懐古 アメリカ映画の「1972年」
昔の時代を慕い、アメリカ映画の名作を年度別に振り返っている。
「1960年」を初回に、前回「1971年」まで12回にわたって当時の名作に触れてきた。
今回は、空前の大ヒット映画「ゴッドファーザー」や、後のパニック映画ブームの草分け「ポセイドン・アドベンチャー」が登場した「1972年」(昭和47年)の話題作を御紹介したい。
「ゴッドファーザー」監督:フランシス・フォード・コッポラ
まずはこの作品をトップに挙げたい。
巨大マフィア・ファミリーの内幕を、過激なバイオレンスで描いて大ヒット。アカデミー賞・作品賞を獲得した、映画史上屈指の娯楽大作である。


オープニングは初夏の昼下り、シチリアからアメリカに渡って一大組織を築き上げたマフィアのドン、ヴィトー・コルレオーネ(マーロン・ブランド)の長女コニー(タリア・シャイア)の結婚式である。ドンには3人の息子がいた。短気ですぐ感情的になる長男ソニー(ジェームス・カーン)、小心者の次男フレッド(ジョン・カザール)、温和な三男マイケル(アル・パチーノ)だ。ドンのお気に入りのマイケルは、父の稼業を嫌い、堅気の道を歩むつもりだった。だが、敵対する組織にドンが銃撃されたことから、マイケルは暗黒の世界に足を踏み入れる決意をするのだが...。
マリオ・プーゾのベストセラー小説を映画化した本作は、それまでの暗黒街ギャング映画とは異質なスタイルで一線を画し、悪魔的な映像美とスケールの大きさが際立っている。
カリスマ的なマフィアのドンを貫禄で演じたマーロン・ブランドは、「波止場」(54年)に続き2度目のアカデミー主演男優賞に輝いた。(ただ、本人は受賞を拒否して物議を醸した)
様々な名シーンが脳裏をよぎるが、とても本紙面では書ききれないし、上述以外にも次の名優たちが顔を揃えている。
ロバート・デュヴァル、ダイアン・キートン、スターリング・ヘイドン、アル・レッティエリ、ジョー・スピネル、リチャード・コンテ、ジョン・マーリー等など。
残酷なアクション・シーンとは対照的な、ニーノ・ロータの甘美なテーマ曲も印象深い。
「キャバレー」 監督:ボブ・フォッシー
1930年代の退廃と倦怠渦巻くベルリンを舞台に、ショー・ガールと大学生の恋を描いたミュージカル。


イギリスから来た大学生のブライアン(マイケル・ヨーク)は、スターを夢見てキャバレーで働く歌手・サリー(ライザ・ミネリ)と出会った。ブライアンは同性愛者で、サリーは娼婦同然の生活を送っていたが、それでも2人の関係は友人から恋人へと発展していく。しかし、バイ・セクシュアルの男爵(ヘルムート・グリーム)が現れたことで、2人の仲は危うくなっていくのだが...。
ライザ・ミネリの母はミュージカル界の大女優ジュディ・ガーランドであることは広く知られている。その母親さえも、娘ライザの才能に驚嘆したという。
バネの利いた肢体を自在に操り、絢爛たる躍動空間を作り出すダンステクニックは非凡であり、女優としての演技も認められ、アカデミー主演女優賞を受賞した。
ライザはブロードウェイ版でのオーディションを14回も受けて落ち、執念で本作の主演の座を射止めて、母が生涯得られなかったオスカー像を手にしたのだ。
監督は、舞台演出家で、ダンサー兼振付師でもあるボブ・フォッシー。
徹底的にライザ・ミネリの魅力に重点を置いた作風で、ヒロインの陽気で逞しいバイタリティが見もの。半面、その向こう側に暗い世相(ナチス台頭期、ファシズムの不気味な影)を色濃く対比させている。
「ポセイドン・アドベンチャー」 監督:ロナルド・ニーム
1970年代前半に大流行したパニック映画ブームの火付け役にして、最高傑作といえるパニック・スペクタクル大作。


