DISCASレビュー

かずぽん
2025/07/23 10:53

エレファント・マン

長年、気になりながらも未見だった作品】

 

(1980年・英/米・124分・モノクロ)
監督:デヴィッド・リンチ
原題:The Elephant Man

そういえば観てなかった…と思い立って、初めて『エレファント・マン』を鑑賞しました。私の中では『ジョニーは戦場へ行った』がトラウマ映画の代表なのですが、本作もそうなるかもしれません。
『ジョニーは戦場へ行った』ならば、戦争に対して怒りをぶつけることも出来るのですが、本作は誰が悪いわけでもない。運命のせいにして、こんな過酷な運命を背負わされたことに対して同情すればよいのでしょうか。

エレファント・マンと呼ばれた青年ジョン・メリック(本名はジョゼフ・メリック/1862.08.05ー1890.04.11)は実在の人物です。特典の「Joseph Merrick The real Elephant Man」の中で、王立ロンドン病院博物館の館長エドモンズ氏が、本作と実話との違いを解説しています。
ほぼ忠実に再現されているようですが、物語の構成上、監督のデヴィッド・リンチは時系列の順番を変えて、独自の解釈でより劇的な物語に仕上げたそうです。
この特典を観て、私が多少救われた気持ちになったのは、実際のジョンは、生まれた時には身体に何の異常も認められず、家庭は裕福だったと知ったからです。
ジョンの身体に異変が出て来たのは2歳近くになった頃だったようです。それでも彼は両親に愛されて育ちました。学校にも通い、読み書きも出来たといいます。しかし、母親が病死した後、父が再婚し、その継母はジョンを疎ましく思ったようでした。

それともう一点。彼の最期の描写についてですが、映画では、あたかもジョンが覚悟の上で普通の人のようにベッドに仰向けで寝たように思えましたが、実際には起き上がろうとしていた形跡があり、脳卒中や心臓発作などで倒れて起き上がれなかった可能性があると言います。死亡診断書には「頭の重さによる窒息死」と書かれ、自死の扱いではありません。

映画の中で印象に残ったシーンがいくつかあります。
・外科医のトリーヴス医師(アンソニー・ホプキンス)が初めてジョン(ジョン・ハート)と対面した時、静かに流した一筋の涙。
・女優のケンドール夫人(アン・バンクロフト)がジョンの病室を見舞った時の慈愛に満ちた眼差し。そして、ジョンを招待した劇場での観客へのジョンの紹介と観客たちの拍手。
・メリックが作ったボール紙製の大聖堂の模型と、ジョン・メリックのサイン。
・カー・ゴム院長(ジョン・ギールグッド)の新聞への投稿がきっかけで寄付が集まり、それがジョンの生活費となったこと。
・トリーヴス医師の「自分は偽善者か?」と自問自答するシーン。
・ジョンが贈り物の中で化粧箱を特に喜んだこと。
・ウェンディ・ヒラーが演じた婦長の、役目に忠実で毅然とした態度。
・その他には、病院でジョンをこっそり見世物にしていた夜警のジムや、見世物小屋の興行師バイツは、嫌な奴の代表。

映画だけを観ていたなら、私はずっと落ち込んだままだったと思います。しかし、前述の特典を観たお陰で、ジョンが不幸な身の上にあっても、多少の楽しみや希望があったと分かり、(身勝手な感想ですが)救われた気持ちがしたのです。
私の中で堂々巡りしている複雑な感情については、観てから数日が経過しても整理がついていません。

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