【鬱・トラウマ・絶望映画マニア】『嗤う蟲』
【鬱・トラウマ・絶望映画マニア】『嗤う蟲』

■嗤う蟲
《作品データ》
日本各地で実際に起こった村八分事件を元にしたサスペンス・スリラー映画。イラストレーターの杏奈は夫・輝道と共に憧れの田舎暮らしをするために麻宮村に移住する。二人は早速自治会長の田久保夫妻に挨拶に行き、輝道は農業をやりながら徐々に村に馴染んでいくが、杏奈は過剰な親切から次第に不信感を抱くことに。夫・輝道役を若葉竜也、妻・杏奈役を深川麻衣が演じ、他松浦祐也、片岡礼子、中山功太、杉田かおる、田口トモロヲが出演。
・1月24日(金)より新宿バルト9他全国ロードショー【PG12】
・配給:ショウゲート
・上映時間:99分
【スタッフ】
監督・脚本・編集:城定秀夫/脚本:内藤瑛亮
【キャスト】
若葉竜也、深川麻衣、松浦祐也、片岡礼子、中山功太、杉田かおる、田口トモロヲ
公式HP:https://waraumushi.jp/
《『嗤う蟲』レビュー》
てっきり小説か漫画原作かと思ったらオリジナル脚本で、「笑う」を「嗤う」、「虫」を「蟲」というタイトルにする匂わせもバッチリなサスペンス・スリラー映画『嗤う蟲』。ズバリ、田舎村の人の怖さを上手く使ったサスペンス・スリラーで、
田口トモロヲ&杉田かおるの自治会長夫妻の不気味さが光る良質な田舎村サスペンス・スリラーである!

田舎村に引っ越してきて、やや強引ながら田舎村に馴染もうとする夫と、周りの異様なお節介もあっていまいち田舎村に馴染めない妻の夫婦の物語から、田舎村で巻き起こる事件を描いたスリラー。東京から来た新参者二人を、方や村に馴染む者の視点で、一方は村に馴染まない者の視点で描いたのはいいアイデアで、この新参者二人を通して村の人々の良い所とおかしな所を見られる。

この映画の怖さは田舎云々ではなくて、どちらかというと人の集団心理・権力の怖さ、と見えた。そこで暮らしていく上で、田口トモロヲが演じる村の実力者の田久保の押しの強さとそれになびく周りの取巻き、そして松浦祐也が演じる三橋が除け者としていじめ&新参者に見せしめて田久保らに逆らわないようにするコミュニティの構図。さらにそこに村の秘密や新参者二人の夫婦仲、子宝などが加わり、架空の村・麻宮村のコミュニティを存分に見せつけられる。


中盤以降はあるサスペンスの要素が加わり、これまた閉鎖的な村コミュニティの要素を上手く使っている。こうした閉鎖的なコミュニティ内でのヒエラルキーや心理描写、いじめ描写はお見事で、この辺りに『先生を流産させる会』を手掛けた内藤瑛亮監督が脚本に絡んでいるという“らしさ”が伺える。加えて、自治会長の田久保を演じた田口トモロヲとその奥さん役を演じた杉田かおるの怪演が光る。

あと細かい描写になるが、深川麻衣が演じた杏奈がカボチャの煮付けが苦手という演技は非常に良かった。実は筆者も作中の杏奈と同じ理由で幼少の頃からカボチャの煮付けがトラウマ級に苦手。天丼屋の天丼にカボチャのてんぷらが入ってる場合はてんぷらならばなんとか食べられるが、カボチャそのものをガッツリ食べる煮付けは未だに食べられないので、彼女の気持ちがスクリーンからヒシヒシと伝わって来た。


自治会長から疎まれる人があと2人ぐらいいた方が新参者夫婦にとっても「次は私たちかも」みたいな怖さが増したかもしれない。
それでも閉鎖的な村のサスペンス・スリラーとしてはわりと楽しめた。

