2024年に観た映画(7) 「コット、はじまりの夏」
物語の背景となるアイルランドの暮らしぶりやこの一家の状況が判らず、冒頭戸惑う。学校でも家族の中でもうまくやれない少女コットが、夏休みに1人預けられた親戚夫婦との生活の中で、人生の宝物のような時間を手にする物語。
もう、あれです。アイルランド版「アルプスの少女ハイジ」です。「カルピスまんが劇場」のです。厄介者の如く1人だけ預けられた親戚夫婦の許で、彼女が手にしたかけがえのない時間が、その成長と共に綴られる。
着の身着のまま1人置き去りにされたコットに、最初から愛情を注ぐ妻アイリン。無口だが徐々にコットを受け入れる彼女の夫ショーンの姿は、おんじそのもの。コットの一番の理解者となった彼が、彼女を肯定し海辺で優しく語り掛ける言葉が心に沁みます。
夏休みの終わりと共に訪れる、かつての現実への帰還。誠実で分別ある夫婦が彼女を送り届けるその背中に、涙が止まりません。まるでハイジがフランクフルトに連れていかれるシーンで終わりを迎えるような終焉に、観客も彼女の幸せを只々祈るしかありませんでした。
そのラスト、彼女が口にした言葉は果たしてどちらに向けられたものだったのか。
スタンダードサイズ(1.37:1)で撮影された本作。
「物語も彼女の視点を通して描かれるため、まだ自分の周囲の世界を理解していない、視野もまだ広がっていない少女の視点を提示したかった」からだそうです。
昨年(2023年)のアカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされていました。原作は英語でありながら、これが長編映画初監督となるコルム・バレード監督はアイルランド(語)への愛着とこだわりを見せている。その結果のノミネートとなり、日本での公開にも繋がってくれた。
公開が遅い!という気持ちと、公開してくれてありがとう!という気持ち半々です。観に行ってよかったと思える作品でした。
№7
日付:2024/2/4
タイトル:コット、はじまりの夏 | AN CAILIN CIUIN
監督・脚本:Colm Bairead
劇場名:あつぎのえいがかん kiki スクリーン3
パンフレット:あり(¥900)
評価:6.5
<CONTENTS>
・イントロダクション
・ストーリー
・キャスト・プロフィール
・コルム・バレード監督インタビュー
・スタッフ・プロフィール
・エッセイ 彼女の長い足は 小川沙良(文筆家・映画作家・俳優)
・コラム 二言語併用の時代背景とその意味 梨本邦直(法政大学理工学部教授)
登場人物の中で唯一英語しか喋らないのが、コットの父ダンなのだそうです。アイルランドの歴史と共に彼の立場を語る解説は、大変興味深く参考になった。
・コラム 大森さわこ(映画評論家・ジャーナリスト)
・イラスト(トモマツユキ)