「バベットの晩餐会」の、“名声とは何か? 結局人は皆墓場に入るのだ。・・”
「バベットの晩餐会」(1987)
ガブリエル・アクセル監督が10年ぶりにデンマークに戻って作り上げたヒューマン・ドラマ。19世紀後半のデンマークのユトランド半島の小さな漁村で、プロテスタント牧師の父を持った姉妹の下へ、パリ・コミューンにより父と息子を亡くした女性バベット(ステファーヌ・オードラン)が移り住んでくる。月日は流れやがて、知人にもらった宝クジで一万フランを得たバベットは、その金を使い村人たちのために晩餐会を開く。またバベットは、その類まれな料理の腕前から、かつてパリで人気だったレストラン「カフェ・アングレ」のシェフであることがわかる。
フランス女優ステファーヌ・オードランとその作品
クロード・シャブロル監督の「いとこ同士」(1959)に出演し、以後シャブロル作品に多く出演している。「女鹿」(1968)でベルリン国際映画祭 女優賞、「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」(1972)で英国アカデミー賞 主演女優賞を受賞した。この作品では、自身も英国アカデミー賞の主演女優賞に再度ノミネートされている。「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」の方はルイス・ブニュエル監督の作品で、主演一人というより群像劇的な映画だが、メディアのパッケージの彼女の写真は印象的。
私生活では、「男と女」のジャン=ルイ・トランティニャンとの短い結婚の後、1964年にクロード・シャブロルと結婚し、1980年に離婚。
クロード・シャブロル監督の作品は、スリリングで結構好きなのだけど、「肉屋」(1970)も結構よかった。低音で渋めのステファーヌ・オードランにはシャブロルの映画は似合う。
映画のセリフ
姉妹が若い頃に出会った男性達のうち、パリの男性声楽家は妹の方の音楽(歌手)としての才能を見抜きオペラ座に出演させたく稽古をつけていたが、実現できなかった。年月が経ち、声楽家も当時の人気は衰えたが、その妹のことを思い出し、“名声とは何か? 結局人は皆墓場に入るのだ。・・今、私は思う。墓場が最後ではないのだと”、亡くなっても、天使の声はあの世に届くといったニュアンスになる。洋画は字幕で観るので、なかなかセリフが頭に残ることはまれなのだが、このセリフは世俗的でなく宗教的な内容だが詩情にあふれ印象に残った。
その他にも、バベットの「貧しい芸術家はいません」等とか、村人の”舌という小さい筋肉”等のユニークな発言が登場するので、原作を読んでも面白いかもしれない。
この映画の3つの魅力!(ロマンティックな回想、仏語のアリア、料理)
この映画では、若い頃の美しい姉妹に惹かれた2名の男性(1人は声楽家)が、年月をへても、彼女達への色褪せない思いをロマンティックに演出している。
また言語はデンマーク語だけでなく、バべットと姉妹は仏語で会話している。モーツアルトの人気オペラ「ドン・ジョバンニ」の稽古ではイタリア語ではなくフランス語で歌われており、聴いたことがなかったので鳥肌がたった。(一応、少し練習した馴染みの曲の一つでもある。)
また晩餐会では“ウミガメのスープ”が横綱ではあるが、ウズラのトリュフ詰めパイ包み(仮)の大関、キャビアを乗せたブリニ(仮)、ヴーヴ・クリコ、ワイン(クロ・・)等が正統派のフランス料理として登場するのも、魅力的すぎる(さすが、大道の料理映画)。