平凡なセールスマンが販路拡大と称してモスクワへ赴き、祖国ソ連を裏切った高官から得た機密情報を西側へ運び続ける姿が映し出されていく。

映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』、『ドクター・ストレンジ』で知られるベネディクト・カンバーバッチ、映画『ブリッジ・オブ・スパイ』、『ミケランジェロの暗号』で知られるメラーブ・ニニッゼが出演。

映画『追想』で知られるドミニク・クックが監督を務めた。

●About the Movie

東西冷戦下、アメリカとソ連の二国間対立は核武装競争を激化させ、世界は核戦争の脅威にさらされていた。

機械部品のセールスマンをしているグレヴィル・ウィンはある日、アメリカ中央情報局（CIA）とイギリス秘密情報部（MI6）からある依頼を受ける。その依頼とは、販路拡大と称してモスクワに赴き、祖国に背いたソ連高官から東側の機密情報を受け取り、西側へ持ち込むというもの。

あまりにも危険な依頼に恐れをなしたウィンは協力を拒否するが、世界平和のために祖国に背を向けたGRU（ソ連軍参謀本部情報総局）高官オレグ・ペンコフスキーに説得されてやむなく依頼を受け入れることを決める。

やがて政治体制の違いを越えて友情と信頼で結ばれていくウィンとペンコフスキーだったが、非情な国家の論理に引き裂かれ、過酷な運命をたどることになる。

●映画評

スパイ経験など全くない機械部品の販売を手掛ける平凡なセールスマンが世界の運命を託されるという奇妙な実話を基にした映画が『クーリエ:最高機密の運び屋』である。

この映画は、アメリカとソ連による対立で核武装競争が激化した東西冷戦下、二大国の対立はやがてキューバ危機へと発展してしまう。本作は、世界と核戦争の瀬戸際にまで追いつめた危機回避の裏にある歴史の闇に葬られていた事実を描いている。

キューバ危機回避のためにアメリカ中央情報局（CIA）とイギリス秘密情報部（MI6）にスカウトされた平凡なセールスマンのグレヴィル・ウィンが販路拡大と称してモスクワへ赴き、祖国ソ連に背いた高官から機密情報を受け取り、西側へ持ち込むという危険と隣り合わせの任務に従事する。

スパイ映画ファンとしては派手なアクション、美女との身を焦がすような恋、強烈な個性を持つ敵、一度は訪れてみたい異国の地が登場する「007シリーズ」を想い出すが、本作は平凡であるがゆえに目立たないことからアメリカとイギリスの情報機関にスカウトされ、危険な任務を遂行することになるセールスマンの姿を映画を通して目にする。

まさにリアルなジェームズ・ボンドの姿を目にし、ジョン・ル・カレの小説を想わせる本格派のスパイサスペンスである本作は言い知れぬ緊張感を観る者にもたらす。どこで監視されているのかわからず、スパイだと気付かれてしまえば即刻命を奪われてしまう。敵国に潜り込むスパイの気分にさせられるスリリングな映画である。モスクワへ赴くことができるのか？　モスクワからイギリスへ戻ることができるのか？　盗聴されていないか？　尾行されていないか？　次から次へと出てくる不安要素が嫌でも緊張感を高めていく。

登場する超小型カメラ、引き出しの裏にさらに引き出しがある仕掛けテーブルなどスパイ映画で目にする小道具も登場し、スパイ映画ファンとしては胸が躍る。

●豆知識

オレグ・ペンコフスキーの祖国ソ連に対する裏切りはKGB（ソ連国家保安委員会）のスパイによって得られた情報によって明らかになった。ペンコフスキーは1962年10月22日に逮捕され、反逆罪とスパイの罪で裁判に掛けられ、1963年5月16日に処刑された。処刑は銃殺ではなく、生きたまま火葬にされるものだったと言われている。

グレヴィル・ウィンもソ連によって逮捕され、懲役8年の判決が言い渡された。後にイギリス側が捕らえていたソ連側のスパイとの交換によって釈放され、イギリスへ帰国した。しかし、ウィンは投獄の影響からうつ病とアルコール依存症に苦しみ、1990年2月28日に70歳で亡くなった。

オレグ・ペンコフスキーが祖国ソ連を裏切り、機密情報を西側に流出させた理由は明らかになっていない。

グレヴィル・ウィンを演じたベネディクト・カンバーバッチは役作りのために約10キロ体重を減らして髪を丸刈りにした。

●映画『クーリエ:最高機密の運び屋』予告編