8万1千トンの豪華客船ポセイドン号が、ニューヨークを出航して地中海に入ったとき、海底地震による空前の大津波を受けて転覆した。船内は大晦日を祝うパーティの最中だったが、一瞬のうちに数百名の命が奪われた。辛うじて生き残った数名は、神を頼るなと主張する型破りな牧師スコット(ジーン・ハックマン)をリーダーに、上下が逆になった船内を、船底目指して進み始める。ボイラーの爆発などによって、船は次第に浸水し沈んでいくが、スコットたちは様々な危機を乗り越えながら、脱出口を探すのだが...。
すべてが上下逆転した世界、テーブルやトイレが天井からぶら下がり、床から照明が突き出している。
普通ではありえない別世界を、大半が実物大という巨大セットでリアルに作っている。
登場人物の個性が生き生きと描かれているのも魅力的だ。
上述の神父に加え、勝ち気な刑事(アーネスト・ボーグナイン)とその妻(ステラ・スティーヴンス)、気弱な商売人(レッド・バトンズ)、孫に会うのを楽しみにしている老夫婦(ジャック・アルバートソン/シェリー・ウィンタース)、歌手(キャロル・リンレイ)、船のボーイ(ロディ・マクドウォール)らである。
本作が空前の大ヒットを飛ばした後、「大地震」(74年)、「エアポート’75」(74年)、「タワーリング・インフェルノ」(74年)、「JAWS ジョーズ」(75年)といったパニック映画が続々と公開されている。
「ゲッタウェイ」 監督:サム・ペキンパー
我らがスティーヴ・マックィーン主演の痛快娯楽映画で、銀行強盗の仲間割れでボスを殺した男女が、メキシコを目指して逃亡するバイオレンス・アクション。


テキサスの刑務所から出所したばかりのドク(スティーヴ・マックィーン)は、悪徳政治家ベニヨン(ベン・ジョンソン)の指揮する銀行襲撃の首謀者となった。ところがメンバーのひとりルディ(アル・レッティエリ)が裏切り、ドクに銃口を向ける。間一髪難を逃れたドクは、すべてベニヨンの差し金と踏んで彼を襲い、ドクの留守中にベニヨンに貞操を奪われたドクの妻キャロル(アリ・マッグロー)が復讐を果たした。ドクは金を奪ってキャロルとともに逃走するのだが...。
ここでDISCASに本作のレビュー投稿した際の、マックィーンに関することを転記します。
<マックィーンの青い目と、独特のヘアスタイルが好きで、彼の所作も流麗で、且つ無造作風なのがいいんです。それらが「マックィーン・ワールド」の映画すべてにおいて光輝いているのです。
どこからくるのでしょうか、その人間的な男の魅力。子供の頃、両親の離婚を経験し、少年院に入る札つきのワルだったり、海兵隊への入隊、そしてタクシードライバーやバーテンダー、用心棒など、様々な職業を経験した苦労人です。生涯の映画出演数は30本ほどだと思いますが、十分です。
若くして世を去っても、彼の出演した映画はすべて光輝いています。>
一方、アリ・マッグローは73年にマックィーンと結婚するが5年後離婚。ニュー・スターとして期待されながら、しかし自閉的といわれた性格の夫は妻の映画出演を喜ばなかった。マッグローは離婚によってカムバックを果たすものの、その6年間のブランクはあまりに大きかった。
「脱出」 監督:ジョン・プアマン
激流下りを試みた男たちと、山の住民とのいさかいが殺し合いに発展していく恐怖を描く。
単なるサバイバル・アクションではなく、ベトナム戦争の泥沼化で閉塞するアメリカ社会の空気を象徴した1本でもあった。


