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cine-ma
2025/03/09 12:03

2025年に観た映画(8) 「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」

日本でも連日のように報道されているガザ地区ではなく、ヨルダン川西岸の南端にあるパレスチナ人居住地区<マサーフェル・ヤッタ>で続いている、イスラエル軍による住居の破壊行為を綴った2019年~2023年10月までの4年間にわたる映像の記録。
長年にわたり住み続けている<故郷>を、銃器を携えた軍に追い払われるパレスチナ住民。その一方的な力関係はどんな事情があろうとも「迫害」以外の何物でもなく、先ずは否応なくイスラエル政府のやり口と横暴さにやるせなさと住民への同情を禁じ得ない。こんな形で住居を破壊され追い出された人達が仮住まいとして逃げ込む洞窟の様子にも驚かされます。

(c)2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA
(c)2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA
(c)2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA

この居住地区で生まれ育ったパレスチナ人バーセルと、イスラエル人のユヴァルの2人は、時として監督というよりも本作の撮影対象として登場する点に違和感を持ったのですが、監督・脚本・撮影・編集を4人組で分担していた事を知り納得。

(c)2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA

左からバーセル(パ)、ユヴァル(イ)、ハムダーン(パ)、ラヘル(イ)

軍の圧力もさることながら、パレスチナ人の住居を一掃した後に現れるユダヤ人入植者達の我が物顔な振舞いが恐ろしい。
監督の1人でもあるイスラエル人ジャーナリストのユヴァルは、夜が更けると車で自宅へと帰ってゆく(バーセルの家から30分程度なのだそう)。本作観賞後、パンフレットに寄稿されている高橋和夫放送大学名誉教授の記事で、普段我々が目にする地図では判らないパレスチナ自治区と呼ばれる地域内の複雑な管理状況と、その中に存在する厳然たる民族差別/行動制限への理解が深まる。そしてそれを「アパルトヘイト」と呼んでいる事を知る。

この記事を書いている最中に、本作がオスカーを受賞。
自分の故郷で起こっているこの状況を一方的な弾圧のエビデンスとして映像に記録した本作。同時にノミネートされていた「Black Box Diaries」もそうですが、第三者ではなく当事者が自ら作品を通じて現実世界の問題解決に向き合う難しさをひしひしと感じます。彼等にとって、まだ何も始まってはいないのだから。

№8
日付:2025/2/23
タイトル:ノー・アザー・ランド 故郷は他にない | NO OTHER LAND
監督・脚本:Basel Adra, Yuval Abraham, Hamdan Ballal, Rachel Szor
劇場名:シネプレックス平塚 screen3
パンフレット:あり(¥900)
評価:5

パンフレット(¥900)

この国で起きている問題の状況を少しでも正確に理解する上で、パンフレットに掲載された有識者各氏の記事は大変参考になりました。
<CONTENTS>
・コメント
・イントロダクション
・2024年ベルリン国際映画祭授賞式でのスピーチ
・監督声明
・バーセル・アドラー&ユヴァル・アブラハーム監督インタビュー
・二つの占領地 高橋和夫(放送大学名誉教授)
自治区の現状を「地図に騙される」と断じ、A~C地区の存在や現状を判り易く解説。「アパルトヘイト」という言葉が南ア以外の地域においても汎用的に用いられている事を初めて知る
・二人の関係から見える不平等 安田菜津紀(メディアNPO Dialogue for People副代表)
・映画に描かれたパレスチナ 鈴木啓之(東京大学中東地域研究センター特任准教授)
「平和主義者のパレスチナ人とリベラルなイスラエル人」の組み合わせがパターン化に陥っていると筆者は指摘
・イスラエル・パレスチナをめぐるドイツのジレンマ 熊谷徹(在独ジャーナリスト)
・マサーフェル・ヤッタの現状は遠い世界の出来事ではない 森達也(映画監督)
・ノミネート/受賞歴

 

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