李氏朝鮮時代のブラインド・サスペンス『梟-フクロウ-』
■梟-フクロウ-
《作品データ》
17世紀の朝鮮王朝時代の書物「仁祖実録」に記された王子の怪死にまつわる謎を題材に、盲目の目撃者が謎めいた死の真相を暴くため奔走するサスペンススリラー。盲目の鍼医ギョンスは病の弟を救うため、誰にも言えない秘密を抱えながら宮廷で働き始めるが、ある夜、彼は王の子の死の謎を目撃してしまったことで、おぞましい陰謀に巻き込まれ、自身に降りかかった冤罪を晴らすために奔走する。
『毒戦 BELIEVER』のリュ・ジュンヨルが主人公ギョンスを演じるほか、『コンフィデンシャル/共助』シリーズなどのベテラン、ユ・ヘジンが王役を務める。
・2024年2月9日(金)より、新宿武蔵野館他全国ロードショー!
・上映時間:118分
・配給:ショウゲート
【スタッフ】
監督・脚本:アン・テジン/脚本:ヒョン・ギュリ
【キャスト】
リュ・ジュンヨル、ユ・ヘジン、チェ・ムソン、チョ・ソンハ、パク・ミョンフン、キム・ソンチョル、アン・ウンジン、チョ・ユンソ、他
英題:THE NIGHT OWL/製作国:韓国/製作年:2022年
公式HP: https://fukurou-movie.com/
〈『梟ーフクロウー』レビュー〉
フライヤーからは個人的に好きそうな映画のタイプの雰囲気を醸し出していたが、個人的にのめり込みにくい李氏朝鮮中期の宮廷ものという要素に若干不安を抱いた韓国のサスペンス映画『梟ーフクロウー』。序盤の17世紀の韓国の盲目の宮廷鍼師としてのドラマとしても良く、次第にサスペンススリラーとしての要素が強まり、
ストーリーが進めば進むほどドス黒く、ドロドロの様相になり、最後まで飽きないブラインド・サスペンス・スリラーである!
宮廷で謎の出血と共に死を遂げる奇病が蔓延する中で、盲目の鍼師チョン・ギョンスが王子の怪死に居合わせる、言わば李氏朝鮮版『見えない目撃者』のようなサスペンスだったりする。
この『梟ーフクロウー』、邦題が「梟」となっているが、原題の「올빼미」は=梟で、英題の「The Owl」(The night owlともなったいる)は=「フクロウ目」となっているので、概ね原題=邦題=英題になっている。たまに原題と邦題が違う作品がある中で、そこをブレずに合わせたがこのタイトルの意味が重要。
この梟(フクロウ)がどういう鳥であることを知っていると、ある意味、先天性の盲目の主人公チョン・ギョンスに関する体質・謎について映画を見ている人は「チョン・ギョンスの盲目って実はこうなんじゃない?」とか「盲目とは言ってるけど、目が見える・見えないは実はこのぐらいなんじゃないかな?」というのがなんとなく分かる暗示になっている。サスペンス/ミステリーを見る上でミスリードというのはあるが、これはミスリードではなくタイトルがもたらす暗示であり、チョン・ギョンスの体質・謎はそれでだいたい合っている。
つまり、映画を見る者に途中まではこれを登場人物のセリフや作中のナレーション等では一切説明せず、タイトルによる暗示のリードという手法で見せている。見る人によっては「謎が分かりやすくて捻りがなくない?」と思うようになりかねないが、メインの事件の謎についてはネタバレしているわけではないので、そういった意味でも秀逸な作品タイトルである。
この目が見える・目が見えないというのが作中の事件や宮廷の体質、主人公チョン・ギョンスの生き方全てに染み渡っていて、この映画のテーマの一つでもある。このテーマは北野武監督作品『座頭市』のテーマの一つ(というかラストシーン)にも共通・通じるものがあり、それが作品全体で一貫している。
それと、昼間のシーンの光の入れ方や夜のシーン、暗い部屋のシーンが多いのも主人公チョン・ギョンスが取り巻く世界観でありながら、1640年代の時代考証、朝鮮王朝の闇深さ・ドス黒さにもリンクした映像トーンになっていて、この映画の味わいの主要素になっている。
時代としては2013年に公開したイ・ビョンホン主演の『王になった男』の次の代の国王・仁祖の時代で、27、8年後にあたるが宮廷の家臣・大臣、従者らの着ている服がほぼ同じだったりするが、映像トーンは『梟ーフクロウー』の方がシリアスさが濃く、主人公チョンの性質と夜のシーンが多いこともあり暗さが強調されている。
さらにこの暗さ・闇・闇深さが主人公チョン・ギョンスそのもの、宮廷の王とその息子夫婦&孫との間柄や目や鼻など七つの穴から血が吹き出る奇っ怪な感染病など作品のあらゆる部分に行き届いていて、その暗さ、怨念の泥のぬめりを楽しむ映画でもある。
後半になるとチョンの動きに性質を考慮したとは言え動きすぎとも見えるが、多少のご都合は見ないことにした方が楽しめる。ズバリ言ってしまえば李氏朝鮮版『暗くなるまで待って』あって、且つ李氏朝鮮版『見えない目撃者』なんだが、これら以上に