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DISCASレビュー

じょ〜い小川
2024/07/10 02:45

【蔵出しレビュー】キャスト名、登場人物名なしでもレビューが書けることを証明した『君たちはどう生きるか』

※TSUTAYAにて7月3日よりレンタル開始になった宮崎駿監督作品『君たちはどう生きるか』を、2023年7月の公開当時のレビューを一部加筆・訂正したものです。

 

■君たちはどう生きるか

(c)2023 Studio Ghibli 

《作品データ》

『風の谷のナウシカ』や『紅の豚』、『もののけ姫』など数々の傑作を手掛けた宮崎駿監督の『風立ちぬ』以来の約10年ぶりの新作映画! 公開前のCM・宣伝だけでなく、公開直後も公式ホームページもパンフレットなども出すことなく、作品におけるあらゆる情報を断ち、巨匠・宮崎駿が己の作品を現代に問いかける。

・TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー中!

・配給:東宝

 

《『君たちはどう生きるか』レビュー》

公開後も尚、劇場でのパンフレット販売を行わず、公式ホームページさえもなく、また、主要媒体の作品データ・紹介にさえ作品のあらすじを書かず(緘口令?)、多くが謎に包まれたまま見ることになった10年ぶりの宮崎駿監督作品『君たちはどう生きるか』

特に2000年代以降は『ハウルの動く城』、『崖の上のポニョ』、『風立ちぬ』と三作連続で空振り気味な御大・宮崎駿監督ではあるが、今回は全体的にアドベンチャー映画のノリのマルチバース異世界ファンタジーになっていて、『風の谷のナウシカ』とまではいかずとも久しぶりに悪くない手応えの宮崎駿監督作品に出合えた。

 

その主要因は主人公を少女や未就学児、動物ではなく、少年にしたことが大きい。異世界の冒険譚を少年メインで描くことで、ここ最近の宮崎駿監督作品のファミリー層向けのノリを払拭し、どちらかと言うと『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』の頃の80年代のジブリのテイストのアドベンチャー映画にシフトしている。

 

ストーリーの根幹は主人公が異世界に行ってしまった継母を取り戻すための冒険で目的そのものは単純だが、これをまるで夢の世界に迷い込んだかのような迷宮のようなめくるめく展開。実写で言えばデヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』や『インランド・エンパイア』、アニメなら今敏監督の『パプリカ』や湯浅政明監督の『夜は短し歩けよ乙女』のような手応えの作品。今風に言えばマルチバースものと言いたくなるが、本作はマルチバースというよりも昔ながらの異世界ファンタジーと言いたい。それこそキーになるキャラのアオサギは19世紀に出版されたルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」のウサギのような存在であり、それに近いものを感じる。作品の随所に『天空の城ラピュタ』や『となりのトトロ』、『ハウルの動く城』や『崖の上のポニョ』などを感じさせるセルフオマージュがたっぷり感じられ、宮崎駿監督のルーツと総決算を併せ持った仕上がりになっている。

 

後半の石のくだりでメタファーを使ったり、禅問答のような問いかけをしたり、最後まで見る者を揺さぶる。宮崎駿監督の自伝ディフォルメとも言いたげな復活作で、細田守監督や新海誠監督らの作品と比べるとレトロに感じられる作りのアニメだが、そこには宮崎駿監督の味わいがたっぷりある。

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