こんにちは！
『ポップコーン片手に🍿』かこです😄
 

公開時に渋谷のミニシアターで鑑賞し、独特で匂い立つ妖艶な雰囲気に魅了された
『鵞鳥湖の夜』(がちょうこのよる)
監督はディアオ・イーナン。
イーナン作品は他に2014年ベルリン映画祭で金熊賞(作品)、銀熊賞(最優秀男優賞)をW受賞した「薄氷の殺人」も有名で、薄氷が真冬なら鵞鳥湖は真夏の映画！
今回はその中国ノワール『鵞鳥湖の夜』を筆者の夏映画として紹介、執筆します。

 【目次 】
１.あらすじ、スタッフとキャスト
２.レビュー
　①武漢の夏とネオン
　②中国、台湾キャスト陣の魅力
　③匂い立つストーリーとアクション
３.まとめ

 

１.あらすじ、キャスト

「薄氷の殺人」のディアオ・イーナン監督がフー・ゴーとグイ・ルンメイを主演に迎えて贈るノワール・サスペンス。誤って警官を射殺し賞金首となってしまった男と、そんな男の前に現れた謎めいた娼婦が繰り広げる逃避行をスタイリッシュなタッチで描き出す。共演にリャオ・ファン、レジーナ・ワン。
2012年の中国南部。刑務所から出所したばかりのバイク窃盗団のリーダー、チョウは、敵対グループとの抗争に巻き込まれ、誤って警官を射殺してしまう。警察は警官殺しのチョウを捕まえるべく、すぐさま30万元の報奨金とともに全国に指名手配する。チョウは寂れたリゾート地“鵞鳥湖”の畔に潜伏し、自らに懸けられた報奨金を愛する妻シュージュンに残そうと画策する。そんな彼の前に“水浴嬢”と呼ばれる謎めいた水辺の娼婦アイアイが現れる。
[allcinema]より引用
 

原題：南方車站的聚会  The Wild Goose Lake

スタッフ
監督、脚本：ディアオ・イーナン
撮影：トン・ジンソン
編集：コン・ジンレイ、マチュー・ラクラウ
美術：リュウ・チアン
音楽：B6

キャスト
フー・ゴー (役目チョウ・ザーノン)
グイ・ルンメイ(リウ・アイアイ)
リャオ・ファン(リウ隊長)
レジーナ・ワン(ヤン・シュージュン)

上映時間：111分
制作国：中国、フランス合作
映倫：PG12
 
 

２.レビュー

①武漢の夏とネオン
本作の撮影はコロナ前の中国・湖北省の武漢で行われた。武漢は中国中部、長江中流域唯一のメガシティで副省級市でもあるが、本作で描かれるのは都市中心部ではなく、再開発に取り残された"鵞鳥湖周辺地区"だ。
武漢の夏は非常に暑いことで中国国内では有名らしいが、その通り鵞鳥湖周辺はまるで無風、暑さがスクリーンから伝わってくる。
 

そしてネオンがとても印象的だ。某洋画の日本のネオンには若干の違和感を感じたが、本作では薄暗く殺伐とした広場のネオン輝く様子が、筆者にはウォン・カーウァイ作品同様、新鮮かつスタイリッシュに映った。
そのような場所でジンギスカンの曲に合わせて踊る人々、ワンタンや牛肉麺を食べるシーンなど派手さは無いが刺激的だ。

②中国、台湾のキャストの魅力
主役のバイク窃盗団のリーダー、チョウを演じるのは中国人俳優フー・ゴー、どこか吉田栄作を彷彿とさせる容姿だ。チョウは刑務所から出たばかりにも拘らずある事件がキッカケで満身創痍となる。焦らず穏やかな表情からは想像できない程、アクションシーンは残酷でそのギャップが魅力的だ。

チョウを追うリウ隊長を演じるのがイーナン作品の常連とも呼べるリャオ・ファン。
「薄氷の殺人」では捜査対象の女性に好意を抱く刑事役、本作でも捜査対象のチョウを追う刑事役だが、冷静さと荒々しさの二面性を感じられる。
集団で豪快に原付バイクを走らせる捜査陣が目立つため心配になるが、おそらくエネルギッシュな国民性を表現しているのだろう。

そして私のイチオシ、台湾人女優のグイ・ルンメイ、本作では水浴嬢と呼ばれる売春婦アイアイを演じている。
これまでの出演作「藍色夏恋」「言えない秘密」などで彼女は、瑞々しくも謎めいたヒロインを演じたイメージが強いが、ここ最近では「薄氷の殺人」『鵞鳥湖の夜』と立て続けに事件に絡む影ある女性を演じている。特に本作での水浴嬢という役はルンメイにとっては大きな挑戦だったに違いない。
段カットにカジュアルな服、水浴嬢のシンボル白い大きな帽子を被り、湖のほとりに立つ姿は無気力で不安定な様子を表現している。
ある事件に利用された為にそう見えるのだが、底辺での暮らしは先が見えず、周囲に流されながらも出口を探しているようで、生き抜こうとする執念も感じられる。その執念はエンディングで回収される。
筆者はオープニングからルンメイのミステリアスな雰囲気に魅了されたが、それはクロージングまで続いた。

③ 匂い立つストーリーとアクション
本来なら良い意味で使われる表現だが、本作からは汗や血の生々しい匂いや味までもが伝わってくる。ここでは敢えてそれらを匂い立つと表現したい。
物語の設定2012年の中国では原付バイクが流行し、実際にバイク窃盗団が縄張り争い、窃盗の講習会、窃盗コンテストというものまで開催されていたそうだ。それは作中にも描かれており、とにかくキナ臭い。その予感は的中する。湖からはギリギリの生活を送る人々の行き場のない気持ちや、唯一の逃げ場と言った楽園にも感じられ、様々な念を感じずにはいられない。
 

そしてアクション。物語終盤、チョウが逃げ込んだ古いアパートでのアクションは、発砲シーンを敢えて見せず、発砲音を聞きつけて刑事達が駆けつけるという、ワンテンポ遅れた演出だ。刑事からは犯人たちの生死を曖昧にしているシーンも印象に残る。
しかし犯人たちはというと、傘で敵の体を真正面から貫いたりや斬首などかなり残酷で、違うテイストがミックスされている所もイーナン監督のセンスを感じたポイントだ。
そんな中でチョウとアイアイが二人で牛肉麺を食べるシーンがある。お腹を空かせたチョウが最後の晩餐ではないが、中国では馴染み深い牛肉麺を貪る所に切なさを感じた。

３.まとめ

中国ノワールと謳っているが、抗争以外はとても現実的なストーリーだ。これが中国のリアルと断言するのは絶対に違うが、TV等で映る都市部とそうでない部分の格差を感じたのも事実。
一瞬だがそれを表現しているシーンもある。
どちらに住んでいても「生きる」ことが当たり前の権利、しかし生きることが簡単ではないと思えた。まさに光と影だ。

少し？かなり異色の？夏映画を紹介させて頂きましたが、眩しいだけの夏ではなく、いつもと違う刺激が欲しいときに摂取したい映画『鵞鳥湖の夜』
特に真夏の夜におすすめです。
読んで頂きありがとうございました😄