邦画をほとんど観ていない私が気になっていたこの作品は改めて観て良かった。ものすごく繊細で緻密で丁寧な本作について、書き綴りたい。

【目次】

1. 知っておいて損はない情報とあらすじ

2. 言葉を減らすこと　※ここからネタバレ

3. 時代の対比

4. この映画で得たもの

1. 知っておいて損はない情報とあらすじ

カンヌ映画祭で最優秀男優賞。アカデミー賞国際長編映画賞部門で日本代表。東京国際映画祭でオープニング作品に。

この3つだけでも観るに値する作品だが監督は日本人ではなく、ドイツの映画監督ヴィム・ヴェンダースが小津安二郎監督に大きく影響を受けている。ヴィム・ヴェンダースは海外の人から見た日本の「職人意識」「プロ意識」に着目したという。この丁寧さの全てが役所広司に宿っているが、それは後程。

12月22日(金)公開の本作は渋谷区内17箇所の公共トイレを刷新するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」の活動のPR目的として、本作が公開。そんな作品が世界80カ国で放映が決まっているとは驚きだ。

あらすじ

東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山（役所広司）は同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働く。その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、男は毎日を新しい日として生きていた。その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。

▽以下、一部ネタバレを含みます▽

2. 言葉を減らすこと

1つ1つ。ちょっとした1つ1つ。その1つ1つの丁寧さを追求している。これは役所広司さんに引き込まれるのは間違いない。

何故か。「言葉が明らかに少ない」ことに尽きる。深呼吸、ため息、頷き、会釈、それと表情。

それ以外は音としては入ってくるが、言葉での会話が極めて少ない主人公であるため1つ1つの言動やちょっとした変化などに集中させられる。人混みの中で派手に動き回っている人よりも、止まって微動だにしない人の方が注意を引く感覚に近い。

特に私は4年間の芝居経験があるため、お芝居で一番難しいとされる「無駄のない動き」が本当に体現できているように感じた。これこそが芝居経験をしっかり積み上げてきた役所広司だからこその魅力だと感じた。これを映画館で観ることで目は画面に釘付けになり、耳は少しの変化も見逃さない程、集中できるため、没入感を重視するのであれば映画館をオススメする。

3. 時代の対比

個人的に笑えたのが、毎朝飲む缶コーヒー。「役所広司だけど、まさか・・・」と思っていたらやはりBOSSだった所は笑ってしまった。相性が抜群すぎて、もはやCMに感じたほど。((笑))「トミーリー・ジョーンズ出てこないよな...」とまで期待したほどだ。

今の時代には珍しいと言っては過言ではない、昭和レトロな主人公。パカパカ携帯、カセットテープ、歯ブラシ入れは飲んだ後の1CUP(お酒)の瓶。それに対する東京スカイツリーやSpotifyといったワードや描写も印象的。もちろんテーマの中心にあるトイレも和式と洋式だけでなく、最先端トイレと

よくある公園の古びたトイレも対比として描かれている。

普段からルーティーンで物事を進める主人公が他の人々に少しずつ歯車を狂わされる様も見ていて愛らしい。

4. この映画で得たもの

ここまで没入できる映画も久しいが、個人的に一番得たものは「ちょっとしたこと」の大切さだ。

表情や動き、感情の変化などオーバーリアクションではない「ちょっとした」ことを噛み締め、味わっていくところにこの作品の魅力を感じた。

そして、木々を見上げる。情報社会にありふれた世の中にはデジタルデトックスができる作品でもあるので映画館で集中してみて頂きたい。

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