ダム建設によっていずれ消えてしまう河の激流を、カヌーで下る計画をした4人の男たち。エド(ジョン・ヴォイト)、ルイス(バート・レイノルズ)、ドリュー(ロニー・コックス)、そしてボビー(ネッド・ビーティ)である。彼らは、最初は大自然のアウトドア・ライフを楽しむ冒険旅行のつもりだった。だが、偶然遭遇した山の住人の2人組とのいざこざがもとで、その1人を殺す羽目になる。残された山の住人の姿なき追跡に怯えるメンバーは、河を下りながら脱出するのだが...。
極限状態に陥ってからの各人の性格付けが興味深い。
精悍なリーダー役のルイスは、最初は威勢がいいものの、負傷してからは見る影もない。
一方、気弱なサラリーマンのエドが逞しく変貌し、リーダー役を担うのだ。
激流をカヌーで下るシーンを始め、大自然の描写も圧倒的だ。
「ジュニア・ボナー / 華麗なる挑戦」 監督:サム・ペキンパー
「ゲッタウェイ」に続き、またまたマックィーンとサム・ペキンパーがコンビを組んだ傑作。
失われたものを回復せんとする両雄の心意気が結実した、「詩情」を感じる名作でもある。


ロデオ大会に出場するため、故郷のプレスコットに帰ってきたジュニア・ボナー(スティーヴ・マックィーン)は、ロデオの名手だった父エース・ボナー(ロバート・プレストン)の牧場が、兄のカーリー(ジョー・ドン・ベイカー)に買い取られ、宅地に造成されていたのに驚いた。ジュニアは西部の町にも容赦なく押し寄せる時代の波に反発しながら、オーストラリアに渡って一旗揚げることを夢見る父のために、ロデオ大会の優勝を目指す。だが、その為には、牧場主バック・ローン(ベン・ジョンソン)の持ち牛である ‘荒牛サンシャイン号’ を乗りこなすことだった...。
マックィーンが、愛馬を乗せたトレーラーを繋いだクルマを運転し、故郷に帰ってくる。
カウボーイ・ハットとチャップスを穿いたマックィーンは、実に絵になる。
チャップスを脱ぐと、ブルージーンズ、これまたよく似合っている。
「ようこそ、プレスコットへ」、「第84回開拓時代祭」、アメリカの独立記念日(7月4日)に行われるロデオ・大会の祝賀パレードのシーン。
「星条旗よ永遠なれ」の勇壮な音楽に乗って、司会者から次々と紹介されながら行進するロデオ・大会出場者の面々。馬に相乗りして進む父とジュニアの姿が微笑ましい。
しかしこの映画の中で、ロデオ大会はひとつの背景に過ぎず、描かれているのは「家族愛」、「家族の絆」、そこに投影されたジュニア・ボナーという「男の切実さ」ではないだろうか。
ジュニア・ボナーの母親役で、懐かしアイダ・ルピノが出演している。
孤独なマックィーンに愛情たっぷりに接し、息子に理解を示す重要な役柄である。
他の主な作品では、「シノーラ」、「センチュリアン」、「ロイ・ビーン」、「ビリー・ホリディ物語」、「フォロー・ミー」、「サウンダー」といった作品が思い浮かぶ。
未見の「ビリー・ホリディ物語」、「サウンダー」は是非とも鑑賞したい作品である。
次回は「1973年」を振り返りたい。
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投稿を表示いづれも当時の洋画劇場で見た作品です。
マックイーンは70年代は一年に一本ペースで、この年は二本あったんですね。
よく考えたら、どちらもサム・ペキンパー作品。
暴力主体と暴力抑えめの対照的な二作品、どちらもグッドでした!
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投稿を表示こんばんは。
1972年はこれまた名作揃いですね。「脱出」と「ジュニアボナー」は前々からレンタルリストには入れているのですが未だ見ていません。洋画さんのご紹介で鑑賞意欲が湧いてきました!
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投稿を表示おはようございます。
この辺になると知っているタイトルが多くなります。
『ゴッドファーザー』は家にあるので、再見してみたいと思います。『ポセイドン・アドベンチャー』もいいですよね。私はこれを観る度に、大勢が逃げるのに付いて行って、直ぐに死んじゃうだろうなあと思うんですよ。(笑)
サム・ペキンパー監督は、男臭い作品が多いのですか?これまで、あまりご縁がなくて。
私は観るジャンルが案外限られているんですね。
SF、ファンタジー、ミュージカル、コメディ、サスペンス、パニック映画、アクション映画を観ることが多かったようです。
少しずつ、観るジャンルを増やして行きたいです。洋画さん、ご指導宜しくお願いします。