メランコリーとクラシック映画のオマージュたっぷりの孤独で不器用な犬と有能友達ロボットの友情『ロボット・ドリームズ』
■ロボット・ドリームズ
《作品データ》
アメリカの作家サラ・バロン原作のグラフィック・ノベルを『ブランカニエベス』や『アダブカダブラ』を手掛けたパブロ・ベルヘル監督によってアニメ映画化されたレトロな感覚があるSFアニメーション映画。主人公のドッグはニューヨークのマンハッタンのアパートで独り暮らしをしていたが、ある日、市販の友達ロボットを通販で購入し、自らロボットを作り上げる。ドッグはロボットとしばらく楽しい日々を過ごすが、二人で海水浴場に遊びに行った際にロボットは突如動けなくなり、ドッグは困惑する。
・2024年11月8日(金)より、新宿武蔵野館全国ロードショー!
・上映時間:102分
・配給:クロックワークス
【スタッフ】
監督・脚本・製作:パブロ・ベルヘル
原題:Robot Dreams/製作国:スペイン、フランス/製作年:2023年
公式HP:https://klockworx-v.com/robotdreams/
〈『ロボット・ドリームズ』レビュー〉
予告編の雰囲気や各国映画祭で話題になっているというぐらいしか知らず、何気なくチェックして見てみたスペイン・フランス合作のアニメ映画『ロボット・ドリームズ』。主人公の孤独な犬と手製友達ロボットとのハートフルな友情だけの映画で終わらず、
不器用でスペックがあまり高くない主人公をリアルに動かしつつ、世間のシニカルさとメランコリーな世界観をセンス溢れる音楽のチョイスと小道具演出で彩り、尚且つどことなくクラシック映画のエッセンスがまぶされた極上の孤独&友情アニメだった!
いわゆる動物擬人化のアニメで、1980年代のニューヨークを舞台に、主人公の独身男性のドッグの侘しい日常に友達ロボットが加わることで変化と、これにまつわるトラブルにずっと引っ張られる形でストーリーが展開。全編セリフがないが、擬人化動物やロボットの表情や仕草、動きで見せるが、本作の主人公のドッグが超絶不器用・ドジなおかげで最後まで楽しめる。主人公が不器用・ドジで見せる動きはチャールズ・チャップリンやローワン・アトキンソンのMr.ビーンさながらだが、必要以上に笑いにはせず、孤独や寂しさで包み込み、周りのシニカルさとドッグのメランコリーな世界観を見る者に感じさせる。
それをパワーもあり、ある程度器用にこなす友達ロボットとの“いつも一緒”の生活に変わり、友情の大切さと孤独からの解放を見せる。てっきりこれを終始見せるほんわかなハッピー友情映画なのかと思いきや違った。そこからの切り替えが二転三転、さらにその先まである。そこに幸せな時間の儚さとどうにもならない運命への対処とその後のドッグの暮らしぶり&ロボットの運命を見ていくが、そこにはリアルさが感じられる。その状況から上手く行くのかと思いきやどちらか(ドッグorロボット)の夢だったりする。このタイトルにもなっている夢の使い方が絶妙で、そこから対極にある現実を見せる。手法としては『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『シカゴ』のミュージカルからのその後の落差の演出にも近いが、そこを当然ながらミュージカルはなしに現実と地続きで見せ、その感覚は我々が見る夢の現象に近い。
この映画、アース・ウィンド・アンド・ファイアーの「September」がロボットのテーマ曲(好きな曲)として印象的な使い方をする。はじめは海水浴で游ぶシーンがあるから「ん?なんでEW&Fのこの曲なんだ?」と思ったが、ロボットにまつわるあるトラブルが長期の絶望的な結果に繋がる前兆、というかちゃんと9月だか8月末の海水浴という設定であることが分かり、「September」をチョイスした妙が光る。さらにこの曲の歌詞を考えると、中盤以降の展開に悲しみが増す。既存曲以外は音楽担当のアルフォンソ・デ・ビラジョンガの曲になるがピアノやシンセサイザーを主体としたジャズをメインにし、これがお洒落且つカッコいい。
あと、ドッグが食べるチートスやシリアル、ジェリービーンズ、ラザニア、ピザ、ホットドッグなどのお菓子や冷凍食品、ジャンクフードも印象的。これらも独身自堕落男性の侘しさを助長するアイテムとして効果的な演出になっている。
それと、本作は『オズの魔法使い』やチャールズ・チャップリン作品に対するオマージュ、リスペクトが存分に感じられる。『オズの魔法使い』に関してはそのものの拝借やロボットの雰囲気を『オズの魔法使い』のブリキっぽくしているが、チャップリンに関してはサイレント手法だけでなく、『街の灯』や『ライムライト』のオマージュが随所に散りばめられている。他にもコニー・アイランドのビーチも『キートンのコニー・アイランド』から由来したものだろうし、後半なんかは『シェルブールの雨傘』の終盤を感じさせるものがある。
随分とクラシック映画のエッセンスを感じさせる監督が手掛けたなと思ったら、なんとサイレント映画『ブランカニエベス』を手掛けたパブロ・ベルヘルが監督だった。あの映画もサイレント期の映画に影響を受けた作品だけに印象深く、そのパブロ・ベルヘル監督が本作を手掛けたことでかなり納得した。
安易にハッピーな方向に持ち込まず、リアルなメランコリーを終始見せる辺りは多少好き嫌いは分かれそうだが、アキ・カウリスマキ監督やジム・ジャームッシュ監督の作品が好きなら必見のアニメ映画。ほんわかさとメランコリーを兼ね備えた晩秋にぴったりな映画である!
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投稿を表示すごいよく考察されてますね🫢
歌詞まで、まったく気が付かなかったです。
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