第4回 アカデミー賞・作品賞受賞「シマロン」
「シマロン」が、第4回アカデミー賞で作品賞を受賞した。
西部の辺境開拓の苦難を描く一大叙事詩であり、当時のアメリカ大衆の愛していた「西部開拓の精神」が生き生きと描かれている。
「シマロン」(1931年・アメリカ、モノクロ、124分)


時は1889年4月。オクラホマ州で、グレート・ランと呼ばれる土地獲得競争が行われようとしていた。未開の地の獲得と開拓を目指し、多くの人たちが馬と馬車に乗り、スタートの合図と共に一斉に駆け出すのだ。ウィチタ出身のヤンシー・クラバット(リチャード・ディックス)もレース参加者の一人だが、同じ土地の場所獲得を目指す気丈の女性ディクシー・リー(エステル・テイラー)の計略にかかり、土地獲得に失敗する。故郷のウィチタに戻ったヤンシーだが、オクラホマ移住の夢を捨てきれず、妻セーブラ(アイリーン・ダン)や息子シム、それに黒人少年で使用人のイザイア(ユージン・ジャクソン)を連れて10日近い旅を続け、オーセージの町に辿り着く。ヤンシーはこの町で新聞社を起こし、町のならず者達を一人で一蹴し、多くの市民の支持を得ながら名士となっていくのだが...。
この映画がアカデミー作品賞を受賞した理由は、主に2点挙げられる。
一つは、ピューリッツァー賞受賞作家エドナ・ファーバー女史の人気小説を忠実に追っていること。
もう一つは、主人公ヤンシー・クラバットが、 ‘弱気を助け、強きを挫く熱血漢’ であること。
アカデミー賞に投票できる会員資格が明文化され、第1回から会員数もかなり増えていたのだが、反面、受賞するには多数の会員を擁する大スタジオを所有しているほうが有利。
その意味ではMGM有利な情勢のなか、RKOの「シマロン」にとって、上述の2点は多くの会員の共感と賛同を得たのだった。
何と言っても冒頭の「グレート・ラン」のシーンは大迫力で、いきなり見せ場を作っている。
疾走する膨大な馬の数、そして勢いよく走る幌馬車の数々、画面から砂煙が舞ってきそうだ。撮影に挑んだエキストラは実に5000人に及ぶと云われる。

リチャード・ディックスとアイリーン・ダンは、それぞれ男優賞、女優賞にノミネートされている。
(当時は主演、助演の区別なし。第9回から分別されている)
だが、男優賞はライオネル・バリモア(A Free Soui)、女優賞はマリー・ドレスラー(惨劇の波止場)が受賞している。
リチャード・ディックスは日本公開作品のなかで鑑賞の機会がないのだが、アイリーン・ダンは華やかなりし30年代のハリウッドを代表するスターのひとりだった。
「新婚道中記」(37年)、「ママの想い出」(48年)など、しっとりとした情感、エレガントな雰囲気が印象的だった。

又、黒人少年イザイアを演じたユージン・ジャクソンは、本作出演時15歳。
48年後、クリント・イーストウッドの「アルカトラズからの脱出」(79年)に63歳で出演している。
尚、本作のリメイク版「シマロン」(60年)では、グレン・フォード、マリア・シェルがクラバット夫婦を演じている。
